B級クラシックの楽しみ 1 | geezenstacの森

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B級クラシックの楽しみ 1
曲目/ベートーヴェン
交響曲第5番ハ短調 作品67
1.第1楽章 7:19
3.第3楽章 5:23
4.第4楽章 8:54
交響曲第6番ヘ長調「 田園」作品68*
5.第1楽章 10:29
6.第2楽章 13:23
7.第3楽章 2:53(3:23) 括弧内はビストリーク・レジュハの演奏時間
8.第4楽章 3:50
9.第5楽章 10:33


指揮/アントン・ナヌート 
   イーゴル・ゴーゴリ*(ビストリーク・レジュハ)
演奏/リュブリアナ放送交響楽団 
マズリア・フィルハーモニー管弦楽団*(スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団)

DEAGOSTINI CC-004  

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 オークションで以前ディアゴスティーニから書店経由で発売されていた「クラシック・コレクション」を纏めて取得しました。まさしく、B級クラシックの宝庫ですのでその感想も含めてルーツ探しをやってみました。

 ナヌートによるベートーヴェンの交響曲第5番はオーソドックスな演奏です。奇をてらった所は無く充分にオケを鳴らし聴かせる所はきちんと聴かせてくれます。オーケストラも格段に上手い訳でもありませんがかといって下手ということでもありません。

 第1楽章のテンポも遅からず速からず、変なためを作っていないので安心して聴けます。強いて言うならば冒頭の「運命」の動機も、カラヤン以降の畳み掛けるバッセージで緊張感があります。第2楽章はこの演奏の白眉でかなり力のこもった熱演です。

 B級クラシックといえど、このナヌートの演奏はきちんと出所が分かっておりそういう意味でも安心して聴くことができます。原盤は米ストラディヴァリなのですが、本家のCDはほとんどお目にかかりません。小生もショスタコーヴィチの交響曲第7番のCDを所有しているぐらいです。

 それに比べると第6番「田園」のイーゴル・ゴーゴリはかなり怪しい演奏家です。演奏するマズリア・フィルハーモニックは、クラクフやダンツィヒ等の都市の優れた奏者を集め1988年に設立されたポーランドのオーケストラ。交響曲から古典、ロマン派、オペラなど幅広いレパートリーを持ち、現在は世界中のインターナショナル・フェスティバルに参加するツアーを続けている。と紹介されているホームページがありましたから信頼出来るようですがこの演奏に関しては信用出来ません。
 
 さて、指揮者ですが幽霊の可能性があります。この演奏の原盤となっている「PILZ」というメーカー以外に彼の録音が出ていないのとこの録音と同じ演奏と推定される音源がいくつも存在するからです。この件については本家の「BQクラシックス」というホームページに詳しく紹介されています。もっとも、本家はBQといってベスト・クオリティという意味で決してB級ではありませんが・・・
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 そこでの検証では「ハンス・スワロフスキーの田園にまつわる仮説」という一文の中で行われています。小生もこのスワロフスキーの演奏についてはPILZの2枚組(44 9259-2)を所有していますので確認を試みましたが、指摘されている通り第3楽章の演奏時間が異なります。ただ、ゴーゴリの演奏は第3楽章の提示部を演奏していません。再現部からいきなり始まっている演奏なのです。よって、その分を勘案するとそこまでの演奏時間を差し引くと同一の演奏という事になります。

 ただし、ここからが問題でこのハンス・スワロフスキー(ウィーンの音楽大学の指揮科の教授で門下生にはアバド、メータ、ヤンソンス等の指揮者がいます)という指揮者は1899年の生まれで没年は1975年9月10日です。と言うことはデジタル録音を残している可能性は皆無です。ここに収録されているのは正真正銘のデジタル録音ですからスワロフスキーのはずはありません。

 そこで結論づけられるのは、一番可能性としてあるのはビストリーク・レジュハ指揮 スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団の演奏という事です。安田さんのホームページではビストリックと表記されていますが通称的にはビストリークの方が古くから使用されていて一般的なようです。この人はスロヴァキア・フイルの常任として1986年に来日していますが実在の人物です。

 ルーツ探しをしましたがこういう楽しみもB級クラシックにはあります。

 さて、個人的にはこちら田園の演奏の方が好きです。オーケストラの編成はさほど大きくなく、ダイナミックさは感じません。しかしながらそこから紡ぎだされる音楽は魂が入っています。

 第1楽章はけっこう早めのデンポでぐいぐい突き進んでいきます。個人的にはもう少しゆっくりめの演奏の方が好きなのですが、聴き込むとカラヤンばりのこのアップテンポもそうも悪くありません。フルトヴェングラー見たいに極端に遅いものよりはよっぽど良いです。この演奏は弦のバランスが絶妙です。小編成の演奏というとワルターの田園が有名ですが、ワルターの第1楽章は第1ヴァイオリンの主旋律が目立ち過ぎて第2ヴァイオリンが隠れてしまっていますが、このごゴルの演奏はその辺のヴァランスがしっかりしていて第2ヴァイオリンのきらきらと輝くフレーズもしっかりと聴き取ることができます。録音もデジタルで各楽器の音もクリアーな音質で録っていて申し分無い響きです。

 演奏は立派で申し分無いですが、収録時間の関係でカットがあるとすると、捕獲するならPILZ盤を探すしか無いでしょう。中古ショップにはたまに出物があるようです。なを、PILZ盤は2枚組でもう一枚には同じベートーヴェンの交響曲第3番が収録されています。こちらも幽霊演奏家で、
ヘンリー・アドルフ指揮南ドイツ・フィルハーモニー
となっていますが、実態は
ズデニック・コシュラー指揮スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団
の演奏です。