サヴァリッシュのメンデルスゾーン
曲目/メンデルスゾーン
Symphony #4 In A, Op. 90, "イタリア"
1. Allegro Vivace 10:34
2. Andante Con Moto 6:24
3. Con Moto Moderato 6:38
4. Saltarello: Presto 5:54
Symphony #5 In D Minor, Op. 107, "宗教改革" *
5. Andante, Allegro Con Fuoco 11:40
6. Allegro Vivace 6:01
7. Andante 3:30
8. Chorale: Ein' Feste Burg Ist Unser Gott 9:03
指揮/ウォルフガング・サヴァリッシュ
演奏/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
録音/1966/06
1967* ウォルサムストウ・タウン・ホール
演奏/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
録音/1966/06
1967* ウォルサムストウ・タウン・ホール
Brilliant BRL93777

昨日はデルヴォーのメンデルスゾーンを取り上げましたが今回はサヴァリッシュです。そして、この組み合わせによるCDは単独では発売されていません。以前はフィリップス・レーベルで432598という番号で全集が出ていましたが今は廃盤です。もう入手は出来ないかなと思っていたところ、何と廉価盤レーベルの「ブリリアント」から2組目のメンデルスゾーンの全集として今年発売されていました。以前の全集が放送のライブ音源を使っていたのに対して今回はサヴァリッシュのものと、弦楽交響曲はレフ・マルキスが指揮するアムステルダム・シンフォニエッタによる颯爽とした演奏がカップリングされて全集として登場しました。こちらは1992ー1995年のデジタル録音です。ですが、やはり目玉はサヴァリッシュとニュー・フィルハーモニア管弦楽団との交響曲でしょう。
この録音はレコード時代から長く親しんだものです。サヴァリッシュはあまりそんなイメージは無いのですが全集魔のようで、40代の頃からシューベルト、ブラームス、メンデルスゾーン、シューマン、ベートーヴェンと主だったところは録音しているのですね。昔からNHK交響楽団に客演で来日しているのでなじみ深い指揮者ということもありますが、彼の全集はほとんどレコード時代から所有しています。
そんな訳でCDで再発はれるとこれも自然と触手が伸びていつの間にか購入しているという有様です。まあ、これはそんな全集の中の一枚です。市販のCDでは3番と4番のカップリングということでこの組み合わせは全集でしか存在しないものです。交響曲第4番はレコード時代一番聴いたのはデルヴォーの演奏のもの(この録音オイロディスクのヴィンテージシリーズでCD化されました)ですが、それについで頻繁に掛けていた記憶があります。CD時代になってからはセルのものが一番でしたが、それと匹敵する演奏ということでお気に入りです。
この演奏の特徴は、フィリップスの録音にあるでしょう。左右いっぱいに広がったステレオ感のある録音で、それがフィルハーモニアの音を優しく捉えている演奏です。サヴァリッシュの演奏は、颯爽としていて躍動感があります。収録は1966年ということでサヴァリッシュがまだ40代前半の頃です。この頃のサヴァリッシュは謹厳実直という評価がされていてどちらかというと安定志向で面白みに欠けるという部分がありました。まあ、当時のN響としてはそういうところを高く評価していて、ベーシックなドイツものを期待していたのではと思われる節がありました。そんなときこの録音が世に出てきました。当時はセルは知名度が低くその演奏を聴く機会は多くありませんでしたからこのサヴァリッシュで接するメンデルスゾーンは新鮮でした。そして、EMIの録音では鈍重というイメージしか持っていなかったフィルハーモニアからこんなにフレッシュな響きを引き出すサヴァリッシュに驚いたものです。これならカラヤンの後釜を狙える指揮者になるのではないか、という気がしたくらいです。
第1楽章は聴感上は速めのテンポでぐいぐい引っ張ってっているようなイメージがありますが、実際はそんなこともありません。デルヴォーはディフェクトスタンダードですが、このサヴァリッシュはオリジナルスタンダードです。何も足さない、何も引かない的なスタンダードです。今聴くと中庸のテンポです。そしてどちらかというと表現的にはやや女性的な線の細さを窺わせる演奏です。同じ晴れ渡った青空を表現するにも、セルとは違うこういう表現もあるのかという青空です。しかし、一音一音をきっちり積み上げるように演奏していく「イタリア」はサヴァリッシュそのものだなあという感想です。そのすっきりとした表現にデルヴォーには無い魅力を感じたのも確かです。そして、実際に後年イタリアを訪ねた時の印象は冬という時期的なものもあったのか解りませんが、このサヴァリッシュの演奏に近いものを感じたことも確かです。
そんなこともあって、ドイツ的雰囲気をまったく感じさせない演奏ですが好きです。第2楽章なんかひたすら美しいメロディが奏でられます。アクセントやクレッシェンド、ディミヌエンドなんか最低限の施ししかされていないような印象ですが、この薄味がたまりません。深くのめり込むというよりはBGM的に楽しむにはうってつけの演奏です。
このCDには交響曲第5番「宗教改革」がカップリングされています。ニックネームが付いていてもやはりちょっとマイナーで市販のCDでは第3番の「スコットランド」とカップリングされる意味がよく解ります。地味な曲です。まず、最初にアンダンテの序奏が付きますから形式的にみても古い感じがします。まあ、この序奏は作品のタイトルにもなっている宗教に深く関わりのあるプロテスタントの礼拝の時に用いられる「ドレスデン・アーメン」が演奏されているのですね。その後にはアレグロの主部が続きますがこれとて重い主題です。この曲の作曲の経緯をみるとユダヤ人としてのメンデルスゾーンの苦悩が感じられます。
そういうドラマ性をサヴァリッシュはここではあまり深く描いていません。それでも、後にサヴァリッシュはNHK交響楽団の1000回目の記念の演奏会ではメンデルゾーンの「エリア」を演奏するなどして盛んにメンデルスゾーンを取り上げています。
ヨーロパ音楽が深く根ざしていた宗教と音楽の結びつきを感じさせる曲ではあります。それは最後の第4楽章にもルターが作曲した「神はわがやぐら」をフルートが奏でるところからはじまることでも解ります。サヴァリッシュはここでも実に淡々とこのフルートを吹かせています。この曲ではコントラバスが細かいパッセージをごりごりと演奏するのでどうしても重たくなる演奏が多いのですが、サヴァリッシュはそれを強調するような演奏をしていません。ですからここでも割とさっぱりと演奏しています。
まあ、こんなような演奏ですから評論家受けはあんまり良く無いようで、発売されても直ぐ廃盤になってしまいます。フィリップスも見放したこのサヴァリッシュのメンデルスゾーン。そこに目を付けたブリリアント。やはり、ブリリアントの新譜からは目が離せません。