ジュリーニ/コンセルトヘボウ/ドヴォルザーク交響曲第8番 | geezenstacの森

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ジュリーニ/コンセルトヘボウ
ドヴォルザーク交響曲第8番

曲目/
ドヴォルザーク/交響曲第8番ト長調 作品88
1.第1楽章 Allegro con brio 11:18
2.第2楽章 Adagio 11:43
3.第3楽章 Allegretto grazioso - Molto vivace 7:19
4.第4楽章 Allegro ma non troppo 11:43
ラヴェル/組曲「マ・メール・ロア」*
5.眠りの森の美女のパヴァーヌ 1:56
6.おやゆび小僧 3:58
7.パゴダの女王レドロネット 4:12
8.美女と野獣の対話 5:26
9.妖精の園 4:03

 

指揮/カルロ・マリア・ジュリーニ
演奏/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

 

録音/1990/12/13,14
1989/11/23,24* コンセルトヘボウ、アムステルダム
 
P:デヴィッド・モットレー
E:シド・マクラクラン、アンドレアス・ノイブロンナー*

 

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 若い頃はオペラ指揮者として名を成したジュリーニですが、1960年代以降はもっぱらコンサート指揮者として我々の前に登場して来ます。EMIからのフィルハーモニア管弦楽団を振った一連の録音はその最初に注目された一連のものでしょう。まあ、小生が一番最初にジュリーニを見初めたのは彼がシカゴ響を振って録音したストラヴィンスキーの「火の鳥・ペトルーシカ」でした。ここでは、シカゴ響の優れたアンサンブルをバックにジュリーニらしい明晰な分析と歌心が合わさった演奏という事で注目しました。それからでしょう、フィルハーモニア時代に戻ってブラームスやなんかを聴いたのは。

 

 ところで、ジュリーニは思いのほか得意なレパートリーは少ない指揮者です。このドヴォルザークの第8番にしても、既に3回目の録音です。第1回フィルハーモニアとEMIに、2回目はシカゴ響とDGGに、そして3度目はコンセルトヘボウとSONYへという具合です。まあ、これをしたに比較してみましたが、だんだんと遅くなっているのが分かります。一般的な指揮者が辿る道を歩んでいるのが分かりますが、ジュリーニの場合、少し違うのは録音技術の進歩とともに音のダイナミックレンジが広くなっているのと、音楽の味付けが濃厚になっていっている点です。

 

交響曲第8番比較
演奏者 第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
ジュリーニ/フィルハーモニア'62 10:11 10:57 06:55 10:03
ジュリーニ/CSO'78 10:48 11:25 06:48 10:38
ジュリーニ/RGO'90 11:17 11:38 07:17 11:34
カラヤン/VPO'61 09:53 11:09 06:07 09:35
セル/クリーヴランド'70 10:42 10:30 06:35 09:27
ケルテス/LSO'63 10:01 09:59 06:00 08:58

 はっきりいって、ここまで遅いテンポで演奏されると、オーケストラが付いて行くのも大変でしょうが、聴く方も、これをドヴォ8として聴くのではなくジュリーニの芸術として聴くという心構えが必要になって来ます。とくに第3楽章なんかはその最たるもので、Allegretto grazioso - Molto vivaceで、形式としてはスケルツォではありません。そんなこともあってジュリーニは、思いっきりワルツのリズムでそれもカンタービレを効かせてこの楽章を歌い上げています。ちょっと調べた中ではこの楽章を7分以上かけて演奏している指揮者はいませんでした。多分、オーケストラの力量もあるのでしょう。小生は指揮者と合わせる事の上手いオーケストラの筆頭はこのコンセルトヘボウだと思っています。ベルリンフィルは機能性で合わせますし、ウィーンフィルは自分たちの領分は守った上で指揮者に追従します。しかし、コンセルトヘボウはお国柄というか、自分たちの立ち位置を一歩引いたところにおいて、指揮者を立てていきます。こういうポジションがあるからこそ、名だたるオーケストラの中では最初にアーノンクールと組んでピリオド奏法も取り入れたモーツァルトも録音する事が出来たし、世界の評論家の評価も高い所以なんでしょう。またアンサンブルも良いから、セルでも安心して客演する事が出来たのでしょうな。

 

 さて、この流れで第4楽章も演奏が続いていきます。この楽章でも11分半ばでの演奏です。記憶にある中で11分以上はライブですが朝比奈/大阪フィルの愛知芸術劇場でのえんそうで、11:03というものがあるくらいです。ここまで遅いと、ボヘミアの雰囲気とかAllegro ma non troppoの躍動感というものは感じられません。それでも、この音楽に浸る事が出来るのはジュリーニの懐の深さでしょう。オーケストラも素晴らしい集中力でジュリーニの棒に応えています。この第4楽章は希代の名指揮者ジュリーニがいて、ロイヤル・コンセルトヘボウ管という名器があり、さらにはコンセルトヘボウというホールがあって初めて完成された音楽になっている様な気がします。こういうドヴォルザークは多分今後聴く事は出来ないものでしょう。ここでは、白眉の第4楽章を取り上げてみましょう。

 

 

 ジュリーニの演奏ではあまり録音について書かれる事はありませんが、ステレオ初期、アナログ末期、そしてデジタルと歩んできた録音史の中でその節々にこのドヴォルザークの交響曲第8番とラヴェルの「マ・メール・ロア」を取り上げています。そこには何処かしらジュリーニのこだわりを感じます。こちらはフィルハーモニア'56、ロスフィル'79があります。原曲は、友人の子供のために作曲したピアノ連弾曲ですね。ま、連弾曲はあまり聴きませんから、もっぱら耳にするのはその管弦楽版です。「マザー・グース」を題材にして作曲したということで、タイトルはそれに相応しいものがつけられています。

 

 第1曲「眠りの森の美女のパヴァーヌ」は、タイトル通りファンタジックなメロディラインを持っており、木管と弦楽セクションのデリケートな響きの掛け合いに魅了されてしまいます。まあ、菊法としては、ドヴォルザークとの落差にびっくりさせられる部分もありますけれども。ただ、ここでは録音エンジニアの違いからか、音色的には明るい色合いで録られているのでコンセルトヘボウの特色は幾分くすんでしまっている様な気がします。そういう、音色の違いもこのアルバムでは味わう事が出来ます。

 

 第2曲「おやゆび小僧」も、秘やかでシックなヴァイオリンの音色が素晴らしく、続くオーボエの哀しみを含んだ色合いもさすがです。この曲ではくすんだ、渋い響きはコンセルトヘボウの雰囲気を上手く捉えています。ジュリーニはソロは演奏者任せの様ですが、幻想的な雰囲気をカンタービレに乗せて色彩的な変化を見事に演出しています。まあ、ラヴェルの編曲の妙がそのまま味わえるといってもいいでしょう。

 

 第3曲「パゴダの女王レドロネット」はもともと軽快な曲ですが、 ハープに導かれた冒頭のフルート・ソロが見事です。ジュリーニの棒で聴くと、コンセルトヘボウの深みのある低弦が幻想の森に誘ってくれます。ゴダとは中国製の首振り陶器人形のことですが、音楽のバックに宮崎アニメの世界が広がってくる様な雰囲気が味わえます。続く第4曲の「美女と野獣の対話」はゆったりとしたワルツのリズムで演奏されます。美女を表すクラリネットと、野獣のコントラ・ファゴットの音がまた素晴らしい雰囲気を醸し出しています。コーダの音が消えてゆく瞬間の美しさは絶品です。その消えていった響きの中から、また終曲の「妖精の園」が始まります。ここではコンセルトヘボウのストリングスが美しさが堪能出来ます。ソロ・ヴァイオリンの高音の細身の音も、匂うような美しさです。コンセルトヘボウ管のコンサートマスターはヘルマン・クレバースぐらいしか知られていませんが、1990年頃は今や指揮者として活躍しているヤープ・ヴァン・ズヴェーデンがトップに座っていたはずですから、彼のソロかもしれません。ここではその終曲を聴いてみます。

 

 

 のちに、この「マ・メール・ロア」はドビュッシーの「海」とカップリングされたものも発売

 

 

 

されましたが、たしかにそういう組み合わせの方が納得して鑑賞出来ます。