ロンドン・バロックのバッハ | geezenstacの森

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ロンドン・バロックのバッハ

曲目/バッハ-ヴァイオリンソナタ集
ヴァイオリンソナタBWV1021
1.Adagio 3:45
2. Vivace 0:59
3. Largo 2:21
4. Presto 1:21
ヴァイオリンソナタBWV1023
5. Preludio 1:19
6. Adagio Ma Non Tanto 2:42
7. Allemande 3:34
8. Gigue 2:46
9.Cantabile, ma un poco adagio, BWV 1019 6:09
ヴァイオリンソナタBWV1022
10. Largo 3:06
11. Allegro E Presto 2:40
12. Adagio 2:00
13. Presto 1:25
14.Fuga, BWV1026 4:42
ヴァイオリンソナタBWV1024
15. Adagio 2:17
16. Presto 3:23
17. Affetuoso 2:48
18. Vivace 3:57

演奏/ロンドン・バロック
 バロック・ヴァイオリン/イングリッド・ザイフェルト
 バス・ヴィオール/チャールズ・メドラム
 チェンバロ/ジョン・トール

録音/1984/09/12-14
オール・セインツ教会 トゥーティング、ロンドン
P:デヴィット・マレイ
E:ネヴィン・ボイリング

東芝EMI CE33-5390
  
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 何とも不思議なCDです。「ロンドン・バロック」は1978年にチャールズ・メドラムとイング゛リッド・ザイフェルトが中心となって結成されたグループです。彼らのHPは[こちらにありますが、そのレコーディング・リストの中にこの録音は記載されていません。彼らの録音は主にBISとフランス・ハルモニア・ムンディによってなされていて、EMIには他にもウィリアム・バードの作品集やパーセルの作品集のCDを録音しているのに記載が無いのです。なんかEMIとけんか別れしたのでしょうかね。

 日本にも度々訪れているグループなのですが、あまり注目はされているようには見受けられません。しかし、彼らの活動は実にユニークです。その名前からも解るようにただの弦楽のアンサンブルのグループではありません。ロンドン・バロックは1978年に結成され、ガブリエーリ(1600年代)の弦楽レパートリーからモーツァルトまでの作曲家の作品を研究し、それぞれの作曲家の理念に基づいて、できるだけその時代の楽器と技法によって演奏することを目的としている。全員がピリオド楽器を使用しており(コンサートのピッチは、A=415)、曲目によって弦楽器の弓を使い分けるなど、演奏の細部にまで神経が注がれている。弦楽だけのアンサンブルから管楽器のコンチェルト、優れた声楽家を加えてのカンタータ、レギュラー・メンバーを各パートのリーダーとしてオーケストラを編成してのオラトリオ、オペラに至るまで大変幅広く活動しています。

 そんなことなので、ここでもフルメンバーではなく3名によってバッハのヴァイオリンと通奏低音のためのソナタが演奏されています。普通の弦楽五重奏団なら決して取り上げることの無いレパートリーですわな。このディスクは国内盤としては1988年9月にCDとして発売されています。丁度この年の3月にウィリアム・バードの作品集が発売されており、日本プレスで世界リリースされています。その関係でこの録音がCDとして国内盤で出たようです。LPでは発売されていませんでした。中々問題のある録音のようで、バッハの偽作を集めた作品集のようですね。こういう作品集がEMIのREFLEXEシリーズで発売されていたとは驚きです。ちなみに最後のBWV.1024はビゼンデルという人の作品だということが分かっています。

 最初は「ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ト長調」BWV1021です。この作品は1730年代前半までに作曲されたであろうバッハの真作です。 しかし、バス声部は他人によるものらしく、生徒用の作曲の手引きだと考えられています。緩ー急ー緩ー急のイタリアバロック形式で作られている作品です。この録音の時代は、創設者の一人、イングリッド・ザイフェルトがバロック・ヴァイオリンでしっとりとした音色で典雅な響きを聴かせてくれています。このCDは世界的に廃盤になっているようでネットで検索してもかすりもしません。今となってはそんな貴重品ですから、ここで、その第1楽章を聴いてみましょう。

 同じ頃の作品にしては 、「ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ホ短調」BWV1023は 1714~17年ごろ書かれた真作ということです。端で聴いているとこの曲の方が構成としては特殊でほんとにバッハの作品かしら?と思ってしまいます。なにしろ、冒頭では通奏低音の二重持続低音の上で、ヴァイオリンが華麗なパッセージを披露するという展開です。そして、後半の2曲は舞曲という構成も変わっています。バッハ30歳前後の意欲的なチャレンジという考え方も出来ます。ザイフェルトはことさらテクニックを披瀝しようという演奏ではなく、まるでトリオソナタの様なアプローチで演奏に望んでいます。そういうバランスから生まれる音楽は、ピッチの関係もありα波全開の音楽になっています。まさに癒しの音楽です。バッハのヴァイオリン・ソナタとしてはBWV1014ー19が一般的で、この曲はあまり聴かれないのですが隠れた佳曲と言ってもいいのではないでしょうか。
 このアルバムではヴァイオリンソナタBWV1019の第3楽章が収録されています。俗に言う異稿というものです。確かにこの演奏を聴いているとBWV1021以降の作品は通常のヴァイオリン・ソナタとはちょっと違うなぁという印象は拭えません。
 次の 「ヴァイオリンとオブリガート・チェンバロのためのソナタ ヘ長調」BVW1022は偽作のようです。バッハの指導下での息子か弟子の手によるものというのが定説になっています。でも、何時も思うのですが、バッハの作品はたとえ偽作でもBWVの作品番号は消えません。また、ウィキではバッハの偽作が作品一覧の末尾に項目を設けて一覧になっていますが、これらの作品は含まれていませんから、限り無く灰色に近い作品という位置付けなんでしょうかね。

  「ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ホ短調」BWV1024は先にもあげた通り偽作説濃厚な作品です。ドレスデンの名ヴァイオリニストで、バッハとも親交の深かったJ.G.ピゼンデルのものだと考えられています。残されている筆写譜は、ドレースデン宮廷の名ヴァイオリニスト、J. G. ピゼンデル(1687-1755)が、1710年頃に作成したものだからです。そんなことで、19世紀にはバッハの作品と見なされていたのですが、近年では、筆写したピゼンデル自身の作品とみるのが通説となっています。そうは言っても、ここではバッハの作品として聴くことにします。特に第2楽章のプレストなんかブランデンブルク協奏曲第5番の第3楽章の様なフレーズが出て来て、これバッハじゃん、と思えて来ます。ロンドン・バロックという限りは室内合奏が基本ですから、その範疇で捉えると理にかなった演奏をしています。ここでは三人がお互いのテリトリーを犯さないように常にバランスを優先して、バッハの音楽を楽しんで演奏しいている様が目の前に広がります。でも、こういう演奏は、同じ古楽器でも今は受けないのかもしれないなぁ。そういえば末期のコレギウム・アウレウムもこんな感じだった様な気がします。