デルヴォーのメンデルスゾーン | geezenstacの森

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デルヴォーのメンデルスゾーン

 

曲目/メンデルスゾーン
交響曲第4番イ長調op.90『イタリア』
1. Allegro Vivace 8:07
2. Andante Con Moto 6:39
3. Con Moto Moderato 5:43
4. Saltarello: Presto 6:25
劇音楽≪真夏の夜の夢≫
5. 序曲 作品21 12:48
6.スケルツォ 4:44
7.夜想曲 7:08
8.結婚行進曲 5:04

 

 

指揮/ピエール・デルヴォー
演奏/ハンブルク国立フィルハーモニー管弦楽団
 
録音/1960年代初期

 

日本コロムビア MS1018K(オイロディスク)

 

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 1960年代の終わり頃から、LPの廉価盤ブームが起こりました。その火付け役となったのが日本コロムビアの「ダイヤモンド1000シリーズ」でした。初期のラインナップはそれこそ、一流どころとはほど遠いアーティストによる安かろう、悪かろうというような無いようでとても人に勧められたものではなかったのですが、それでも寝その中にきらりと光る掘り出し物が潜んでいました。そんな一枚がこのレコードでした。このシリーズの中で最初に買ったLPです。記録を見ると1969年10月25日に購入しています。この曲のディフェクト・スタンダードとなる記念すべきレコードです。

 

 もちろんその当時ピエール・デルヴォーなんて指揮者はまったく知りませんでした。曲のカップリングが良くて買ったものでしょう。ちなみに、それまでに持っていたLPは僅か5枚。交響曲としては4曲目のものでした。多分曲としては知っていたんでしょうな。メンデルスゾーンとしてはヴァイオリン協奏曲に次ぐ曲目でした。そして、この曲の虜になったのです。多分この当時から所有しているLPで一番聴いた回数が多いのはこのレコードでしょう。A面が交響曲第4番、B面が「真夏の夜の夢」組曲となっていました。ホームページでもこのレコードを紹介していますが、今年ようやくこの録音がCDとして復活しましたこともあってブログでも取り上げてみました。ホームページではこんな名演が一度もCD化されていないと嘆いていますが、待望のリリースです。そして、やはり世界初のCD化ということでした。そのデータによるとオイロディスクの前身に当たるオペラレーベル時代の録音であることが解ります。ということは1961,2年の録音ということになります。

 

 それこそメンデルスゾーンの「イタリア」というとセルの名演から想像されるように「晴れ渡った青空のような曲」というように説明されることが多いのですが、そういう演奏と比較すると、デルヴォーのこの演奏はその点ではやや異端の部類に入る演奏でしょう。なんと言っても霞のかかったようなトーンは決して晴天の明るさなどではなく、やや幻想的でファンタジックなイメージが付きまといます。それはフランス印象派の描く絵画のような風情でまるでルノワールの描く風景画のような趣きがあります。

 

 このような響きをドイツのそれもハンブルクという北部に位置する街のオーケストラから引き出しているのには驚きです。このベールのかかったような甘い弦のサウンドをベースにデルヴォーはセルよりも速いテンポで第1楽章をぐいぐい引っ張っていきます。このサウンドの心地よさ。そして、アクセルいっぱいに疾走しているかというと、そうでも無く陰影のグラディエーションはくっきりと描き出しています。ハンブルグの弦パートはこれでもかというぐらいに明るいトーンで弾かせているのに、管楽器のトーンは全体的にほの暗いイメージのオーケストラの特性を充分に活用して見事なコントラストを表現しています。表情付けは細やかで、歌うようなメロディラインを強調したフレージングがいかにもという感じでデルヴォーのイタリアを印象づけます。流れるような弦のフレージングと細かくスタッカートで斬った木管の響きのコントラストも見事です。惜しむらくは、LPではカッティングレベルが低くそういうサウンドの妙を充分楽しむところまでは行けないことです。

 

 こういう第1楽章に対してアンダンテの第2楽章は概してゆっくりめのテンポです。全体のこういう緩急の差もデルヴォーの演奏の特徴でしょう。ここでは見事なアンダンテのカンタービレを聴くことが出来ます。元来がオペラ付きのオーケストラですからこういう表現はお手の物でしょう。この曲ではクラリネットが効果的に使われていますが、この第2楽章ではその響きを堪能することが出来ます。弦との対比をくっきりとさせた使い方でデルヴォーはこの曲がドイツ人というメンデルスゾーンの所在を思い起こさせてくれます。

 

 そういう思いは続く第3楽章にも引き継がれています。まあ、イタリアという国はローマ帝国の昔から栄えた国で、そういう古(いにしえ)の面影をこの楽章で描いているのかもしれないなあと感じさせる演奏です。昔日の栄光を背負ったイタリアという印象です。

 

 デルヴォーのイタリアは歴史を引きずりながら4楽章に続きます。曲はサルタレロの舞曲でプレストの指示がありますが、デルヴォーの演奏はその指示とは違っています。セル辺りはたたみ掛けるようなリズムとテンポで突き進んでいきますが、デルヴォーは一つ一つの音をきっちりと刻みながら確固たるテンポで押し進めていきます。この楽章の6:25は手持ちの演奏では一番遅いものです。遅い演奏で知られるクレンペラーですら6分ちょっとです。このゆうゆうたるテンポ、これは侮れません。そして、このテンポに洗脳されていますからイタリアをあまりさっぱりやられると他の演奏はなんだかなぁという感じになっています。デルヴォーの「イタリア」はそういうイタリアの歴史をどっぷりとその演奏の中に取り込んだ希有な演奏でもあるのです。

 

 

 もう一つの「真夏の夜の夢」は残念ながらそれほど特徴のある演奏ではありません。それでも特徴的な幻想的な弦の歌い回しがこの物語の神秘性を引き出しています。そういう特徴はやはりメインとなる序曲に現れています。ここでもじっくりとしたテンポで旋律線をくっきりと描き出した演奏になっています。ウォームトーンのフレージングは幻想的でもともとのシェイクスピアの原作のイメージを感じさせます。

 

 これに対して「間奏曲」はアクセントの強い表現で、ドラマチックな側面を強調し序曲との対比を図っています。「夜想曲」はホルンの響きが幻想的な曲です。このホルンの響き幽玄なのですが、やや危なっかしいところがありオケの限界を感じるところでもあります。そして、最後はおなじみの「結婚行進曲」。ワーグナーにも有名な「婚礼の合唱」がありますが、自分の中では結婚式の曲はやっぱりメンデルスゾーンですね。ということで自分の結婚式でも入場の音楽は頼んでこの曲にしてもらいました。ははっ!。デルヴォーの演奏は、艶やかというよりも厳粛な雰囲気を強調して、ここでもゆっくりめのテンポで押し進めています。多分この曲だけでもメンデルスゾーンは一番有名な作曲家の一人でしょうね。

 

 

 今年の6月にこの演奏がCDとして発売されましたが果たしてどれほど売れたことか・・・・コロムビアもこのCDについてはほとんど宣伝もしていませんからね。レコ芸でも再発扱いですからほとんど無視されています。しかし、これは価値のある復活といえます。ぜひ聴いてほしい演奏です。

 

現在発売されているCDはこちらです。でも今では廃盤ですなぁ。