岩城宏之/NHK交響楽団の名演 | geezenstacの森

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日本ステレオ初期名盤選-5 ポップス・コンサート

曲目/
1.(スッペ)/「軽騎兵」序曲[6:26]
2.(ヴォルフ=フェラーリ)/「マドンナの宝石」間奏曲 第1番[4:44]
3.(ブラームス)/ハンガリー舞曲 第5番[2:34]
4.(ブラームス)/ハンガリー舞曲 第6番[3:29]
5.(ヴェルディ)/「椿姫」第1幕への前奏曲[3:15]
6.(シューベルト)/「ロザムンデ」間奏曲 第2番[4:32]
7.(オッフェンバック)/「天国と地獄」序曲[8:43]
8.(マスカーニ)/「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲[3:02]
9.(ドヴォルザーク)/スラヴ舞曲 第10番 作品72の2[4:58]
10.(ボロディン)/ダッタン人の踊りから「イーゴリ公」より[11:07]

指揮/岩城宏之
演奏/NHK交響楽団

録音/1969/03.02.15.20 世田谷区民会館
P:渡辺茂
E:若林俊介

日本コロムビア COCO-83272

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 懐かしい音源です。岩城宏之は当時常任指揮者だったNHK交響楽団と日本人として初めてベートーヴェンの交響曲全勝を録音した指揮者ですが、こういうポップスものも録音していたんですねぇ。懐かしい再会です。そして懐かしい響きが蘇ります。1960年代には日本のオーケストラの録音はほとんど皆無に等しい状態でした。そんな中で登場したのがこのNHK交響楽団の録音です。岩城/N響の最初の録音は1966年の運命/未完成という最もオーソドックスなレパートリーでした。当時、この日本コロムビアは米CBSコロンビアの発売権を持っており、小沢征爾/コロンビア室内管弦楽団と録音した「バロック・オーボエ」というアルバムを既に発売していました(1966/06)。これは今でも珍しい、小沢のテレマンとヴィヴァルディの協奏曲を当時のニューヨークフィルの主席奏者のゴーンバークと録音したものです。一歩先を行く小沢を追うような形で純国産の演奏者による録音がなされた訳です。この企画が当たったのか岩城は1968年からよく69年にかけて一気にベートーヴェンの交響曲全集を録音しています。その合間に、録音がなされたのがこのCDに収められた演奏です。

 それにしても何とも不釣り合いなジャケットだと思いません?でも、これがオリジナルなんですよね。ジャケットには「軽騎兵序曲」と「天国と地獄」が踊っていますが、岩城/NHK交響楽団の字はほとんど目立ちません。最もLP時代はこれに帯がかかっていましたからそちらにはしっかりと記載されてはいましたが・・・

 このシリーズ復刻に当たって定年なりマスタリングが行われています。解説にはきっちりとその使用機材まで書かれています。それによると録音時はノイマンM-49、ノイマンSM-69ソニーC-37A、そしてRCA77DXというマイクが使われています。いずれも一時代を飾って名機です。そして、オリジナルマスターテープの再生にはスイス/チューダー社のA-820というアナログレコーダーを使い、それを20ビットA/Dコンバーターにダイレクトに取り込んでいます。このトランスファーとマスタリングは保坂弘幸氏が行い、それを若林さんらが監修しているということです。もともとアナログテープには経年変化でゴーストが発生しているしテープヒスも相当のっていたと思われます。こういうノイズ補正がアナログ録音には必要なのでそこが復刻の出来の善し悪しを左右します。

 こうして蘇ったものがこのCDに収められた音になるわけです。テープヒスは押さえ込まれていて結構聴きやすい音になっています。ただ、昔LPで聴いた時のヴァイオリンの響きの平板な感じはやはりここでも残っていましたからこれはもう録音の方法がそうだったとしか言いようが無いでしょう。つまりはヴァイオリンを左に寄せてしまい右のスピーカーからは聴こえてこないという不自然な収録方法ですから、音の分離はありますがコンサート会場のようなステレオプレゼンスはありません。

 しかし、冒頭の「軽騎兵序曲」からして馬力のある演奏で、今こうして聴くとかなり力の入った演奏だなぁという感慨を持ちます。当時の岩城氏は丸まると太っていて、汗をまき散らしながらエネルギッシュにたくとワフル姿がまざまざと目の前に浮かんできます。2曲目のヴォルフ・フェラーリの「マドンナの宝石」には主題提示の後、エレクトーンが使われているのが聴き取れます。なぜ、この曲にエレクトーンを使用したのか分かりませんが当時はよくこの手の演奏が存在しました。LPはまだ高価で、小生なども、ソノシートでオーケストラの名曲を聞きかじっていたのを覚えています。レコード会社もLPを出す傍らでソノシートも販売していました。そんな中に新室内楽協会という団体があってこの手のライトクラシックを数々録音して出していました。室内楽とというぐらいでそんなに大勢のアンサンブルではありません。当然不足する楽器はの演奏はエレクトーンで代用していたのです。なんか懐かしい響きがします。ですからこういう演奏もOKなのですが、天下のN響がこういう形で演奏していたとは意外でした。

 ハンガリー舞曲のパンチのある響きで当時聴いた時とは全然音の迫力が違います。こんな音を当時のLPシステムでかけていたら多分針飛びを起こしていたように思います。ライナーで若林さんが書いていますが、やはりここに記録された音はCD向きにマスタリングしてあるのでしょう。

 それと、N響OBのティンパニストの有賀誠門氏が書いておられるのですがティンパニの音が実際と録音とで音が違うということで録音時は固めのマレットを使用することが多かったということです。確かに最後の「ダッタン人の踊り」を聴くとそのことが実感出来る響きです。それにしても、この演奏すごい音です。レコードでは一番内周にカッティングされていたはずですからこんなダイナミックレンジの広い音は多分ひずんで聴こえたでしょう。CD化で初めてこの曲の本来の演奏が聴けるのではないでしょうか。岩城氏の本領発揮の爆裂演奏です。N響もそれに応えていい演奏を披露しています。特にコーダのそのティンパニの連打がむちゃくちゃ目立ちます。そして。ピツィカートの弦の切れ味のある響きも今まで聴いたどの演奏よりも冴えています。この曲の新しい発見です。確かに、この演奏を聴く限り「日本ステレオ初期名演集」の名に恥じない演奏であることが分かります。

 とっくに廃盤の一枚ですが、いいものを残してくれました。中古て見つけたら迷わずゲットです。