ザンデルリンクのベートーヴェン交響曲全集 | geezenstacの森

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ザンデルリンクのベートーヴェン交響曲全集

曲目
1.交響曲第1番ハ長調OP.21
2.交響曲第2番ニ長調Op.36
3.交響曲第3番変ホ長調Op.55「英雄」
4.交響曲第4番変ロ長調Op.60
5.交響曲第5番ハ短調Op.67
6.交響曲第6番ヘ長調Op.68「田園」
7.交響曲第7番イ長調Op.92
8.交響曲第8番ヘ長調Op.93
9.交響曲第9番ニ短調op.125「合唱付き」
指揮/クルト・ザンデルリンク
演奏/フィルハーモニア管弦楽団,合唱団
合唱指揮/ハインツ・メンデ
ソプラノ/シーラ・アームストロング
メゾ・ソプラノ/リンダ・フィンニ
テナー/ロバート・ティア
バス/ジョン・トムリンソン
録音 1981/01-02
   アビーロード第1・スタジオ,ロンドン
P:ビートリックス・ムスカー
E:クリストファー・パーカー
DISKEY HR704632

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 ザンデルリンクのベートーヴェン交響曲全集は彼がイギリスで行った連続演奏会が好評で録音が実現したと言われています。そして、EMIにとってこれは初めてのデジタル録音によるベートーヴェンの交響曲全集でした。しかし、データを見ると正式なEMIの録音では無いようでクレジットを見ると「BAT」とか「Meregate」という会社名が表記されています。正式にEMIのクレジットされているのは第9番の録音だけです。また、オリジナルの発売時には「A du Mayrier」がスポンサーとしてクレジットされていました。1981年の録音でデジタルとしては最初期の物ですが非常に聴きやすいバランスです。EMIの録音は概してはずれが多いのですがこれは拾い物でした。低域が充分に広がりベートーヴェンの響きが十全に響きます。まあ、そんないきさつからEMIはこのザンデルリンクの全集を一度も自社で発売していません。

 この全集もライセンスによるもので「DISKEY Communacation」から発売されました。過去形ということは現在は廃盤になっています。売れなかったのでしょうね。まあ、作り方にも問題がありました、無理にCD5枚に収めたために交響曲第1番が1枚目に1-3楽章が、そして何と第4楽章だけ5枚目の第9番の前に第1トラックに収められているという不思議なセットになっています。これはザンデルリンクの演奏が全体に遅いテンポで演奏されているということで収まりきれなかった事にも原因はあるようです。こんなことなら、無理をせず6枚組で発売してくれれば良かったと悔やまれます。そうすれば、単発では収録されていた序曲も陽の目を見ることができたでしょうに、残念です。

 こんな全集ですが、演奏は立派なものです。最近ようやく手に入れることが出来ましたが、改めてザンデルリンクの演奏に感動しました。現段階では、所有する13種類の全集の中で最高のベートーヴェンとなりました。以下は個別に書いてきたザンデルリンクのベートーヴェンを一つに纏めてみました。

 東独系ではスゥイトナーやプロムシュテットが人気があり、「レコード芸術」誌の批評家やリーダーズ・チョイスの選出でもザンデルリンクは顔を出しません。ザンデルリンクの「英雄」はフィルハーモニア管弦楽団から重厚なサウンドを引き出して、どっしりとした「英雄」を描き出しています。1楽章の冒頭にしてもこれと言って特色は無いのですが、聴き進むにつれてぐいぐい引き込まれていきます。出だしの和音ではったりをかます指揮者が多いのですが、ザンデルリンクは全体の構成力で聴かせていきます。1楽章の提示部はリピートが入るので18分以上の快演です。また、最後のトランペットの旋律もオリジナルのままでやや控えめにして、木管でバランスを整え違和感の無い響きを作り出しています。

 交響曲第6番「田園」については手持ちの中ではコンヴィチュニーの演奏を上回り手持ちの中では2番目に遅い「田園」です。ただ遅いだけならこれ以上の演奏もあるでしょうが、実に堂々とした田園です。録音がすこぶる良く、各楽器のバランスがよく普段聞き取り難い内声部の音までクリアに拾っているので耳新しいメロディまで聞き取ることが出来ます。フイルハーモニア管弦楽団も好演で、指揮者のテンポによく付いていっています。田園はベートーヴェン自身で各楽章に標題が付いていてこの2楽章は「小川のほとりの景色」となっていますが、小生にはのどかな田園で農作業にいそしむ村人の楽しげな景色が目に浮かぶような演奏です。実に心地よく、ここでうたた寝をしてしまうこともしばしばです。第4楽章の嵐も鮮烈でそれに続く5楽章は手持ちでは一番演奏時間が長く、嵐の後の豊穣を感謝する旋律をとうとうと奏でています。ザンデルリンクの演奏は実にドラマチックで、聴く者を最後まで飽きさせません。

 交響曲第5番はこの全集で初めて耳にしました、ドイツの伝統を感じさせる風格のある演奏で改めて感動しました。何事にも動じない確固たるテンポでスケールの大きなハ短調の世界を描き出しています。第1楽章からして新しい発見です。決して大時代的な演奏でなく、それでいて運命の和音を適度なためをもって表現し、緊張感の中で大きな推進力を作り出しています。第2楽章も悠々自適のテンポで、こんな恰幅のいい演奏は久しぶりに聴きました。

 スケール感といえば、規模的にはやや小さい第1、第2交響曲もこんなにスケール感のある曲なのかと再認識させてくれました。フルオーケストラによるベートーヴェンの醍醐味を満喫させてくれます。そうかと思えば、第8番ではきびきびとしたテンポ設定で、快活なこの曲の陽の世界のベートーヴェンを披露しています。唯一、平凡に聴こえたのは第9で、最後のトリを飾るにはやや低調で、これは録音によるものか他に比べてスケール感に乏しく、それまでいいバランスで鳴っていたコントラバスが奥に引っ込んでしまっています。うーん、これだけがEMIのオリジナルの録音ということが災いしているのかなあ・・・。でも、演奏自体は立派です。これは、集中的に全曲を録音した成果でしょうね。

 最後に、ここまでじっくり聴かせるザンデルリンクの演奏時間を列記してみます。

曲目第1楽章第2楽章第3楽章第4楽章第5楽章
交響曲第1番9:518:543:4316:02
交響曲第2番14:1713:313:586:51
交響曲第3番18:3217:276:2913:21
交響曲第4番12:3610:406:047:34
交響曲第5番8:0410:386:0510:23
交響曲第6番11:1213:205:573:5310:37
交響曲第7番14:0910:039:417:15
交響曲第8番10:044:285:518:11
交響曲第9番17:2110:3217:1826:12

 それにしても、ゆったりしたテンポのベートーヴェンです。機会があれば、ぜひとも一度この演奏を聴いてみて下さい。何かしら、新しい発見の出来る演奏である事は請け合いです。