英誌の選んだ世界の20大指揮者 | geezenstacの森

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英誌の選んだ世界の20大指揮者

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 レコ芸9月号に「名演奏家ランキング&名盤選 指揮者編」の結果が発表されていました。以下、転載します。(*は現役指揮者、他は物故指揮者)
 ・1位 ヴィルヘルム・フルトヴェングラーイメージ 2
 ・2位 ヘルベルト・フォン・カラヤン
 ・3位 レナード・バーンスタイン
 ・4位 アルトゥーロ・トスカニーニ
 ・5位 カルロス・クライバー
 ・6位 ブルーノ・ワルター
 ・7位 オットー・クレンペラー
 ・8位 エフゲニー・ムラヴィンスキー
 ・9位 ジョージ・セル
 ・10位 ハンス・クナッパーツブッシュ
 ・11位 セルジウ・チェリビダッケ
 ・12位 カール・ベーム
 ・12位 シャルル・ミュンシュ
 ・14位 ニコラウス・アーノンクール*
 ・15位 カルロ・マリア・ジュリーニ
 ・15位 ゲオルグ・ショルティ
 ・15位 ピエール・ブーレーズ*
 ・18位 ピエール・モントゥー
 ・19位 クラウディオ・アバド*
 ・20位 フリッツ・ライナー
 ・21位 カール・シューリヒト
 ・22位 ウィレム・メンゲルベルク
 ・23位 ラファエル・クーベリック
 ・24位 ギュンター・ヴァント
 ・25位 朝比奈隆
 ・26位 クラウス・テンシュテット
 ・27位 レオポルド・ストコフスキー
 ・28位 ユージン・オーマンディ
 ・29位 カール・リヒター
 ・30位 ベルナルト・ハイティンク*
 ・特別枠1 サイモン・ラトル*
 ・特別枠2 小澤征爾*

[選者・執筆者]
相場ひろ 浅里公三 岩下眞好 歌崎和彦 大木正純 岡本 稔 草野次郎 國土潤一 斎藤弘美 柴田龍一 中村孝義 那須田務 増田良介 満津岡信育 諸石幸生 矢澤孝樹 安田和信 吉井亜彦 芳岡正樹(※月評担当者以外の評論家の方を中心に選出しているようですが代わり映えがしません)

 このランキングは2009年12月号のランキングをもとに、ランクインした指揮者たちそれぞれの代表盤を複数の選者が投票し、そのベスト3を抽出するとい形になっていました。つまり、レコ芸の名曲名盤300でやっている投票を、曲ごとではなく指揮者ごとにおこなうというものです。例えば、ベートーヴェンの第9のベスト3を選ぶのではなくて、フルトヴェングラーの代表盤を3つ選ぶということですな。そのフルトヴェングラーはベストが「バイロイトの第九」なのは順当なところですね。2位が「英雄」の52年EMIのセッション盤なのは繰り返し発売され、カタログから消えたことが無いというところからの人気なんでしょう。面白いのは、2位のカラヤンはベストが新ウィーン楽派管弦楽曲集というマニアックなものです。リアルタイムでこの新譜に接し、レコードアカデミーも受賞した名盤ですから異論はありません。こういう作品とかオペラ間奏曲集なんてレコードはカラヤンしか考えないですからね。まあ、他の指揮者も時々ドキッとする様なディスクが選ばれていますが、それは選者の普段は選べない様なマニアックな嗜好が働いているからではないでしょうかね。

 実はこれよりももっと面白いランキングがあります。イギリス「BBCミュージック」が今年4月号で発表した「世界の20大指揮者」で、選者はなんと現役の指揮者100人というユニークな視点でのアンケートです。レコード会社のしがらみが無い、ピュアな同業者の選出ですから傾聴に値します。そのランキングは以下の通りです。
 ・1位 カルロス・クライバー
 ・2位 レナード・バーンスタイン
 ・3位 クラウディオ・アバド
 ・4位 ヘルベルト・フォン・カラヤン
 ・5位 ニコラウス・アーノンクール
 ・6位 サイモン・ラトル
 ・7位 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
 ・8位 アルトゥーロ・トスカニー
 ・9位 ピエール・ブーレーズ
 ・10位 カルロ・マリア・ジュリーニ
 ・11位 エリオット・ガーディナー
 ・12位 ジョン・バルビローリ
 ・13位 フレンツ・フリッチャイ
 ・14位 ジョージ・セル
 ・15位 ベルナルト・ハイティンク
 ・16位 ピエール・モントゥー
 ・17位 ニエフゲニー・ムラヴィンスキー
 ・18位 コリン・デイヴィス
 ・19位 トーマス・ビーチャム
 ・20位 チャールズ・マッケラス

 どうです,この顔ぶれ。評論家とか、愛読者とはちょっと異なる視点でのランキングは興味がわきますね。指揮者からみて、カルロス・クライバーの人気が1位(ダントツの32票)というのは驚かされます。晩年はキャンセルにつぐキャンセル、レパートリーも決して多くなかったし、記録によれば、生涯を通じての管弦楽の公演が96回、オペラ公演が約400回だったといいます。この程度の公演回数なら、売れっ子の指揮者なら、数年でやってしまう回数に過ぎません。でも、演奏の燃焼度が違ったんでしょうな。同業者なら、こういう演奏をしてみたい、じっくりと時間をかけて満足のいくオペラを演奏したいという,半分うらやましさもある様な選出の様な気がしてしまいます。紙面のインタビュー記事でスサンナ・マルッキは「大音量スピーカーを通してでも、彼(クライバー)の音楽への無垢な愛情が聴き手に伝わり、独特な方法で聴き手を音楽へと参加させている」と答えているのが印象的です。ま、ここにも国民性は出ていて、ずらっと並んだ名前はイギリスの楽団に登場していた指揮者が多いということも見て取れます。さしずめ、ガーディナー、デイヴィス、ビーチャム、マッケラスなんかはそんな様な気がします。ただ、ボールトやイギリス国籍を持っていたショルティの名前がここに無いのは意外です。ショルティはやっぱ人気無かったのは日本だけじゃなかったんだ、と変に納得してしまいます。

 さて、記事の中で主な指揮者が挙げている3人を列記してみましょう。

・アシュケナージ……フルヴェン、カラヤン、アバド
 ・ボニング……C.クライバー、セラフィン、クラウス 
 ・ビシュコフ……Cクライバー、カラヤン、ムーシン 
 ・シャイー……C.クライバー、トスカニーニ、アバド 
 ・クリスティ……ラインスドルフ、バーンスタイン、ラトル 
 ・D.R.デイヴィス……ジュリーニ、ゼッキ、バーンスタイン 
 ・C.デイヴィス……ボールト、ケンペ、C.クライバー 
 ・ドゥダメル……C.クライバー、バーンスタイン、カラヤン 
 ・デュトワ……アンセルメ、カラヤン、ミュンシュ 
 ・ガーディナー……モントゥー、ケンペ、マッケラス 
 ・I.フィッシャー……バーンスタイン、マーラー、クレンペラー 
 ・ガッティ……クレンペラー、トスカニーニ 
 ・ゲルギエフ……フルヴェン、ミトロプーロス、バーンスタイン 
 ・グッドマン……トスカニーニ、マッケラス、ノリントン 
 ・アーノンクール……Eクライバー、フリッチャイ、セル 
 ・ヘレヴェッヘ……ガーディナー、アーノンクール、アバド 
 ・ホーネック……C.クライバー、アーノンクール、ムーティ 
 ・ヤーコプス……バーンスタイン、アバド、ラトル 
 ・ヤンソンス……C.クライバー、ムラヴィンスキー、カラヤン 
 ・K.ヤルヴィ……バーンスタイン、C.クライバー、父ヤルヴィ 
 ・N.ヤルヴィ……クナ、シェルヒェン、パレー 
 ・P.ヤルヴィ……父ヤルヴィ、バーンスタイン、フルヴェン
 ・オスモ・ヴァンスカ……パーヴォ・ベルリンド、バーンスタインブーレーズ
 ・ペトレンコ……リュリ,ヨハンシュトラウス2世、ルイ・アントワーヌ・ジュリアン
 ・尾高忠明……カール・シューリヒト、カイルベルト、マタチッチ
 ・鈴木雅明……カール・リヒター、アーノンクール、バーンスタイン

 ヤルヴィの息子二人が揃って父親の名前を挙げているのはご愛嬌でしょう。尾高忠明はBBCウェールズ響と深い関係にありますから100人の指揮者に選ばれても不思議はありませんが、チョイスしたのがカイルベルト、マタチッチというのは日本ではNHK交響楽団を振ってそれだけ親しみがあったからなんでしょうね。興味深いのはペトレンコの選んだ3人でしょう。確かにここで選ばれている3人は歴史的にはちゃんと指揮者としても活躍していますし,BBCミュージックのこの企画、トップの表紙には「The Greatest Conductors of all the time」となっていて時代の制限はありません。この企画自体をおちょくっているともうけとれますが、それをいうならBBCミュージック自体の表紙もひとつのジョークです。何しろ6人の指揮者があしらわれていますが,トップの栄誉を掴んだクライバーはそこにはいません。 111

 さて、この号の一般記事の冒頭にはアメリカのデトロイト交響楽団のストライキ突入の記事が掲載されています。この記事の通り、2010-2011シーズン入りはストライキによってコンサートが実際キャンセルされていました。この記事ではこのまま交響楽団が「消滅」してしまうことも十分考えられる、としていましたが、その後は何とか解決した模様で、結局は双方の痛み分けで終焉したようです。


 この紙面の記事ではありませんが、4月には名門のフィラデルフイア管弦楽団が連邦倒産法第11章(日本で言う民事再生法)による破産申請を行っています。アメリカ経済が思っているよりひどい状況だということなのでしょうね。株価も低迷するわけです。