映画でボクが勉強したこと | geezenstacの森

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映画でボクが勉強したこと

著者 清水義範
発行 幻冬舎 幻冬舎文庫 

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 「自分の好きな映画について語るというのは、人生の喜びのひとつではないか―――」。感動を教わり、愛を教わり、ユーモアを教わり、こんな風に生きたいものだと、人生までも教わった。名作も面白い、駄作もおもしろい、珍品ももちろんオモシロイ。映画への愛と感謝と、清水義範ならではの発見に満ちたシネマ・エッセイ。古今東西、全337作品登場。---データベース---

 清水義範が青春期を共にした数々の名画を、気のおもむくままに書いたエッセイ集です。元々はサンデー毎日に1992年4月から一年間連載されたコラム記事を一冊に纏めたものです。清水氏が映画について語った本は以前に「酒とバラの日々」というものを取り上げています。内容的にはそのコラムバージョンというべきものですが、こちらは当時の最近作まで取り上げているところがミソです。作者の映画観というものの一端が伺い知れて中々興味深いものがあります。

 星空映画に始まり、高校2年生の時に出会ったビリーワイルダー監督作品「あなただけ今晩は」によって映画に目覚めた著者が、「2001年宇宙の旅」から「濡れてる牝猫」まで、ありとあらゆる映画を思い入れいっぱいに語っています。昔は小学校の校庭で夏になると「青空映画会」なんてのが盛んにありました。小生も親に連れられて何度か足を運んだことがありましたが、結局は友達と遊ぶのに夢中で映画何ぞはまともに見た記憶はありません。それでも、高校生になると部活で「図書視聴覚部」というところに所属し、文化祭ともなると映画会というものを主催し、体育館で映画を上映した記憶があります。当時は16㍉映画を貸し出す業者があり、そこに頼んでフィルムを借りるわけです。そのために16㍉映写機を操作する講習も受けにいってちゃんと修了証も貰いました。そうして上映した作品は、やはり天下の黒澤作品「天国と地獄」でした。それまで作品のタイトルは耳にしていましたが当の本人も観たことがありません。パンフレットに「パートカラー」という文字が踊っていてカラー作品なんだと思い込み(当時のレンタル用のフィルムは安い作品はほとんどが白黒でした)、がんばって宣伝チラシを作った記憶があります。でも、ほんとにカラーなのは煙突から上がる煙が赤く染まっているシーンだけで時間にして数秒です。それ以外は白黒だったことを強烈に覚えています。騙された気はしましたが、そこはやはり、黒澤作品に圧倒されました。

 ここで取り上げられている作品は洋画ばかりです。日本映画が取り上げられているのは黒澤作品だけです。やはり、世界に通用するレベルの作品なんですなあ。まあ、そういう小生も見る映画は殆ど外国映画です。最近こそ、日本映画もたまには見ますが、どうしても裏切られる気持ちがあり頻繁に足を向ける気にはなりません。どこかに作り物のにおいがして作品に没頭できないんですね。多分日本映画で一番鑑賞したのは「七人の侍」でしょうか。ビテオに録り、レーサーディスクを買い、今ではDVDまで所有しています。そして、こういう意味での洋画は一連のチャップリンの作品、「2001年宇宙の旅」、「アラビアのロレンス」、ルーカスの「スター・ウォーズ」に「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズ、それに青春時代の「小さな恋のメロディ」ぐらいなもんです。

 ここで取り上げられている作品は、そういう意味では我が青春時代とかなりの部分で重なります。そして、清水義範のユーモアや人物描写などは、ここに書かれた映画たちによって培われたものではないかと思ってしまいます。氏の一番のお気に入りはジャック・レモンの「アパートの鍵貸します」とか「あなただけ今晩わ」なんていう作品です。まあ、これは監督のバリー・ワイルダーに惚れたってことでもあるわけですけれどもね。要するに氏は、まず監督に注目し、そこから俳優なり女優に目を向けるわけです。そういう視点で書かれた映画のエッセイとして読むとなかなか興味深いです。

 この本に登場する作品は、ちょうど現在NHKBSで取り上げられている作品があり、先月末から「カサブランカ」、「さらば友よ」、「野のユリ」、「逢びき」、「大いなる西部」、「荒野の七人」、「ウェストサイド物語」、「アパートの鍵貸します」なんてモノが放映されていました。まさにリアルタイムでこの本を読みながらこれらの映画を鑑賞したわけです。そして、この本を読んだおかげで、久しぶりに「メトロポリス」なんて作品も見てしまいました。フリッツ・ラング監督の1927年の無声映画ですね。この作品についてはSF映画の項目で取り上げられていますが、まさにSF映画の大作です。こんな作品が第1次世界大戦で疲弊したドイツで作られていたとは驚異です。

 「アラビアのロレンス」についても単独で取り上げられている作品です。氏は高校生のとき、小生は中学生のときですから、多分中日シネラマ劇場で鑑賞したのでしょう。そのスケールに圧倒された作品です。画面の大きさも70㍉で大きかったのですが、砂漠のシーンでロレンスの声がこだまして、劇場の後ろの方からも聞こえてきたのにはびっくりしました。そうです、今では当たり前のサラウンドが当時の最新の映画で体感できたのです。そういう作品でもありましたから、無茶苦茶記憶に残っています。最初はやはりストーリー的には難解な部分もありましたが、後に、1962年の公開から実に四半世紀以上が経過した1988年にデヴィッド・リーンが撮影し直し、再編集して完全版を製作したのは記憶に新しいところです。それだけ作品に愛着があったんでしょうな。

 登場する作品は337本、その作品リストが巻末に付属します。このリスト、太字の作品は詳しく本文に取り上げられているものをピックアップしていてけっこう利用価値があります。イラストは南伸坊氏で、中々洒落ています。しかし、一言添えられているコメントが手書きの文字で、ミミズの這いずったような読めない日本語です。これには参ります。

 まあ、映画ファンなら肩肘張らずにお気楽に読めるエッセイでしよう。今日のバックはアラビアのロレンスからメインタイトルです。