テンシュテットのロマンティック
曲目/ブルックナー
交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
1. Bewegt, Nicht Zu Schnell 20:40
2. Andante Quasi Allegretto 17:10
3. Scherzo (Bewegt) - Trio (Nicht Zu Schnell, Keinesfalls Schleppend 10:18
4. Finale (Bewegt, Doch Nicht Zu Schnell) 22:22
指揮/クラウス・テンシュテット
演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1981/12/13,15,16、フィルハーモニー、ベルリン
P:ジョン・ウィラン
E:ジョン・カーランダー レコ芸のデータによるとPとEはジャケットの表記が逆になっているとの指摘あり修正
東芝EMI CC30-9025

もう20年以上も前に購入したCDです。購入した当時はレパートリーの充実の意味あいでセレクトした物で、いい演奏という記憶はありませんでした。多分代表盤だったマーラーの交響曲第5番と同時に買った物です。久しぶりに棚から取り出して聴いてみると、意外にいい演奏だったので改めて聴き込んでしまいました。最初は、通勤の途中で車の中で聴こうと取り出したのでした。
EMIの録音にいいイメージがない事は今までも書いてきましたが、そういう認識は改めないといけないかも知れません。車に搭載のシステムはエクリプスのオールイン・ワン型なのでたいした物ではないのですが、そこに広がる音場はすこぶる快適なものです。そして、このCDの音はそれに合っていました。時々こういうCDが存在するのですが、それはもっぱらポップス系のものです。クラシック系のものではあまりこういう印象は持たないので驚きました。ひょっとして、この録音はミニコンポ用のシステムで最良のプレゼンスが得られるように収録されているのかと思ったほどです。各楽器の音量のバランスはいいですし、何よりもブルックナーーの分厚い金管の響きが十全に車内の空間を満たしてくれます。低音のバランスもいいし申し分の無いブルックナーサウンドです。テンシュテットの演奏はそれほど所有しているわけではありませんが、見直しとなるきっかけになりそうです。
ところが、車から取り出して我が家のメイン装置で聴くと、ぜんぜん変わった印象になってしまいます。確かに、金管は充分のバランスで鳴って入るのですが、車の中で聴く全体のバランスよりは完全に奥に入っていて目立ちません。要するに並の演奏にしか聴こえないのです。こんな事ってあるのかいなと思える印象の違いです。ということで、鑑賞環境は悪いですが車の中で聴いた印象を中心に書いてみます。
録音データを見ても分かるように、デジタル初期の録音です。ブルックナーの交響曲はテンシュテットは手兵のロンドンフィルとは8番を、この4番ではベルリンフィルを使って録音しています。それは成功しているといえます。特にブラスの咆哮はさすがベルリンフィル!と思わせる抜群の安定感と充実感です。そして、ここではテンシュテットは自己陶酔型といえる熱い演奏を展開しています。後年の評価を見ると実演で実力を発揮するタイプのような事が書かれていますが、いやいや、セッションでもその充実度は変わらないと思います。
第1楽章はすこぶるゆっくりとしたテンポと弱音で始まります。テンシュテット盤の特徴は、弦楽器の鳴らし方で、冒頭の原始霧は、和音の移り変わりをぼかしたような印象で始めています。そこから最初のクライマックスへはなだらかな上昇でカラヤンのようなレガート多様の粘りのようなものが無いのでストレートに登りつめていきます。気持ちのいいブルックナーの響きです。ここの印象はやはり車の装置で聴いたもので部屋で聴くとやや物足りなさ輪感じてしまうので印象はがらりと変わってしまいます。多分車の方は一応4チャンネルで後方のスピーカーからの音場がそういう硬貨を引き出しているのではないでしょうか。同じブルックナーでもベーム、ウィーンフィルの響きはそこに一枚ベールが掛かったような透明感のないものになっているような気がします。そういう意味でもこのテンシュテットの作るストレートな響きは印象的です。
テンシュテットはハース版を使用しているとジャケットには記載されていますが、これはあくまで基本ということで、随所に独自の解釈を取り入れているようです。中間部では本来ハース版では記載されていないテインパニの使用を聴き取ることができます。後のロンドンフィルとのライブでもここでテインパニを叩かせているということなのでテンシュテットの独自解釈ということができると思います。
第2楽章はアンダンテ・クアジ・アレグレットですが、アダージョの趣を持った楽章です。そして、ここが一番テンシュテットの特徴が出ているところでしょう。金管がちょっとお休みの楽章ですが、そこで展開される弦の響きはすばらしいものです。3小節目から始まるチェロの旋律の歌わせ方からしてふくよかで慈愛に満ちた切々とした響きになっています。このメロディは、この後たびたび他の楽器に受け継がれていきますがその適切なヴィブラートを伴った音色とリズムはテンシュテットの人間性を感じさせる最良のサウンドとなって聴き手に伝わってきます。
第3楽章は冒頭のホルンの狩りの角笛がこだまするような出だしから、ブルックナー特有の執拗なスケルツォ楽章です。この楽章はテンシュテットは幾分速めのテンポで軽快に進めていきます。
演奏者 | 第1楽章 | 第2楽章 | 第3楽章 | 第4楽章 |
テンシュテット/ベルリンフィル | 20:14 | 17:10 | 10:18 | 22:22 |
カラヤン/ベルリンフィル71 | 20:31 | 15:28 | 10:33 | 23:02 |
ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレ | 18:23 | 16:30 | 10:51 | 21:06 |
ベーム/ウィーンフィル | 20:04 | 15:28 | 11:02 | 21:03 |
第4楽章は渾身の演奏に仕上がっています。まさにパトスの放出といった感で思い切ったリタルダンドや弦の膨らませ方などさまざまな特徴が伺われます。ここでもハース版にはないシンバルが派手に鳴っていて驚かされます。ベルリンフィルもそうしたテンシュテットの棒に敏感に反応してすざましいクライマックスを作り出しています。得てして、ブルックナーの音楽はワンパターンの展開が多いので聴いていて眠くなるものも多いのですが、テンシュテットはそうなるのを防ぐために巧みな演出で聴くものを飽きさせません。いい録音を残してくれたものです。
ぜひとも4チャンネル、はやりのシステムでいえば5.1チャンネルサラウンドで聴く事をお勧めします。きっとがらりと印象の違う演奏を目の当たりにするのではないでしょうか。