カラヤン/ワイセンベルクの ベートーヴェンピアノ協奏曲 |
|
曲目/ベートーヴェン |
1. Allegro Con Brio 16:54
2. Largo 9:46
3. Rondo: Allegro 9:17
ピアノ協奏曲第4番ト長調,Op58*
4. Allegro Moderato 18:24
5. Andante Con Moto 5:07
6. Rondo: Vivace 9:42
ピアノ/アレクシス・ワイセンベルク
指揮/ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮/ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1976/09,20,21,1977/09/27,28
E:ウォルフガング・ギューリッヒ EMI ELECTROLA 724348331922
1974/09/04-06* フィルハーモニー・ザール、ベルリン
P:ミシェル・グロッツE:ウォルフガング・ギューリッヒ

1988年にデジタル・リマスタリングされた一枚です。もともとこの頃のEMIの録音はクォドラフォニック方式で録音されました。いわゆる4チャンネル録音ですね。そういうこともあり、この録音はEMIとは思えない馬力のある録音になっています。これがいいのか悪いのかということでいえば少なくとも小生にとってはEMIの録音のイメージを変えた一枚として印象に残っています。聴こえてくるサウンドは少々きめの荒いざらついた音です。しかし、後にも先にもカラヤンはベートーヴェンのピアノ協奏曲全集をステレオではこの組み合わせでしか残していません。交響曲では何度も全集録音をしているのにこれは不思議なことです。カラヤンはモノラル時代にはギーゼキングと組んで4番と5番をセッション録音していますが、3番の正式な録音はこれが唯一です。そして、この録音の直後の1977年11月の日本公演では、やはりワイセンベルクをソリストとして3番から5番をプログラムに載せていました。そういう意味ではカラヤンはワイセンベルクを最良のパートナーだと思っていたのでしょう。ちなみにグラモフォンもカラヤン/ベルリンフィルでベートーヴェンのピアノ協奏曲全集を計画していましたが、エッシェンバッハとは第1番を録音しただけで後が続きませんでした。エッシェンバッハとカラヤンでは目指す方向性が違ったということでしょうなあ。エッシェンバッハはこの後ヘンツェ/ロンドン響と2番、3番、小澤/ボストン交響楽団と5番などを録音していますが今ひとつぱっとしませんでした。
ここでは、交響曲全集と平行して録音していたカラヤン&ベルリン・フィルの美しく華やかで流麗な伴奏が印象的です。冒頭数小節の音が鳴り響いた瞬間に、オーケストラをフルに鳴らした重厚なベートーヴェンの世界が広がります。「音楽を必要以上に磨き上げる云々」というカラヤン批判があるのは十分承知の上で、しかし、この伴奏は70年代としては王道を行く素晴らしいと演奏だと感じます。こういう伴奏をしてくれたらピアニストは非常に演奏がやりやすいのではないでしょうか。
しかし、ワイセンベルクも負けてはいません。オーケストラの前奏が終わり、ピアノが登場すると強引にワイセンベルクの世界をぶつけてきます。やはり、技巧的に言って一流の腕前です。そして、ワイセンベルクはクールで強靭なタッチが売り物の演奏を知的なコントロールのよく効いた響きでオーケストラに参戦します。そんなワイセンベルクの演奏は、カラヤン/ベルリンフィルの古典的というよりはロマン的でゴージャスな伴奏と本来なら噛み合ないはずです。その対極にあるものが紙一重のバランスで異次元の演奏を可能にしているのがこの録音といえるのではないでしょうか。
小生にとってこの曲のディフェクトスタンダードはバックハウス/イッセルシュテット/ウィーンフィル、からグルダ/シュタイン/ウィーンフィルと続く伝統的な響きであり、そういう点ではこのワイセンベルク/カラヤン/ベルリンフィルはちょいと異質な響きです。それでも、惹き込まれて聴いてしまうのはやはりカラヤンマジックなんでしょうなぁ。とにかく第1楽章はこのガチバトルが聴きものです。
白眉は第2楽章でしょう。ワイセンベルクの硬質なピアノが青白い炎のように浮かび上がってくる。カラヤン&ベルリン・フィルのバックも、それは見事なもので、ため息が出るほどデリケートに伴奏していきます。ピアノの青白さと一緒になって、オーケストラもブルー系の光を放っています。ここではラールゴですが、まさにアダージョ・カラヤンですなぁ。カラヤンの最大のヒットがアダージョにあろうとはいったい誰が思ったでしょうか。こういう演奏を聴くと、ゆったりとしたメロディの中にカラヤンの美点を見いだした人の才覚に感服します。
ピアノ協奏曲第4番の方はカラヤンのディスコグラフィには1975年となっていますが、どうも1974年の方が正しいようです。このCDでも表記は1974年になっていました。そうすると全集では5番についでの録音ということになります。カラヤン/ワイセンベルクは作品番号とは逆に全集を作っていったことになります。
出来としては第3番の方が遥かに良いので、どうしてもこちらの印象は薄くなります。薄いと言えば第5番ですかね。ちょっとルバートをかけ過ぎの演奏でこれでは名盤ベストに名を連ねるには役不足だなぁという代物です。そんなことで、第4番は指こそ滑らかに動き回るワイセンベルクですが、どうも上滑りの感じがしていけません。でも、相変わらずバックのオーケストラは壮大で重厚なベートーヴェンの世界を描き出しています。余談ですが、この第4番までフルートはジェームズ・ゴールウェイが吹いています。翌年のザルツブルク・イースター音楽祭の前にカラヤンと衝突してそのまま退団という経緯があります。そういう意味ではバランスの悪い全集ということも出来ます。
それにしても、ベートーヴェンの交響曲では名演に名を連ねるカラヤンですが、ことピアノ協奏曲に限っては名前を見たことがありません。レコ芸の過去の記事を調べてもこれらの一連の録音は推薦盤には選ばれていなかったようです。ピアニストに恵まれなかったということですかね。
それにしても、このCDはお買い得盤です。何しろLP発売時は3番、4番はそれぞれ一曲で単独で発売されていました。つまりはLP二枚分が一枚になっているということです。そういう経緯を知っているので、迷わずゲットした一枚です。国内盤もCE28-5183として発売されたようですが、殆ど忘れ去られています。ただ、どういうわけかジャケットデザインは違っていた記憶があります。2006年にはEMI名盤1300シリーズ(TOCE13270)で復活していますが、多分マスタリングは同じものでしょう。