ザンデルリンク
ベートーヴェン交響曲第2、4番
ベートーヴェン交響曲第2、4番
曲目/ベートーヴェン
Symphony no. 2 in d, op. 36
1. Adagio molto - Allegro con brio 14:21
2.Larghetto 13:34
3.Scherzo. Allegro - Trio 4:02
4.Allegro molto 6:57
Symphony no. 4 in b flat op. 60
5. Adagio - Allegro vivace 12:41
6.Adagio 10:46
7.Menuetto. Allegro vivace - Trio. Un poco meno allegro 6:09
8.Allegro ma non troppo 7:35
指揮/クルト・ザンデルリンク
演奏/フィルハーモニア管弦楽団
演奏/フィルハーモニア管弦楽団
録音/1981/01/08-10、12-17 アビー・ロード第1スタジオ、ロンドン
1981/01/04-07 ウォルサムストウ・タウン・ホール
1981/01/04-07 ウォルサムストウ・タウン・ホール
P:ビートリックス・ムスカー
E:クリストファー・パーカー
E:クリストファー・パーカー
DISKY CLASSICS BX704652

ザンデルリンクが亡くなって早5ヶ月が過ぎようとしています。享年98歳。1912年9月19日に生まれ、亡くなったのは2011年9月18日でした。あとわずか1日で99歳の誕生日だったんですね。まあ、天寿を全うしたと言ってもいいでしょう。そんなことで各社から追悼盤が年末から今年にかけて発売されています。そして、ここで取り上げているベートーヴェンの交響曲もタワーレコードのオリジナル企画でこの3月16日に発売されます。これまでLP時代に数曲が発売されましたが全曲録音されているのに国内盤は遂に発売されませんでした。そして、何とCD時代になっても東芝EMI時代には一曲もCD化されていません。このブログでは再三にわたって取り上げて来ましたが、ついに国内盤で全集として登場します。なを、輸入盤時代は収録の関係で交響曲第1番の第4楽章が交響曲第9番の冒頭に収録されるという変則の形になっていたのですが、タワーレコードからの発売はCD6枚組になってすっきりとした形で発売になります。また、輸入盤ではカットされていた序曲3曲もプロメテウスの音楽とともに収録されていてLP時代と同様な全集の形になっています。何よりも嬉しいのはLP時代のオリジナルジャケット仕様で、価格も4,800円とバジェットプライスで発売される事です。

このセット、最新マスターを使用しているという事なので期待出来ます。EMIは先のカラヤンの全集でもそうなんですが、一度デジタルマスタリングするとずっとそのマスターを使用しています。ちなみにここで取り上げるDISKY盤は1998年のマスタリングです。ところで、前も書きましたが、これは正式なEMIの録音ではなくこのCDでも、EMIからのライセンスと謳ってあるのは交響曲第9番を収録してあるCDだけです。この第2、4番は「BAT」という事になっています。
さて、ザンデルリンクとフィルハーモニア管弦楽団の組み合わせは珍しいと思われる方もいようと思いますが、意外な結びつきがあります。ザンデルリンクは元々は東独で長く活躍していましたが、なんと西側での最初の演奏会の成功がクレンペラーの代役だったといいます。当のクレンペラーはフィルハーモニア管弦楽団の主席でしたし、ザンデルリングは、クレンペラーが亡くなった後のニュー・フィルハーモニア管弦楽団の最初の演奏会を指揮した人物でもあります。まあ、そういう関係もあり、この時代ムーティが首席指揮者ではありましたがすでに次のポストのフィラデルフィアへ気持ちがいっていましたので影ではザンデルリンクが客演指揮者という形で支えていました。そんな時に、このベートーヴエンの連続演奏で成功するもんですから当時のパトロンであった英タバコ会社のBATがスポンサーになってこの全曲録音が完成します。それも、1981年の1月から2月にかけての短期間で一気に録音しています。ただし、EMIはムーティ/フィラデルフィアでベートーヴェンの交響曲全集を計画していたのでこのザンデルリンク盤はライセンス販売という形でおざなりに発売しただけでお茶を濁しました。何しろ時代はデジタル時代の幕開けでソースとしては出来るだけ早く他社に負けずラインナップが欲しかったのでしょうね。ただし、ムーティのベートーヴェン交響曲全集が完成したのは1988年です。
ここでのザンデルリンクは60年代の充実した演奏を繰り広げています。まさにフィルハーモニアに取ってはポスト・クレンペラーの様な風格でこの全集に取り組んでいます。ただ、短期間で収録したために録音会場はアビー・ロードスタジオやウォルサムストウ・タウン・ホール、そしてキングスウェイ・ホールと空いている場所を探してのセッションとなっています。まあ、そういうハンデはこの全集では感じられません。嬉しいのは当時のEMI録音の安っぽさがここでは感じられない事です。
交響曲第2番は冒頭から強烈なフォルテで開始されます。序奏部は緩やかだけにこのコントラストには驚かされます。そして聴こえてくる音楽はクレンペラー時代のドイツ色を残した無骨な響きです。多分当時のイギリスの聴衆もこういう演奏を聴いてクレンペラー時代を思い出したんではないでしょうかね。どちらかというとこの時代のムーティの演奏はどこかスポーツカーを乗り回している様な爽快感こそありましたが、響きがちょっと軽くなっている感がありましたからね。で、ザンデルリンクはゴツゴツとした感じでアクセントを強調しながらオーケストラをドライブしていっています。
ザンデルリンクは実際には第4楽章を除いてはクレンペラーよりも遅いテンポを取っています。でも、この重厚感はクレンペラーと近似していたんでしょうなぁ。安定した響きをここでは感じる事が出来ます。第2楽章のラルゲットは1楽章の激しさとは対照的な慈愛に満ちた響きです。美しい旋律で、ベートーヴェンとしては珍しく歌詞を付けて歌曲にも転用されたメロディラインを持っています。そういう旋律をザンデルリンクはしっかりとオケに歌わせています。
第3楽章は、ベートーヴェン初のスケルツォです。第1番では複合三部形式でしたからね。この第2番でベートーヴェンの交響曲に対する骨格の形が出来上がったといってもいいでしょう。短い楽章ですが、ここでも、ザンデルリンクはアクセントを強調させて若々しいベートーヴェン像を描いています。
第4楽章はもう少し軽い雰囲気の方がいいのかなと思います。恰幅のいい表現でオーケストラをバランスよく鳴らしています。聴いた限りでは現在の標準的な配置での録音で対抗配置は取っていないようです。そこら辺がクレンペラーのアプローチと違うといえば違う点でしょう。とにかく、交響曲第2番をお腹いっぱいに聴いたという満足感はあります。ここでは第1楽章をさらってみましょう。
交響曲第4番の第1楽章も非常にゆっくりとしたテンポで開始されます。聴いているとオーケストラの演奏が止まってしまうのではと思わせるテンポです。楽譜の指定はアダージョで四分音符66ですから、そんなに遅くは無いんですけどね。でも、ここから主部に入るとアレグロ・ヴィヴァーチェでぐっと加速されます。この対比は効果的と言っていいでしょう。ここでは、ザンデルリンクの弱音処理が際立っています。そんなことでダイナミックレンジは広くなっています。多分アビー・ロードスタジオではフルオーケストラの響きではオーバーピークになってしまったかもしれません。良くしたもので、こちらはウォルサムストウ・タウン・ホールでの収録となっています。そんな事で余裕のある収録で音の混濁も無く安心して聴いていられます。エンジニアのクリストファー・パーカーはEMIの人間ですからそこら辺は心得たものです。この楽章は提示部の反復指示があり、クレンペラーとザンデルリンクはその指示に従っています。ワルターは提示部は反復していませんから上記の演奏時間の差が出ます。
第2楽章はしっとりとした表情のアダージョです。ザンデルリンクは他の曲でもそうですが、ティンパニの処理をやや強めに叩かせいてます。この楽章ではクラリネットが目立ちますが、まあ、ほぼおまかせの様な感じで吹かせています。さぞプレーヤーは気持ちよく吹いている事でしょう。それでも音楽のバランスがとれているところはさすがです。コーダのテインパニの一撃も効果的です。
第3楽章は性格的にはスケルツォですが、形式は複合三部形式を取っています。軽妙洒脱というスケルツォの趣旨とはちょっとかけ離れてリズムが重くなっているところがここでは乗り切れていないのかなぁと思わせてしまいます。アクセントの処理も今ひとつキレがありません。
これに反して、第4楽章はキレのあるリズムが復活し、どっしりとした安定感のあるリズムの中で音楽が躍動しています。どちらかというと偶数番号のベートーヴェンの作品は女性的という評価がつきまといますが、このザンデルリンクの演奏はそういう表現は似合いません。録音も低弦までバランスよく収録されていて音に厚みがあります。中間部では駆け出したくなる暴れ馬をぎゅっと手綱を引き締めて御している様なスリリングさがあります。風格のある演奏でフィルハーモニアを御したザンデルリンクに軍配が上がります。
こういう素晴らしい演奏が、今まで表立って日本では紹介されていなかったというのが不思議なくらいです。ザンデルリンクの録音はブラームスも素晴らしいですが、それと肩を並べるくらいこのベートーヴェンも素晴らしいと思います。この全集は買って損のないものでしょう。別にタワーレコードの宣伝をするわけではありませんが、リンクを貼っておきます。
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