十津川警部 銚子電鉄 六.四キロの追跡 | geezenstacの森

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十津川警部 銚子電鉄 六.四キロの追跡

著者/西村京太郎
出版/双葉社  双葉ノベルス

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 犬吠埼灯台の崖下で私立探偵・本橋哲平の変死体が発見された。捜査に当たった千葉県警・渡辺警部は、殺害動機を銚子電鉄の取材にきた岡本亜紀が盗まれたカメラに関係あると考え、同じ銚子電鉄に乗っていた客のあらいだしに着手した。しかし、事件は意外な展開を見せ始め、十津川警部が捜査に乗り出した。---データベース---

 以前テレビのドキュメンタリーで見た調子電鉄のぬれ煎餅が登場します。赤字経営による資金不足を補うための副業としてぬれ煎餅の製造・販売を鉄道会社自らが手がけたという商品です。銚子ですから醤油の産地、そういう地産地消を目指した商品の走りでしょう。そういう風情を舞台にして事件は起こります。しかし、掴みは馬鹿げた展開です。カメラマンが今しも撮影に使っているカメラを盗まれるのですから。まあ、この冒頭に登場する「旅と鉄道」という雑誌を出している出版社の記者とカメラマンの鈍臭いこと。編集長から、ことの顛末を記事に書けと言われても、中学生レベルの文章しかかけないのですから情けないったらありゃしない。こんな登場人物しか登場しないのですから情けない。

 まあ、十津川警部シリーズの一冊ですから当然殺人事件が起こります。そのカメラを盗んだという男、これがまた私立探偵なんですが、この人物が殺されます。本当は彼がカメラを盗んだのではないんですけどね。そして、その男に金を貸した消費者金融の支店長が次に殺されます。ここら辺は関係がありそうでなさそうな不思議な展開ですが、これによって千葉県警と警視庁に合同捜査の機運が生まれます。

 何時ものように、十津川班の刑事は所々でぽつんと登場するだけでまるで存在感がありません。また合同捜査と良いながら千葉県警からは広瀬という刑事が一人登場するだけです。まるで実在感の無い設定です。しばらくするとこの刑事も殺されるんですが、刑事が立った一人で行動することはまず無いはずです。設定からしておかしいのでどうしても事件がリアルに感じられません。そうそう、その間にもう一人マリーナの管理者が殺されていました。

 これだけの人数が殺されながら、事件は千葉県警主体ではなく警視庁が中心になるのですから不思議なものです。何時ものように突っ込みどころが多いストーリー展開です。殺された私立探偵は銀行預金を担保に銀行から金を借りるのですが、資金使途にうるさい銀行には刑事は誰一人として話を聞きにいきません。消費者金融の支店長にしても、会社からは500万の貸し付けで不足分は支店長のポケットマネーで100万貸していてます。尚かつ、支店長自身は妻と離婚をして慰謝料の支払いに苦慮しているという設定です。矛盾しています。浮気が原因で離婚したということになっていますが、離婚してもやもめ暮らしで女の影が見えないというのも不思議な設定です。

 途中からは十津川、亀井コンビで事件の謎解きが進んでいきますが、そうなってくると序盤に登場した雑誌記者とカメラマンはお払い箱で全くといっていいほど顔を出しません。何時もながらのほったらかしの展開です。こういうところは章単位、または節単位でで登場人物の視点を変えるとかすれば良いものを、そういう複雑な展開はもう書けないのかいっさい登場しません。こういうところが単調なストーリー展開の原因でしょう。最近の作品はすべてこのパターンのV.S.O.Pです。

 人がバンバン死ぬ割には展開にひねりはあまりなく、ストーリーは大きな盛り上がりを見せないままに淡々と進んでいきます。例によって事件の説明の繰り返しが多く、こんなことは読者の頭にもう入っているのにというくどくどと説明が出てきます。雑誌連載時はそれでも良いかもしれませんが単行本として読むに耐える小説を目指すなら、こういうところは書き直してもらいたいものです。ミステリーとしてのレベルも高くないが、テーマが国内に限定されているのはあまり納得のいかないところです。このストーリーの展開なら根源的な外国をテーマの中に含めないといけない問題です。そういう部分には触れていないところがストーリーを面白く成さしめていますし、テーマが中途半端に終わっている所以でしょう。おりしも、名古屋では「生物多様性会議(COP10)」が開催されていますが、時事問題をタイミングよく取り上げる西村京太郎氏にしては、やや安直なストーリーです。もう少し踏み込んで取り組んでもらいたいテーマでした。

 読み捨て小説としてはこんなもんなんでしょうかね。ラストで取って着けたように雑誌記者とカメラマンが登場しますが、これが何の役割も果たしていません。捜査の邪魔をするばかりです。本来なら雑誌原稿の締め切りまでに原稿を書くように言われていたわりにはそれもしていなかったようですし、犯人逮捕の段階で犬吠埼ではなくて、終点の外川駅に突然現れるのも唐突すぎますわな。それでもって勝手に人質になるのに、そのくだりの説明は何もありません。

 この小説は「小説推理」2009年8月号から2010年2月号まで連載されたものですが、ラストは竜頭蛇尾のように感じられます。事件の発端のカメラマンのカメラは出てこなかったのは分かりますが、亀さんの携帯電話は無事回収されます。ただ、犯人たちがこの携帯に気がつかなかったのは分かりますが、屋外で雨が降る中ほったらかしの携帯がGPSの電波を出し続けることが出来たことになっています。ただ、亀さんの携帯が防水仕様であったかどうかについては一言も触れていません。ましてや海上ですから携帯の電波は少し沖にいけば繋がらないのは周知の事実です。果たしてこの小説のような展開が可能かどうか、ちょっと疑問です。