パイヤール/水戸室内管弦楽団 |
曲目
1.ドビュッシー/「牧神の午後への前奏曲」
2.フローラン・シュミット/「交響曲“ジャニアナ”作品101」
3.ヴァンサン・ダンディ/「古い様式による組曲」
4.ビゼー/「劇音楽“アルルの女”から」
5.ルーセル/「バレエ組曲“くもの宴会”作品17」
6.ビゼー/「“アルルの女”組曲 第2番から“メヌエット”」
(管弦楽)水戸室内管弦楽団
(指揮)ジャン・フランソア・パイヤール
~2007年11月25日/水戸市・水戸芸術館で録画~

1970年代までフランス、エラートレーベルの看板をしょっていたかのようなパイヤール。いゃあ、パイヤールはまだ健在だったんですねぇ。1928年生まれですから今年81歳ということですか。指揮者ならまだまだ活躍出来る年齢ですね。ということで、このコンサートは2007年に行なわれたものの放送ということでした。
水戸室内管弦楽団とは2001年 6月の第46回定期演奏会にも登場しているようです。今回はバロックではなく、近代フランス音楽を引っさげてのプログラムです。まあ、古楽アンサンブル全盛の時代ですから今更バロックということでもないでしょう。かえって斬新な感じがして聴き入ってしまいました。
最初はドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」です。フルオーケストラでやるとフランス印象派の薄くもやの掛かったような風景が浮かんできますが、さすが、室内オーケストラの規模ですとそういうわけにはいかないようです。しかし、弦の人数に比べて木管や金管の各楽器の音の動きはハッキリ聴き取ることが出来ますし、何よりも音に奥行きというか立体感が出ていたのが良いですね。この規模でもハープが2台ですから、その響きは天国的な美しさで響きます。そのハープには吉野直子さんがいます。そして、冒頭のフルートソロからして工藤重典が演奏しているので音に艶があります。また、メンバーの顔ぶれの中にヴァイオリンの安芸昌子さんの顔も見ることが出来何か懐かしい気がしました。最近はサイトウキネンの方ではお目にかかれませんからね。まあ、こういうミニ・サイトウキネンみたいな豪華メンバーが揃っているのですから演奏が充実しているのはいうまでもありません。パイヤールは以前は指揮棒を使っていたのですが、最近は10本の指を使って小さく指揮をしています。これで充分、意思が伝わるということなのでしょう。
続いてはフローラン・シュミットの「ジャニアナ交響曲」です。彼の名前は以前「サクソフォーン四重奏曲」などを聴いて知っていましたが、もう記憶の彼方にあった作曲家です。弦楽合奏による室内交響曲という位置づけの曲です。ダリウス・ミヨーの室内交響曲を思わせる作品で、確かに同時代の息吹のようなものを感じます。4拍子の作品ですが最後にアクセントが来る変拍子っぽいリズムです。でも、無調音楽ではないので思ったよりも聴き易い作品です。パイヤールはLP時代にこの曲を確か録音していましたっけ。そういう意味ではバロックだけの人ではなかったんですよね。自分のレパートリーの曲ということで、安定した指揮ぶりで、ぐいぐいとオーケストラを引っ張っていく姿に見とれてしまい曲の方は後半上の空といった感じで聴いてしまいました。この曲は、コンミスを安芸昌子さんが担当していました。こういう曲により変わるというやり方もサイトウキネンと一緒ですな。
ヴァンサン・ダンディという作曲家は「フランスの山人の歌による交響曲 op.25」ぐらいしか知らない作曲家で、この曲も初めて耳にしました。1886年に作曲された「古い様式による組曲」というのはバロック様式を模したということで、前奏曲、間奏曲というふうに曲は進みますが基本的にはブーレやサラバンドなどの舞曲の作品です。作品全体のイメージはユーモアに溢れた作品で、「サラバンド」なんかはしっとりとした響きでバッハのそれとはひと味違う趣きです。それでいてどことなくバロックの香りがするのです。この曲でもフルートのソロが活躍するということで工藤氏が目立っていました。
後半のプログラムはビセーの「アルルの女」です。この曲以前はホグウッドの演奏を取り上げていますがここで演奏されたのもそれと同じオリジナル版ということでした。ただし、ここでも全曲ではなく8曲が抜粋して演奏されていました。普通に聴いていると組曲版とあまり違いは分かりませんな。1曲目「前奏曲」、2曲目「メヌエット」(通常第1組曲に入っている方)と至って普通なのです。ところが「カリヨン」似入ると様相が一変します。この曲はなんと第1主題だけであっさりと終了なんです。そして「メロドラマ」として「間奏曲」(第2組曲の方)にも使われているメロディが再び現れ、最後の「ファランドール」はいきなりプロヴァンス太鼓(ここではさすがに小太鼓が使われています)の「ドンドットットッ」なリズムから始まり最後の盛り上がりも短くあっさりと終わってしまいます。元々が戯曲のために作られた作品で、演奏スタイルもこういった室内オーケストラ規模の作品であったと思われます。そして、通常の組曲版では使われないピアノが活躍するのもこのオリジナル版の特徴でしょう。この曲はコンマスが豊嶋泰嗣さんにチェンジです。水戸室内管弦楽団はフレキシブルな編成なのでこの曲ではかなり拡大された編成になっていました。ピアノは右手に、そしてここには小型のオルガンともいうべきハルモニウムも並んでいます。この曲独自のソキソフォンは中央に、その直ぐ左手に打楽器群が陣取っています。まさにステレオ効果満点の配置です。でも全体の印象としては組曲版に比べて軽いイメージです。組曲版が管弦楽作品としてかなり手が加えられているのが分かります。
メインプログラムの最後はルーセルの「くもの宴会」です、NHKの表示ではこうなっていますが、小生は「雲の饗宴」で親しんでいる曲です。これも第1曲の前奏曲はフルートのソロから入ります。どうも、今回は工藤重典氏にスポットを当てたプログラミングてあるような気もします。マルティノンやアンセルメの演奏に昔から親しみがあるので一番楽しみにしていた曲でもあります。元々のバレエの台本はファーブルの「昆虫記」を題材にしてつくられています。オネゲルといいルーセルといいフランスの作曲家は擬態音楽が好きなようです。ここでは蟻や蝶、蜉蝣そして蜘蛛の特徴を捉えた音楽が、みずみずしいアンサンブルで披露されています。さすがバレエ音楽という感じでリズミカルで跳ねるような音楽が紡ぎ出されます。管は2管編成ですが、弦楽の規模は変更がないので全体としてすっきりとした響きの中でホール全体が小宇宙のような空間を形成しているのがいいですね。本来は全7曲の曲ですがパイヤールはその中から5曲を演奏していました。そして、最後が「蜉蝣の葬送」と題された音楽ということで、蜉蝣のはかない人生を慈しむような静かな終わり方をしているのが印象的でした。こういう構成も有りかな?
そしてアンコールは「アルルの女」より第2組曲の方の「メヌエット」でした。もちろんソロは工藤重典氏です。
後半でこの工藤氏のフルートにジャン=イヴ・フルモーのうまいサックスが絡んでいきます。そしてハープは吉野直子さんですから贅沢極まりないアンコールです。
後半でこの工藤氏のフルートにジャン=イヴ・フルモーのうまいサックスが絡んでいきます。そしてハープは吉野直子さんですから贅沢極まりないアンコールです。
パイヤールの描く音楽はとてもヒユーマニズムに溢れるものでその人柄を反映した演奏会になっていましたね。なんか心が洗われるような感動を聴き終わって感じました。こういう演奏会を生で聴ける関東の人がうらやましいですね。