
紡績会社の係長・仁科秋雄は、三十代で念願の分譲住宅を購入した。陽当たりのよい高台の、3LDK。同じ会社のOL山藤節子は、病身の母を抱えての遠距離通勤に耐えかねて、会社に近いところに中古マンションを購入する。二人にとってこの新居は満足のいくものだった。だが、思いもよらぬトラブルが起こる。住民のエゴと業者の思惑―そして殺人事件が。マイホームが引き起こした悲劇を鋭く衝いた長篇推理。---データベース---
推理小説なのですが、不動産業界。マイホームの夢と現実、業者の思惑、住宅ローンの落とし穴などについて述べられています。家探しの苦労、マンション建設に伴い生じる諸問題、住宅ローンのあれこれ、欠陥住宅などについての叙述もあります。これからマイホームをと思う人には参考になる小説と言えるでしょう。
推理小説なのですが、不動産業界。マイホームの夢と現実、業者の思惑、住宅ローンの落とし穴などについて述べられています。家探しの苦労、マンション建設に伴い生じる諸問題、住宅ローンのあれこれ、欠陥住宅などについての叙述もあります。これからマイホームをと思う人には参考になる小説と言えるでしょう。
衣、食、住のうち一番金のかかるのが住でしょう。しかし、この住は家族という単位があれば最重要の問題になるところです。最初に登場する仁科秋雄は高校に進学をする子供を抱える男です。部屋が狭く、潮時とマイホームの購入に踏み切ります。彼の中ではそれなりの設計があり順調ならば何とかなりそうです。しかし、人生はそう思い通りにはなりません。そして、彼の部下の山藤節子も病気の母を抱えて通勤に便利なところに中古マンションを購入します。二人とも地元の不動産会社からの購入です。しかし、この中堅の不動産会社、開発計画がうまく行かず役所から計画の変更を突きつけられているのです。
さして、その役所の都市開発課長が殺されます。彼が開発計画に難色を示していた張本人です。状況から不動産会社の社長が怪しいということは見え見えの設定です。ところが夏樹氏の作品ですからそうは簡単に済むわけがありません。仁科の購入した分譲住宅は擁壁が崩れてむき出しになります。隣の家が無理矢理車の車庫を造ったのが原因でもあるのですが杜撰な造成にも問題がありそうです。そうこうするうちに工場から本社への転勤が決まり、残業が無くなる分給料は減ります。子供も受験に失敗し、私学へ通うためにそれなりの出費が増えます。返済計画に狂いが生じローンが焦げ付いていきます。また、山藤も購入したマンションの上の階の入居者が深夜まで大音量で音楽を流したりどんちゃん騒ぎで騒音をかき立てます。おまけに雨が降ると漏水が始まります。構造上の欠陥なのです。そういう状況で空かせ紹介した不動産業者に好感は持っていません。
仁科は銀行からのローン返済の督促に、担当の八十住(やそずみ)は物件を競売に掛けることを通告してきます。仁科は一年ちょっとでマイホームを手放すことになってしまいます。そして、第2の殺人事件はこの仁科が去った空き家の中で発生します。八十住が殺されていたのです。こんなことで、二人とも動機無しとは言えません。
最初この二つの殺人事件は別個のものと扱われますが、警察の地道の捜査でやがて連続の殺人事件として収斂していきます。そこには、思いがけない目撃者が存在しました。この小説、冒頭にモーテルが火事になり焼け跡から一人の女が焼死体で見つかる事件の記述があります。最初身元が不明なのですが、妻が実家から戻らないと夫から届け出があり、中年のその女は不倫の果ての焼死ということで描かれています。しかし、この火事の現場からも怪しいオートバイが去っていく男の描写があります。
これで登場人物は揃いました。これらの登場人物がそれぞれがお互いに絡みながら事件の真相が一通津津明らかにされていきます。見事な構成力です。ドラマ向きなんでしょう、1981年発表の作品ですが、1985年にはテレ朝の土曜ワイド劇場ですでに放送されています記憶されている人も多いのではないでしょうか。
いつもながらの意外な犯人、そして、最初のモーテルで死んだ女もやはりこの事件に絡んでいたのだということが最後に明らかになってきます。それは殺人事件ではないのですが、この小説のテーマの犠牲に夏多様な焼死だったのです。
この事件の重要なポイントには必ず雨が関わっています。モーテルの火事、開発課長の死、マンションの雨漏り、そしてサブストーリートして書かれているオートバイの男の話しもすべて雨がらみです。
その男のエピソードの中に「スクォッティング」という言葉が出てきます。日本語で「空間占拠」と言うのらしいのですがイギリスでは空き家に勝手に住むことは法律的には罰せられないということで、合法的にこれらのことが行われているようです。日本とはかなり事情が違うようですが、こういう描写もこの住宅問題に関連して描かれているところが興味深い小説です。興味のある人はインターネットで検索してみてください。