
子どもの頃の思い出、ウィーン留学やコンクールの体験談、現在の活動や思いを、飾ることなく自分の言葉で綴る。『ピアノの本』連載をもとに、インタビューや書き下ろしを加えた自伝的エッセイ。貴重な写真も満載。---データベース---
ピアニスト三輪 郁さんのエッセイ集です。2004年に発売されました。ということは、のだめでブレークする前ですな。「のだめカンタービレ」のサントラ盤を手にした人ならこの名前を見かけなかったことは無いでしょう。彼女こそ、のだめに成り変わって演奏していた本人の一人なんですから。シューベルトのピアノソナタ第16番やドビュッシーの「喜びの島」、それにベートーヴェンのヴァイオリンソナタの千秋の演奏も彼女のものです。そういうことでは、かなり近しいものを感じるのではないでしょうか。下がそのシューベルトの音源です。
かく言う小生もこの曲の演奏を聴いて、曲に目覚めましたし演奏者も知りました。曲自体ものだめが放送されるまであまり注目されなかった作品で、一部のピアニストしか取り上げない理パートリーであった様に思います。そういう作品ですが、彼女自身もこの作品を正式に録音していて、自身のレーベルから2009年にアルバムが発売されています。

◆2つのスケルツォより 第1番変ロ長調(1817年)
◆ピアノソナタ第16番 イ短調(1825年)
◆楽興の時 全曲(1823~26年)
価格:2,800円(税込) ◆ピアノソナタ第16番 イ短調(1825年)
◆楽興の時 全曲(1823~26年)
規格品番: MOOM-7002
販売元:キングインターナショナル
発売元:風樂 発売:2009年11月4日
そういうことが頭にあったものですから、古本屋でこの本を見つけた時には迷わず手に取ってしまいました。ただ、買っても積んどく本の中に紛れ込んでいましたから読んだのはつい最近です。エッセイ集といっても書き下ろしではなく、ヤマハのPR誌「ピアノの本」の2001年9月号から2003年3月号まで連載されたものがもとになって出版されています。一つ一つは独立したものですが、彼女の幼少時代からのエピソードを順に語っています。まあ、下の紹介文の様に音楽一家に育っていますから環境としては申し分ないでしょう。ちなみに父親はNHK交響楽団のトロンボーン奏者として1966年に入団し1999年までの33年間活躍した三輪純生氏です。
エピソードで面白いのは最初はヴァイオリニストを目指していたのですが、どうにも左利きが直らないためピアノに転向したということです。左手が自在に使えるということは、どうにも右手と左手のバランスが悪い小生にとってはうらやましいことでなりません。本人にとってはピアニストになっても左手のアタックが強くてバランスをとるのに苦労するというようなことが書かれていますが、上のシューベルトの演奏を聴いても、反ってそれぐらいのバランスの方が曲の魅力が引き立っていいような気がするのですがいかがなものでしょう。
師事した先生のところにハンス・グラーフの名前があるのでびっくりしました。オーストリア人で、ザルツブルク・モーツァルテウムに関係しているということで読みながら疑問に思っていましたが、ピアノ教師という経歴と指揮者という経歴がクロスしませんからどうも指揮者のハンス・グラーフとは同姓同名ですが別人のようです。


のだめはパリ音楽院のオクレール氏に学びますが、三輪さんはウィーンはザルツブルクのグラーフ氏に学ぶわけです。やはり、留学して現地で音楽を学ぶということはそれなりのメリットがあるようで、コンクールに出て現地の指揮者のクラウス・ヴァイゼ氏の目にとまり、ソリストとして演奏する機会を得たり、ピンチヒッターの指揮者のアリ・アジライネン氏と意気投合してコンサートに招聘されたり、また、ザグレブでは現地のロックグループと出会いセッションをしたり、という出会いが書き記されています。人との出会いが彼女のチャンスを拡げていることが分かります。室内楽奏者としての活躍も目覚ましく、ウィーンフィルのメンバーとの共演もしばしばです。単独のCDとしてリリースされているのは僅かしかありませんが、何でもこなせるピアニストとして注目していきたいと思います。
三輪 郁 今、もっともウィーンの薫りを伝え得ると思われる、日本人ピアニスト 「三輪 郁」は、ウィーン・フィルの首席奏者たちから大きな信頼を得ており、コンサートマスターのライナー・キュッヒル、ライナー・ホーネック、さらにベルリン・フィルの首席奏者 エマニュエル・パユ(フルート)などとも共演している。 代々音楽家の家系に生まれ、優れた音楽環境の中で育った三輪 郁は、幼少期からピアノに親しみ、三浦みどり、大島久子、ハンス・グラーフらに師事している。桐朋女子高等学校を経て、ウィーン国立音楽大学及び大学院に学んだ三輪 郁は満場一致の最優秀で修了、オーストリア政府からその業績が表彰された。その後はイタリアのフィナーレ・リグレにおける“パルマ・ドーロ”国際コンクールにおいて第一位に選ばれた他、ドイツ・ドルトムント国際シューベルトコンクールや浜松国際ピアノコンクールなどでも入賞している。これを契機にウィーンを拠点とした演奏活動が本格化。ウィーン楽友協会・ウィーン・コンツェルトハウスでのコンサートの他、ドイツ・ハレ歌劇場管弦楽団、ノルウェー放送交響楽団、北京交響楽団などと共演、日本でも新日本フィル、東京フィル、東京シティフィル等、ソリストとして共演する他、NHK交響楽団や新日本フィルなど日本のコンサートマスター、首席奏者たちとの室内楽コンサートでの数多くの共演を通じての音楽的信頼も厚い。 東京においては2003年から2006年まで、ウィーン時代のモーツァルトに焦点をあてたコンサートシリーズ『4254日の奇蹟~ウィーンのモーツァルト』を企画開催し、大きな注目を集めた。ピアノのためのソロ作品のみならず、オペラや管弦楽作品のピアノ版演奏、更にピアノ協奏曲を含む5公演はウィーンの空気をふんだんに吹き込むような演奏で魅了し高い評価を得た。その一方で、テレビ番組化されたドラマ『のだめカンタービレ』(フジテレビ)をはじめ『のだめ』関連のピアノ音楽監修や落語家 春風亭小朝とのコラボレーション、さらにエッセイを出版するなどその活動は多彩を極めている。2008年には、初のソロCD『バルトーク:ピアノ作品集』、さらに2009年秋にはシューベルト作品(上記CD)もリリースされた。ソリストとして、室内楽奏者としてウィーンの演奏様式を伝承する魅力溢れる音楽家 「三輪 郁」は、古典から現代における幅広いレパートリーを持つピアニストとして、今後一層の活躍が多いに期待されている。