晩秋の河口湖畔、朝霧の中に艶いた和服の女性の絞殺死体が発見された。下半身剥き出しのその凄惨な姿は行きずりの凶行を匂わせた。しかし狙いは意外なところにあった―。歪んだ欲望と金への妄執、社会のひずみが生み出す小悪漢たちの犯罪。本格推理の名手がミステリータッチで描く、傑作事件小説8編。 ----データベース−−−
この短編集の初出は以下の通りです。初めて津村秀介の短編集を読みましたが、これははっきりいって推理小説ではありません。そういう意味では失望です。しかし、見方を変えて浦上伸介の「夜の事件レポート」だと割り切れば、多分こういうタッチで事件が描かれているのではないかと思えてきます。週刊誌ネタには持って来いの題材だといえるからです。ただ、それにしても複雑なトリックや時刻表を使ったアリバイ工作などという高度のテクニックを使った事件は扱われていません。
殺意の沼地 | 週刊小説1992年2月28日号 |
月下の未遂 | 週刊小説1988年10月28日号 |
陥穽の青春 | 週刊小説1989年4月28日号 |
暗黒の九月 | 週刊小説1989年9月1日号 |
深夜の影男 | 週刊小説1990年7月6日号 |
野獣の分担 | 週刊小説1991年11月23日号 |
無援の出所 | 週刊小説1991年3月29日号 初出時のタイトルは『空虚な出所』 |
湖畔の殺人 | 週刊小説1990年2月16日号 |
最後の「湖畔の殺人」と「月下の未遂」を除いてはどれもレイプ物のストーリーです。ネタ的には2流週刊誌物の題材といってもよく同じような題材をいくつも並べられると飽きてきます。ほんのタイトルになっている一編も最初の取っ掛かりはミステリアスですが、事件に膨らみも無く急転直下事件が解決していくところはもの足りません。刑事と犯人とのチェイスも無いし、ドラマチックな展開もありません。強いて満足が行くのは「月下の未遂」ぐらいで、犯人の動機という点では納得させられるものがあります。しかし、展開はそこまでで、強請につけ込まれる弱点から事件がほころびていく流れはあまりにもあっさりしすぎていて少々がっかりです。
津村秀介はやはり長編物でその力を発揮するタイプなのでしょうか。すでに故人になられているので残された浦上伸介物はじっくり読んでいこうと考えます。