ルイス・コボスこの一枚 | geezenstacの森

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ロシア-大陸横断の車窓

曲目
1.カプリッチオ・ルッソ 5:06
※ボルーシュカ・ポーレ/百合の花咲く頃/二つのギター黒い瞳/カリンカ/モスクワの夜は更けて
2. ダンス 6:17
※剣の舞/トレパーク/辻芸人たち/イタリア奇想曲
3 スラブ行進曲 6:27
4. ピッコロ・コンチェルト 7:13
※シェラザード/インドの唄/イーゴリ公/ロメオとジュリエット
5. リズミカルなスケッチ 5:13
※イタリア奇想曲/スペイン奇想曲/コーカサスの風景/ルスランとリュドミラ
6. 9月の或る夜 11:37
※白鳥の湖/ラフマニノフのピアノ・コンチェルト第2番/チャイコフスキーの交響曲第5番/大序曲「1812年」/他
7. ワルツ 8:49
※イーゴリ公/花のワルツ/白鳥の湖/他
8. スペイン奇想曲 3:29
9. ロマンス 3:24

指揮/ルイス・コボス 
演奏/モスクワ放送交響楽団

録音/1986/09 ゴステレラジオ第5スタジオ、モスクワ

P:ルイス・コボス
E:ジョン・カーランダー

EPIC SONY ESCA 5108

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 ルイス・コボスの名前を知っている人はどれくらいいるのだろう。なにせ彼のCDは国内ではすべて廃盤になってしまっています。最盛期は世界音楽の旅シリーズでイタリア、スペイン、メキシコ、ウィーンそしてこのロシアと5枚リリースされていました。ゲテモノ好きの小生はなんとこの5枚を全部所有しています。でも、これらのCDまっとうな形では入手していません。すべて廃盤の形で購入しました。今ではインターネットでしか実施されていませんが、1990年代は日本レコード協会が主催して全国各地で廃盤セールなるものを開催していました。その何回目かのセールが名古屋でも開催されたのでその時出かけていって入手したものです。

 その時偶然に出会ったのがこのCDです。それまで「ルイス・コボス」なんてこれっぽっちも知りませんでした。ヘスス・ロペス=コボスなら知ってましたけどね。スペインではスーパースターらしかったのですが聴いた感じでは当時はやっていた「フックト・オン・クラシック」の亜流のような音楽で、名前もフックト・オンのルイス・クラークをもじったようなネーミングだったので一聴しただけで棚に眠っていました。今回、旅行の時にランダムにセレクションした中にこの一枚が含まれていて改めて聴くことになりました。

 しかし、侮っていました。確かにスタイルとしてはフックとオンの亜流の部分も見受けられますが、そこにはコボスのスタンスをきっちり貫いた音楽がありました。ルイス・クラークはフックト・オンの方からロックの方へ流れていってしまいましたが、ルイス・コボスはしっかりとイージー・リスニングの世界にとどまっていました。

 他のアルバムではロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団を指揮していますが、このアルバムだけはモスクワ放送交響楽団を指揮しています。冒頭の「ロシア奇想曲」と題された曲ではドラムスのリズムに乗りフックトオンばりのサウンドでお馴染みのロシアメロディが奏でられます。しかし、メロディのサワリだけではなくしっかりと曲を歌い込んでいますから5分程の曲でも使われている曲はロシアの民謡の6曲にしか過ぎません。この中でビックリするのは「百合の花咲く頃」です。この曲はイギリスのメリー・ホプキンの歌った「悲しき天使」として知られている曲でビートルズの起こしたアップルレコードの記念すべき最初のシングルレコードでした。その原曲がここで聴けようとは思いませんでした。たしかに調べてみるとこの曲は原曲があったのですね。

 2曲目はロシアの踊りと題されていますが最初の剣の舞以外はチャイコフスキーで纏められています。トレパークはもちろんバレエのくるみ割り人形からの音楽、次の辻芸人たちはちょっと意外な選曲です。解説は濱田滋郎氏が書いていますが的外れな解説で解説の体をなしていません。この曲チャイコフスキーの歌劇「オルレアンの少女(ジャンヌダルクのことです)」の第2幕で現れる「道化役者と大道芸人の踊り」の事なんです。まだまだチャイコフスキーの作品には埋もれた佳曲が眠っています。

 3曲目はスラブ行進曲のサワリをポップス風にアレンジしています。レイモン・ルフェーヴルがやりそうな編曲で、ポップ感覚あふれるいいアレンジです。4曲目はスローな曲ばかりを集めたいい選曲ですがタイトルが「ピッコロ・コンチェルト」というのはしっくりきません。ま、タイトルはどうでもいいのですが、この中で流れるリムスキー・コルサコフの歌劇「サドコ」で流れる「インドの歌」のメロディにしばし、耳を奪われました。戦後この曲が流行していたことは知っていましたが何時しか忘れられた曲になっています。彼がこのメロディをシェエラザードのつなぎで使ってくるとはなかなかのセンスです。

 「リズミックな素描」では4人の作曲家の代表曲をうまく繋げています。ここでもイタリア奇想曲を使っていますが2では後半のメロディをここでは冒頭のファンファーレをうまく取込んで使い分けをしています。そして、イタリア奇想曲とスペイン奇想曲スムーズに繋げて聴かせるところはなかなかです。続いてイッポリトフ・イワーノフの「コーカサスの風景」を使って最後にグリンかを持ってくるセンスはたいしたものです。こういったアレンジは得てしてスタジオでは出来ても実演ではなかなか難しいものがあると思うのですが、コボスはちゃんとコンサートでこなせるアレンジを仕掛けていますから聴いていても安心感があります。

 6、7あたりはやはりチャイコフスキーの曲が中心になるアレンジでさすがにフックトオンチャイコフスキーの感じがしないでもありません。それでも、8、9あたりは一つの曲をじっくり取り上げてコボスのセンスで仕上げています。特にラストの「ロマンス」は有名なルービンシュテインのホ長調のロマンスをピアノとストリングスのしっとりとしたサウンドで聴かせてくれます。指揮姿も華麗ですが、彼の編曲のセンスがやはり人気の秘密なんでしょう。

彼の映像はYOUTUBEにかなりアップされています。


 ルイス・コボスは来日もしているようで関西フィルなんかを指揮していたようですが知りませんでした。

ルイス・コボス
ルイスコボスはドン・キホーテの街ラ・マンチャに生まれ、その街のオーケストラに9才頃から参加、やがて故郷を離れマドリッドの王立音楽院に入学します。ここで、サックス、ピアノ奏者としての腕を磨きます。この頃ロック・ミュージックに傾倒し、1960年代半ばには「コネクション」というグループを結成し、作曲と編曲を担当しますが長くは続きませんでした。1970年代後半のフックトオンの爆発的ヒットを受けて彼も1982年にロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して「ZARZUERA」というアルバムを発表します。これは故郷のスペインでプラチナディスクを獲得、これに気をよくして続いて制作した「光と影の幻想-SOL Y SOMBRA」「MAS ZARZUELA」もスペイン語圏の諸国で大ヒットします。こうして世界への飛翔を狙い、1980年代中頃から世界を旅しながら次々と各地をテーマにしたアルバムを発表していきます。