
新大阪着の臨時新幹線で、胸にナイフのつき刺さった男の死体が発見された。近くの屑物入れには黒い革手袋が捨てられており、付着した血液から犯行に使用されたことが判明。凶器を手がかりに捜査は進められた。そして、数日後、北の港町・塩釜でも男が刺殺され、現場近くの駅から、新幹線で見つかったものと同じ手袋が発見された。二つの事件の被害者は同い年で、出身地は京都であった。事件に関わることになったルポライターの浦上伸介の調査により、ひとりの容疑者が浮かんできた。だが、彼には鉄壁のアリバイが…。----データベース−−−
この作品は津村氏の趣味を反映したの将棋と旅行を組み合わせたところにストーリーの面白さがあります。そして、いつもならかなり事件が動いてからでないと登場しない浦上伸介と谷田実憲がちょうど京都へ旅行中ということもあってのっけから登場するのも珍しい設定です。最初の事件が起こる京都で旅行社が主催する将棋好きのメンバーの一行と遭遇してするのです。彼らは横浜の団体でした。
事件は新大阪着14時17分の臨時新幹線ひかり317号と、北の港町・塩釜でも男が刺殺されます。犯人の遺留品の黒い革手袋と犯行に使用された凶器のナイフが同じ物ということで二つの事件は結びつくのですが、それぞれの捜査本部は、最初、独自の捜査を進めています。このストーリーのもう一つの特徴は警察よりも先に事件の関係者を見つける事です。それが、「毎朝日報」横浜支局にもたらされた一本の電話が二つの事件を結びつけます。電話をかけてきたのは、被害者達と同じ京都出身の同年齢の男だったのです。
このたれ込みから事件は一挙に進展します。当然谷田から浦上伸介へ事件のネタは連絡され早速動き出します。物証から容疑者は早々に割れますが、いつものようにアリバイが崩れません。容疑者のアリバイは後続の新幹線がその前を走る臨時列車に追いつけないというジレンマです。こうして、京都―横浜―塩釜を結ぶ難事件に名探偵・浦上伸介が名コンビの前野美保と挑んでいきます。
鉄壁なアリバイは京都へ検証旅行に出ても崩せませんでした。しかし、塩釜の方の事件は何とかアリバイが崩せます。夜から朝にかけての殺人は京都ー塩釜間で可能であったのです。そのためにはツアー客のアリバイ証明を崩さなくては行きません。犯行はこのツアーの性格を逆に利用した巧妙な物でした。それがホテルの勘定書(bill)の通し番号と新幹線を使った絶妙なトリックでした。
ただ、トリック自体は分かるのですが、ここまで14人のツアー客を騙せるものなのかは疑問も残ります。犯行が行なわれたのは臨時の新幹線で本来ツアー客が乗るはずだった列車とは停車駅が違うのです。臨時列車は東京ー新横浜ー名古屋ー京都ー新大阪なのにレギュラーの列車は東京ー新横浜ー名古屋ー米原ー京都ー新大阪に停車しているのです。誰も気がつかないというのは確率としてかなり危険なものです。ただ、将棋好きのそういうツアー客でも、一人の駅弁マニアがいたおかげで急転直下解決する手口は鮮やかです。この駅弁は臨時列車しか積み込まなかったという動かぬ証拠だったのですから。
残念なのはいつもコンビを組んでいる前野美保が目立った活躍をしない事です。確かに浦上にくっ付いて行動をしてはいますが、ぜんぜん目立ちません。いつもはいいチームプレーなのに今回は浦上一人がやけに目立ってちょっぴり期待はずれ・・・・