スゥイトナーのドヴォルザーク | geezenstacの森

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スゥイトナーのドヴォルザーク


曲目/ドヴォルザーク
交響曲 第7番 ニ短調 作品70(B.141)
1.第1楽章:アレグロ・マエストーソ 10'43
2.第2楽章:ポコ・アダージョ 8'58
3.第3楽章:スケルツォ、ヴィヴァーチェ 7'40
4.第4楽章:フィナーレ、アレグロ 9'28
交響曲 第8番 ト長調 作品88(B.163)*
5.第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ 9'22
6.第2楽章:アダージョ '59
7.第3楽章:アレグレット・グラツィオーソ 6'37
8.第4楽章:アレグロ・マ・ノン・トロッポ 10'17

 

指揮/オトマール・スウィトナー
演奏/シュターツカペレ・ベルリン

 

録音/1981年2月22~26日、
   1977年7月6月12日~15日*ベルリン・キリスト教会

 

徳間ジャパン TKCC-70286

 

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 スウィトナーはオーストリアはインスブルックの生まれです。ドイツ統一と前後して指揮活動から引退してしまいもう亡くなったのかと思っていましたが、まだ健在なんですね。でも、難病のパーキンソン死病を患っていたことが近年明らかになりました。70年代からN響の招きで来日して活躍してくれたのが遠い思い出です。ドイツ系の指揮者としては中心となるベートーヴェンやブラームス、シューベルト、シューマンなどの全集を残していてくれていますが、それ以外にもドヴォルザークの全集も残しています。東欧系の指揮者ならともかく、ドイツ系の指揮者としてはこれは珍しい部類でしょうね。そうはいっても、ジョージ・セルなんかは残していませんね。

 

 スウィトナーのドヴォルザークとはあまりイメージが湧きませんが、小生ドヴォルザークと聞くとついつい全集を買ってしまう時期がありました。そんなわけで、このスウィトナーも単品で全集を買い集めました。多分作曲家別ではベートーヴェンについで全集を所有している作曲家になります。2位はブラームスではないんですね。所有するCDは1994年の発売のものです。徳間ジャパンから発売されたものですが、訳の分からないデザインのジャケットで損をしていたのではないでしょうか。さて、その中から交響曲第7番と8番が収録されたものを取り上げます。

 

 彼がドヴォルザークの交響曲を全曲録音したのには理由があるようです。徳間のプロデューサーだった清勝也氏がこの録音に付いて語っているものを見つけました。
 彼のドヴォルザークは今回、《新世界より》が出ますね[KICC-9405]。ドヴォルザークの交響曲は全曲録音したんですけれど、これは完結してよかった。
 彼は僕にこう言ったんですよ。‥‥《新世界より》とか8番だけではなく、私はどうしても全曲やりたい。今まで数々ある名演、特にチェコ系の演奏はたいへん素晴らしい。ただ、彼らがチェコ人であるゆえなのか、悪いわけではないけれどボヘミア風にやりすぎではないかと。ドヴォルザークはベートーヴェンやブラームスにつぐ絶対音楽として書いたのであって、明らかにボヘミア風の民族色豊かな交響曲を作ろうとしたのではなかったのではない。楽譜を読んでいくうちにその思いを強くしたので、交響曲を録音するなら全曲やるのがすごく重要だ、ドイツの作曲家の流れの中に位置づけられる絶対音楽であるということを、もう一度皆に感じてほしい、と力説したんです。
 ボヘミア色の強い演奏が悪いわけでは決してないけれど、皆がそちらにいってしまうのは、ドヴォルザークにとっても淋しいことではないだろうか‥‥というのがスウィトナーさんの考えでした。ドイツ・シャルブラッテン側は、買い手があるのなら全集録音をやってもいいと。それで僕は、全曲やりましょう、といってこの全集が実現したわけです。
 この一文を読んで納得出来ました。どうも、スウィトナーの演奏を聴いてもドヴォルザークのイメージが湧かない演奏だったからです。第7番を聴いても第1楽章などテンポが遅くて全然乗ってない演奏で、取り上げたのは良いけれどどういうことを書こうかさっぱりイメージが湧いてこない演奏だったからです。上に書かれているようにドヴォルザークの土の香りが待ったにしない演奏で、まるで薄口のスープをすすっているような印象だったのです。まあ、そんな感じで聴いたのですが・・・
 
 第1楽章は、最初のティンパニの遠くからの轟きから、何か始まることを予感させます。低弦にあらわれるメロディが木管に受け継がれ音楽は始まりますが、全体のテンポが遅いので盛り上がりが欠けているんです。ベルリン・シュターツカペレといえばベルリンフィルと同じベルリン市に存在するオーケストラですが、東西分裂時には東側に属していたために録音会場もベルリンフィルが良く利用していたキリスト教会にもかかわらず、この違いですからベルリンフィルとは似ても似つかわ無い素朴な響きのするオーケストラです。全体には暗い響きですが弦の響きは美しいものがあります。そういうオーケストラの特性を充分心得てのスウィトナーのドヴォルザークがここに存在します。

 

 第2楽章は、木管が活躍する緩叙楽章です。この楽章の出来は良いですね。純朴さを称えた曲想がオーケストラにぴったりの表現をもたらしています。こういう響きを聴いていると同時代を生きたブラームスの響きを感じないわけにはいきません。こういうところをスウィトナーは一番ドヴォルザークで聴かせたかったのかなと思うところです。

 

 第3楽章のはじめスケルツォも魅惑的なメロディーが弦で奏でられます。あまりアクセントを強調した演奏ではありませんが、その分角が取れていてまろやかな肌触りを感じることが出来ます。表現がやや女性的といわれればそんな感じがしますが、そういうイメージはボリュームを上げるに従って変わって来るのもこの演奏の特徴でしょう。スウィトナーの作り出すサウンドは尻上がりに調子を出して来ているような感じです。

 

 第4楽章は、スウィトナーの表現が爆発します。美しくも激しい音楽でオーケストラが燃え上がります。最初の盛り上がりが一段落した2分過ぎからののチェロと木管が歌いだすメロディはその中でも印象的です。民族色を表に出さなくてもここまでやれるんだなぁという見本のような演奏です。オーケストラが直球勝負で挑んでいる感じです。この録音、後にハイパーリマスタリングで発売されていますが、いゃあ今聴いてもこの録音は良い響きです。まあ、第7番はそういうところのスゥイトナーのドヴォルザークの演奏は交響楽団あるべきだとの思いが良く伝わる演奏といっても良いでしょう。

 

 

 それに対して、第8番の方は通俗的な言い方忘れば感動的な名演です。この8番の演奏のお気に入りはブルーノ・ワルターの演奏ですが、その演奏を彷彿とさせる演奏できりりと引き締まった表現はある意味ワルターを上回っているかもしれません。

 

 推進力のある第1楽章、メロディアスな第2楽章、歌心満載のカンタービレが奏でられる第3楽章。そして、高らかに人生の謳歌を歌い上げる第4楽章と充実した演奏を聴くことが出来ます。特に第4楽章のフルートのソロとトランペットの咆哮はワルター以来の感動をもたらしてくれます。まあ、もっともねワルターの演奏もボヘミアの土臭さとはいささか無縁のところがありますがね。もともとがね「イギリス」というニックネームが付いていたところなんざを考えてみてもこの曲にはインターナショナルな雰囲気がありますもんね。