十津川警部 風の挽歌 | geezenstacの森

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十津川警部 風の挽歌

著者/ 西村京太郎
発行/ 角川春樹事務所 ハルキノベルス

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 中央サウンドの戸田琢二は、テレビやラジオなどのBGMに使用するための、代表的な「日本の風」の音が欲しいという依頼を受け、京都の竹林を吹き抜ける風、鳥取砂丘に風紋を作る風を録音した。ところが、なぜかそのすべてに女性の悲鳴がはいっていたのだ。そして鳥取砂丘で女性の他殺体が発見され、戸田はその犯人として容疑をかけられてしまうのだが…。
十津川警部シリーズ待望の書き下ろし。---データベース---

 1999年の作品です。こちらは雑誌掲載ではなく書き下ろしの作品となっています。多分「南九州殺人迷路」と平行して書かれていたと思われますが、出来としてはこちらの方がましです。ただ、事件にからむ女の設定がやや理解に苦しみ、ストーリー上に唐突として出てきてとんでもない行動をするのが理解できません。

 「日本の風」の音を求めて京都から山陰、鳥取砂丘と音を求めて採録しますがどうしてこの録音に女性の悲鳴が入っているのか理解できません。まぁ、最初の登場人物である戸田は無実なのですが、この逮捕の原因となるのはベンツのキャンピングワゴンが目撃されることなのです。読み手もそこのところがいまいち唐突で、理解できません。何となれば、真犯人も同じベンツのキャンピングカーで同時期に山陰を移動しているのですからなぜ、戸田の車だけが容疑をかけられるのかということです。

 それと、フーテンのように戸田の車に同乗してきた女は、最初は犯人の同型の車に乗っていたにもかかわらず、また同じ車に乗り込むというのも被害者心理からして納得のいかない設定です。そして、事情聴取後はあっさり放免されて結局居所が知れなくなってしまいます。警察の取り調べはそんなに杜撰なのでしょうか。それがために戸田は逮捕拘留されてしまうのですから。
 また、フーテンの女は所持金もないのにどうして伊豆へ行ったり宮城辺行ったり移動できるのかというのも不可解です。ましてや、彼女は絶対音感の持ち主という設定で登場しているのですから、その才能を使った事件展開が何もないと言うのもがっくり来ました。せめて録音を分析する日本音響研究所ぐらいなところが登場してもよさそうなのにそれもありません。

 東京で起こった殺人事件でのベンツのキャンピングカーの調査が、もう少し綿密に行われていればこれらの事件の関連性から鳥取の事件との共通性の浮き彫りが解るし、鳥取県警の初動捜査がしっかりしていて録音から女の悲鳴が聞き取れていたならばもっと早く女の死体が発見できたろうにと思われます。ところで、死体遺棄の現場にバイクで運んだと言う記述がありますが、キャンピングカーにバイクを積んでいた(そんなことをしていたら寝るスペースなんかかくなります)とは考えられませんからこういう展開は実際にはあり得ないでしょう。

 最近の十津川警部ものはグループでの捜査があまり描かれていません。この事件では所轄が東京ということで、久々に十津川班の刑事が大挙して動きます。それにしても、田中刑事や片山刑事はとんとお見かけしませんが配置替えにでもなったのでしょうか。