
一年前にホステス大和田絹代が絞殺された事件は、未解決のままだった。絹代は当時、車で人身事故を起こして調停裁判中の身であった。そして、捜査陣を嘲笑するかのように、事故当時絹代の車に乗っていた若い女が惨殺される! 迷宮(おみや)入りの事件を必死で追う迷宮捜査官の執念と名推理! 大好評「捜査官シリーズ」力作第二弾!---データベース---
先に取り上げた「科学捜査官」に次いで昭和52年に発表された作品です。こちらも書き下ろしです。タイトルは違っていますが、こちらにも湯浅警部をはじめ、前作の科学捜査管の面々が登場しますので一応連作と考えても良い様なところがあります。迷宮入り事件の捜査は、ウィキによると2010年に『未解決事件を専門に扱う警視庁の特命捜査対策室が発足して長期捜査となっている事件を最新技術を使って再捜査して、実際に検挙している。』と書かれています。調べると、捜査第一課(強行犯つまり殺人、強盗、暴行、傷害、誘拐、立てこもり、強姦、放火などの凶悪犯罪で暴力団が関与していない事件、刑事事件関係の失踪者の捜索)の中の第五強行犯捜査-特別捜査第1、第2係が未解決事件の継続捜査を行っています。
ところが、この小説では発表される2年前(という事は昭和50年?)に誕生した事になっています。一課第5係の主任であったこのストーリーの主人公湯浅警部が初代の継続捜査班の班長に任命されています。要するに前作から時系列的には続いている事になります。で、ここで登場する「青蓮院殺人事件」はまだ一年前の事件なんですが、上野署管内は凶悪事件が多いので早々と捜査本部は解散しています。そういう事で、この事件を迷宮捜査班が扱う事になるのです。
ところが、一年以上経って事件が動き出します。殺された絹代が起こした交通事故の関係者が次々と殺されていくのです。とても、迷宮事件の雰囲気はありませんが、とにかくこの事件の専従となった4人のデカ長、外野村、原、守田、八木が事件に奔走していきます。そこに科学捜査官の牧村香那子や浜松、徳丸といった技官も絡んできます。まあ、一つ疑問といえば、円城寺警部と結婚したはずの香那子が、ここではまだ牧村となっている事です。いちおう、ストーリーの中では香那子とだけ表記されていて、結婚をにおわせているのですが、中盤の「白鳥は語らず」の章で、計らずしも、牧村香那子で登場しています。謎です。
しかし、ただの捜査モノだけではなく、ちゃんと刑事物としての恋愛ドラマも描き込まれていて、作品としてはサイドストーリーもしっかりしていて楽しめます。もう一つ、この事件では人工授精という社会性を取り扱っています。ま、その事もあって事件には意外な人物が潜んでいる事になります。それが、第1章の「暗い雨の記録」の中にちゃんと暗示されています。
一人のヒーローを作る事なく、実際の集団による捜査が主体になっている点で、現実に即したストーリー展開になっている点も評価出来ると思います。この作品、出来れば先に「科学捜査官」を読んでおいた方がより楽しむ事が出来るでしょう。現在はどちらも光文社文庫になっていますが、既に絶版かも・・・
ところで、こういう迷宮事件を扱ったテレビドラマの「おみやさん」がこの4月から「新・おみやさん」としてテレ朝に登場します。こちらは原作は漫画家の石ノ森章太郎氏ですが、原点はこの島田氏の「迷宮捜査官」でしょう。