イン・マイ・ライフ
ジョージ・マーティンの引退記念アルバム
ジョージ・マーティンの引退記念アルバム
曲目/
1 カム・トゥゲザー/ボビー・マクファーリン 4:37
2 ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!/ゴールディ・ホーン 3:24
3 ア・デイ・イン・ザ・ライフ/ジェフ・ベック 4:41
4 ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア/セリーヌ・ディオン 3:18
5 ビコーズ/バネッサ・メイ 3:16
6 アイ・アム・ザ・ウォルラス/ジム・キャリー 4:29
7 ヒア・カムズ・ザ・サン/ジョン・ウィリアムズ 3:29
8 ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト/ビリー・コノリー 2:58
9 ペパーランド・スイート/ジョージ・マーティン 6:18
10 ゴールデン・スランバー,キャリー・ザット・ウェイト,エンド/フィル・コリンズ 2:25
11 フレンズ&ラヴァーズ/ジョージ・マーティン 2:24
12 イン・マイ・ライフ/ショーン・コネリー 2:29
指揮/ジョージ・マーティン (GEORGE MARTIN)
P:ジョージ・マーティン、ギレス・マーティン
E:ルパート・コールソン
録音/1997 エアー・スタジオ,ロンドン、ファンタジー・スタジオ,サンフランシスコ、レコード・プラネット,ロスアンジェルス
8 2:17
英ECHO LABEL ECHCD20
P:ジョージ・マーティン、ギレス・マーティン
E:ルパート・コールソン
録音/1997 エアー・スタジオ,ロンドン、ファンタジー・スタジオ,サンフランシスコ、レコード・プラネット,ロスアンジェルス
8 2:17
英ECHO LABEL ECHCD20

国内盤は1998年3月にポニーキャニオンから発売されたようです。日本盤では8曲目にブラックバード/ボーニー・ピンクが追加収録されているようですがオリジナル英国盤には含まれていません。どうしてなんでしょう。不思議です。当然ながらオリジナルのライナーにもこの演奏についての記載はありません。
サーの称号を持つジョージ・マーティンの引退記念として制作されたアルバムです。5人目のビートルズと言われた男、改めて、ジョージ・マーティンの才能とセンスには感心・・・というより偉大なものを感じてしまいます。このアルバムはザ・ビートルズが生み出した奇跡の名曲の数々を、実に個性的なアーティスト達がジョージ・マーティンのもとでカバーしている企画ものです。本職のシンガーだけでなく彼の人脈を生かした人選は多岐にわたっています。そして、セレクトした曲目も単なるビートルズナンバーのカバーだけでなく、自身の人生も重ね合わせた内容になっています。
アルバムは「カムトゥゲザー」から始まりますが、さすがビートルズをプロデュースしたジョージです。オリジナルの雰囲気を残しつつ自身の得意としたオーケストラアレンジでロビン・ウィリアムズとボビー・マクファーリンの歌声を支えています。
2曲目の「ア・ハード・デイズ・ナイト」はライナーにも自身が書いていますが、ジョージがゴールディ・ホーンに会いたいがために彼女に参加を要請したものの、彼女が仕事でイギリスにレコーディングに来れないと分かるやジョージ自らアメリカはテキサス州、オースティンまで出向いたということが書かれています。ここはビートルズのオリジナルとはまるっと雰囲気の違うクラブでのブルース調のご機嫌なナンバーになっています。なるほど、こういうサウンドが欲しかったんですね。そして、最初はジャズバンドのリズムに乗って歌いだしますが、やはりここでも後半になってストリングスが登場し、いつの間にかジョージの世界になっています。それにしてもこのゴールデン・ホーンの鼻を鳴らした音とか、投げキッスの音とか自由に楽しく歌っている雰囲気はいいですね。
一転「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」ではジェフ・ベックのギターがいい味出しています。ジョージが作り出したサイケデリックなムードも満点で、ビートルズのサウンドにはやはり、このジョージの編曲が大きな存在であったことが改めて確認出来ます。

このアルバム、レーベルを超えてアーティストが参集していますが、歌姫セリーヌ・ディイオンもその一人です。このアルバムでは唯一ストレート唱法で「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」を歌い上げています。バネッサ・メイの名前はなじみが無いかもしれませんがシンガポール出身の女性ヴァイオリニストです。先日紹介した日本の川井郁子などの先輩に当たる人ですね。記憶に新しいところでは、2006年トリノ・オリンピック金メダリスト、荒川静香がフィギュアスケートの本選競技において、このヴァネッサ・メイのアルバム『チャイナ・ガール』(1997年発表)の収録曲「誰も寝てはならぬ」(プッチーニのオペラ「トゥーランドット」のアリアの一つ)を利用し、特技のイナバウアーを披露したことから、日本国内でこの曲が非常に話題を集めました。ここではその彼女のヴァイオリンをチェンバロと弦楽四重奏のアレンジでサポートして「ビコーズ」が演奏されています。バックに合唱も配された中々凝った編曲です。
異色なのは次の「アイ・アム・ザ・ウォルラス」でしょうか。なんとここでは映画「マスク」などでおなじみのジム・キャリーが歌っているのです。これがまた実に素晴らしい歌声です。オリジナルに忠実ながら、しっかりと彼の狂気じみた個性も打ち出しているのが凄いですね。さすがジョージのプロデューサーとしての慧眼のなせる技です。
それに比べると次のジョン・ウィリアムズの「ヒア・カムズ・ザ・サン」はややものたりません。もちろんジョンの持ち味を生かしてクラシック調のオーケストラサウンドでサポートしていますが、その響きの中にギターが埋没してしまっていて即興演奏的なフレーズも無く期待はずれのまま終わってしまいます。
ビリー・コノリーの「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」はさすがと唸ってしまいます。この人イギリスのコメディアン、ミュージシャン、テレビ司会者、俳優として幅広い活躍をしている人でジョージ・マーティンのもう一つのコメディのプロデューサーとしての面目躍如のキャスティングですね。いゃあ、楽しいったらありゃしない。
さて、ラストに向かってはジョージ・マーティンのお得意のオーケストラ演奏が登場します。ビートルズのアニメ映画「イエロー・サブマリン」に登場する「ペッパー・ランド」の組曲です。サントラの「イエロー・サブマリン」はB面がこのジョージ・マーティンのオーケストラもので占められていましたからそういう意味では、この曲はビートルズの作品であるとともに彼の作品でもある訳です。ここでは抜粋の形で演奏されていますが、デジタルの録音はオリジナルを凌駕するクオリティを持っています。
しんみりと終わるのかなと思わせておいて、次はギンギラロックのフィル・コリンズの登場です。ジェネシスを脱退してソロ・シンガーとして活躍し始めた頃の歌声ですね。もちろん、ここではお得意のドラム・ソロも用意されていて破格の待遇です。メドレーで3曲が歌い継がれています。
アルバムは再びジョージ・マーティンのオーケストラものになります。ライナーには親しい供と片田舎で地平線に沈む夕日を眺める情景をイメージした曲と書いていますが、まさしく、クロージングの曲ですね。これはジョンの死後、モンセラート島で頭にこびりついて離れないメロディだったそうです。そんな思いが切なく静かに響きます。このしっとりとした曲は切れ目無く最後の曲に続きます。
そして、最後はアルバムタイトルともなる「イン・マイ・ライフ」で締めくくられます。これがまた味があります。多分ピアノはジョージ・マーティン自身だと思うのですが、そのピアノの演奏に乗って名優ショーン・コネリーが「イン・マイ・ライフ」の詩を語るのです。そして、最初のフレーズが終わると曲はバロック調の演奏になります。もともと、ビートルズのオリジナルのこの曲でも曲の中間部ではこのジョージ・マーティンがキーボード(チェンバロ?)でバッハ調のメロディでソロを演奏していました。その雰囲気が思い出させれる演奏でありアレンジです。いやあ、実に味のある締め方です。
さあ、締めくくりに代表的な4曲を聴いてみましょうか。
このアルバム作成のドキュメンタリーも残っています。BBCが製作したものです。 |
世の中にビートルズのトリビュート盤は数々ありますが、これは座右に置いておきたい名盤です。