ムジカ・アンティカ・ケルンのバッハ |
曲目/J.S.バッハ
Brandenburg Concerto #2 In F, BWV 1047 /1986/06
1. Allegro 4:36
2. Andante 3:22
3. Allegro Assai 2:40
Brandenburg Concerto #5 In D, BWV 1050 /1987/02
4. Allegro 9:43
5. Affettuoso 5:47
6. Allegro 5:11
Orchestral Suite #2 In B Minor, BWV 1067*
7. Overture 10:09
8. Rondeau 1:54
9. Sarabande 3:14
10. Bour??es 1 & 2 1:34
11. Polonaise 2:50
12. Menuet 1:05
13. Badinerie 1:19
指揮/ラインハルト・ゲーベル
演奏/ムジカ・アンティカ・ケルン
演奏/ムジカ・アンティカ・ケルン
録音/1982/04/24-27 フレードリッヒ・エバート・ハレ、ハンブルグ*
/1986/06 ドイッチェランドフンク・センデザール、ケルン
P:アンドレアス・ホールシュナイダー、シャーロット・クリシュ
E:ウォルフガング・ミットレナー
/1986/06 ドイッチェランドフンク・センデザール、ケルン
P:アンドレアス・ホールシュナイダー、シャーロット・クリシュ
E:ウォルフガング・ミットレナー
DGG 439401-2

最近はアルヒーフというレーベルの表示は無くなってしまったようですが、グラモフォンのバロック専門レーベルという位置づけの専門レーベルでした。このレーベル最初はこのゲーベル/ムジカ・アンティカ・ケルンでオリジナル楽器での録音を押し進める計画だったようです。しかし、途中でけんか別れをしてしまい後釜にピノック/イングリッシュ・コンソートが引き継いだといういきさつがあるようです。元々、アルヒーフの録音はグラモフォン翼下にありながらストレートな特性の聴き易い音が特色でした。デジタル化されてそれがいいベクトルに昇華され、しっとりとした伸びのあるまさにバロック向きの音色になっています。
ゲーベルとムジカ・アンティカ・ケルンによるブランデンブルク協奏曲は快速です。気分がうきうきしている時にはこういうバッハもいいかもしれません。ゲーベルはバッハの自筆楽譜に当たってこの録音をしたといいます。しかし、この演奏からはそれまでのイメージとしてのバッハの姿は浮かんできません。ドイツの演奏家でありながらその重厚さがまったく感じられないのです。気分がうきうきしている時と書いたのはそういう意味で、いつでも聴きたい演奏という演奏ではありません。でも、時々聴きたくなる演奏です。このCDに収録されている第2番の第1楽章から弾むようなリズミカルな演奏です。バッハのブランデンブルク協奏曲は特定の楽器のための協奏曲ではないのですが、この第2番はトランペットが大活躍をします。超高音できびきび動き回るトランペットが魅力的ですが第2楽章はまったく活躍しないからトランペット協奏曲ととはいえないのです。強いて言えば合奏協奏曲とでもいうべき曲集なのでしょうね。
第2楽章は、通奏低音のチェンバロの調べに乗ってヴァイオリンの旋律を、オーボエが受け継ぎ、次はリコーダーにバトンタッチしていくというカノン風に演奏されます。それにしても、ゲーベルのヴァイオリンは自在に妖しくメロディを奏でています。そこにオーボエとリコーダーが絶妙に絡んで紡ぎ出すアンサンブルは見事という他ありません。そして、第3楽章。高音のピッコロトランペットが祝祭的テーマを吹いていきます。しかし、このテンポといいリズムはジャズの疾走感に通じるものがあります。ですから、先日ジャック・ルーシェのブランデンブルクを取り上げた後は無性にこの演奏が聴きたくなったのです。
で、2曲目がこのCDではそのブランデンブルク協奏曲第5番です。この第5番はチェンバロの活躍する曲で、カデンツァも書かれていますからまさにチェンバロ協奏曲の前身といえる作品です。ところがこのゲーベルの演奏は、音楽が始まるとチェンバロ協奏曲の雰囲気ではなく、やはり合奏協奏曲になっているのですね。普通のこの協奏曲の録音に比べチェンバロのバランスがやや奥まっているのです。それでいきおい他の楽器が目立つバランスになっています。リストではいちいち独奏者の名前は挙げていませんが、ヴィルベルト・ハーツェルツェトが吹くフルート・トラヴェルソの雅やかな音色やゲーベルの艶やかなヴァイオリンが対等の位置関係にあるバランスで響いているのです。ですからアンドレアス・シュタイアーが弾くチェンバロがやや地味な演奏に聴こえてしまいます。それでも、カデンツァに入ると主役は俺だというふうにチェンバロが大活躍しますがね。
ところで、先程ゲーベルはバッハの自筆譜に忠実に演奏したと書きましたが、録音のバランスの趣旨からいってこの第5番に限ってはそうでも無いようです。この第5番は当初、チェンバロの独奏部は初稿においては僅か19小節の長さしか無くその時点では確かに合奏協奏曲の風合いが強かったんですね。ところが、名前の由来であるブランデンブルク公への献呈稿においては初稿の約3倍の長さの65小節になっており、まさにチェンバロ協奏曲の体裁に改変されているんですね。そういう意味で、この演奏演奏の充実とは別に録音の点ではやや疑問符の着くバランスと言えなくもないのです。
最後は管弦楽組曲の第2番です。レコードが発売された1982年は大変評判になったと記憶しています。管弦楽組曲とはいいながら各パーツが一人という室内楽的な編成でこの曲を演奏しています。ここでも、ゲーベルはバッハ自筆のスコアを忠実に再現したということですが,それがとても現代的感覚に溢れているところがいいですね。編成が小さい分、音がクリアでアーノンクールの演奏に近いやや鋭角でシャープな演奏になっています。それでも、音質は古楽器の豊かな響きまで再現されており、初めて聴いたときこれがアルヒーフの音?とびっくりした記憶があります。
とにかく押しの強いリズムとアクセントでそれまでどちらかと言えばおっとりとしたモダン楽器による演奏に耳慣れているものにとっては衝撃的な音でした。ただ、これもやはり気分がうきうきしている時にはこういう演奏が合うんでしょうな。気分がナーバスな時には、とてもこういう演奏は聴く気になりません。でもジャズの世界からバッハに近づくのなら、この演奏はうってつけでしょう。そういうたような演奏を受け入れる包容力をバッハの作品は持っているということなんでしょう。やはり、バッハは偉大な作曲家です。