ホグウッドの「イタリア・バロック音楽名曲集」 | geezenstacの森

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ホグウッドの「Conerto'per Flautino」

曲目/
1.Vivaldi/Torio Sonata In D Minor Rv63「 La Folia」 9:14
Marcello/Concerto for Oboe in D minor
2. Andante E Spicato 3:50
3. Largo 2:59
4. Allegro Molto 3:52
5.Vivaldi/Cantata "Amor,Hai Vinto" Rv651 10:12
Vivaldi/Concerto for Piccolo in C major, RV 443
6. Allegro 3:53
7. Largo 3:57
8. Allegro Molto 2:38

 

オーボエ/クレア・シャンクス
リコーダー/ミハイル・コブレイ
ソブラノ/エマ・カークビー
指揮/クリストファー・ホグウッド
演奏/エンシェント室内管弦楽団

 

録音: 1980/06 セント・ジュード教会

 

エウグゼクティヴP:イアン・アトキンス
P:ニコラス・パーカー
E:アダム・スキーピング,ニコラス・パーカー

 

L'OISEAU-LYRE F32L-20182
  
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 本日取り上げるCDも摩訶不思議なものです。CD番号から見ても分かるように、CD初期の一枚3000円以上した頃のものです。初出はLPレコードでした。日本盤のタイトルは「イタリア・バロック音楽名曲集」で1982年に発売されました。そういうことでは、オリジナルアルバムをそのままCD化したものといっても言いでしょう。でも、ここで不思議なことが発覚します。下の写真はこのCDの裏ジャケットなのですが、CDの収録内容と日本語表記が一致していません。

 

イメージ 2

 

 なぜこんなことが起こったのでしょう?本家イギリスデッカでは421655-2という番号で発売されています。多分このCDを発売しようとした日本の担当者は、本家もLPの内容をそのままCD化して発売したと思い込んだのでしょう。ところがサービス精神の旺盛なイギリスデッカはここに1978年収録の「Cantata 'Nulla in mundo pax sincera', RV 630」を追加収録したんですな。で、オリジナルは、

 

A. Marcello  Oboe Concerto In D Minor
1.  I Andante E Spiccato 3:51
2.  II Adagio 2:59
3.  III Presto 3:46
Vivaldi  
4.  Trio Sonata 'La Folia' 9:09
Vivaldi  Concerto 'Per Flautino' 
5.  I Allegro 3:50
6.  II Largo 3:56
7.  III Allegro Molto 2:37
Vivaldi  Cantata 'Amor, Hai Vinto' RV.651
8.  'Amor, Hai Vinto … Passo Di Pena' 5:07
9.  'In Qual Strano … Se A Me Rivolge' 4:59
Vivaldi   Cantata 'Nulla In Mundo Pax Sincera' RV.630
10.  'Nulla In Mundo Pax Sincera' 6:43
11.  'Blando Colore … Spirat Anguis Inter Flores' 4:44
12.  Alleluia 2:04
という内容でした。曲順は若干違いますが、カンタータ「この世に真の平和なく」RV.630が追加されています。さらに、日本盤のLP仕様ではRV.651のカンタータ「愛よお前は勝った」のは2曲は1トラックで収録されています。ところが、RV.630の方は3曲は別々のトラック扱いであったんでしょうな。そんなことで、収録曲順が違いこそすれ、カンタータをトラック5-8でカウントしたんでしょう。まあ、そんなことで、日本盤には収録されなかったものまであることにして裏ジャケットが制作されたのでしょう。つまりは、このCDを買った人は高いものを買わされたということです。ポピュラーの世界のCD、特にジャズのCDではLPの収録時間が短かったために、CD化に際しては別テイクをボーナストラックとして収録する様なことがよく行われていましたが、クラシックの世界ではこの逆の現象が起こっていたわけですなぁ。個人的にはそんなことで、ごく初期のCDは別として、輸入盤に走ったことは否めません。また、国内盤に比べて安かったですしね。

 

 そんな経緯のあるCDですが、内容はさすがにホグウッドと納得してしまいます。国内盤は有名な「ラ・フォリア」を第1曲目に据えています。正式な曲名は「2台のヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ニ短調Op.1 No.12, RV63」です。ここでは2台のヴァイオリンはサイモン・スタンデイジとキュスリン・マッキントッシュが務めています。ここに、通奏低音としてヴィオラのトレヴァー・ジョーンズ、チェロのマーク・コードウェル、そしてチェンバロにはホグウッド自身が担当しています。このちょっと後にはアルヒーフからムジカ・アンティカ・ケルンのかなりアクセントを強調した刺激的な演奏が登場しますが、ここでのホグウッドはいかにもイギリス的な、品のいいイタリア・バロックの調べを奏でています。「ラ・フォリア」といえばコレッリの作品が有名ですが、個人的にはこのヴィヴァルディの「ラ・フォリア」の方が内声部が充実していて好きです。その演奏が下のものです。作成にあたっては、画像のつなぎをいろいろなディザリング処理を施しました。ちょっとは腕を上げました(^▽^;)

 

 

 マルチェッロのオーボエ協奏曲はクレア・シャンクスという人のソロですが、これは実にのんびりとした演奏で、さすがにいま聴くとあっさりしすぎて個性的なものは感じられません。そういうこともあって、この曲をメインに持ってこなかったのかもしれません。しかし、よく聴くとホグウッドは時代様式を研究して、各パート一人という小編成の演奏でこの曲を演奏しています。そういう意味ではすっきりと見通しの良い演奏で、室内楽としての引き締まったアンサンブルが聴いていて心地よいものになっています。

 

 このCDの演奏はすべて各パート一人の演奏で、通常はピッコロ協奏曲として知られている最後に収録されているRV.443もここではフラウティーノで演奏されています。ミハイル・コブレイのフラウティーノの、ピッコロとは違うしっとりめの音色が何ともいえません。実はこの曲を初めて知ったのも映画がきっかけでした。フランソワ・トリュフォーの「野生の少年」という作品がそれで1970年に公開されています。この映画の中で、ピッコロ協奏曲の第2楽章が効果的に使われていました。名曲ですからじっくり聴いてみましょうか。

 

 

 さて、最後に残ったのはカンタータ「愛よお前は勝った」です。ソプラノのエマ・カークビーはちょうどこの録音のころから本格的にソリストとして活躍しはじめました。大輪のバラがいままさに咲きほころびようとするほんとにいい時期の録音だと思います。手元に1987年版のクラシックレコード総目録がありますが、当時はビバルディっていうとまだほとんど器楽しか聴かれていなかったころで、ヴィヴァルディのカンタータを取り上げていたのはこのカークビー/ホグウッドの演奏しかありません。そういう意味ではホグウッドは早くからヴィヴァルディに目を付けていたのかもしれません。でも、当時のデッカはモーツァルトやベートーヴェンといった売れる作曲家優先だったのでヴィヴァルディに関しては主だった作品しか録音していないのが悔やまれます。

 

 

 ただ、この録音はいろいろな意味でテスト盤的なところがあったのでしょうか、珍しく制作スタッフにエグゼクティブ・プロデューサーを置いています。イアン・アトキンスはデッカ所属のプロデューサーではなく、どうもデジタル録音に対してのサポートスタッフの様な位置付けのようです。何しろこの頃はデジタル録音が漸く緒についた段階ですからね。これが功を奏してか、このCDは今聴いても中々いい録音で聴くことができます。

 

 で、この演奏を聴くにあたっては是非とも海外盤を捜してくださいね。