
博多行寝台特急「あさかぜ1号」の個室で男が毒殺された。被害者は成城に広大な邸を持つ資産家。同伴していた女はなぜか岡山で降りていたのだ。偶然同じ列車に乗り合わせ、彼女に惹かれた警視庁の杉本刑事は、十津川らと事件の捜査にあたる…。--データベース---
この事件では杉本という刑事が全編に渡って活躍します。今まで読破した作品の中では登場した記憶がありません。こういう登場の仕方は最後に殉職というパターンが多いので、この杉本刑事も一回限りの登場かなと思って読み進めました。ところが、予想に反してどんどん活躍します。勝手に休暇を取って怪しい女を追いかけ北海道まで出かけます。しかし、その追いかけの列車内でも女が絡んで2件の殺人事件が発生してしまいます。そして、杉本自身もこの女を尾行中に何者かに襲われ後頭部を殴られ気を失います。しかし、杉本が誰に襲われたかは最後まで明らかにされていません。こういう辻褄が合わない所は結構目につきます。

こうして、事件はある信用金庫が絡んでいる事と、被害者はいずれもその信用金庫に多額の貸し付けを受け、さらに高額な保険金がかけられていた事が分かります。この線から地道な捜査が進められます。そして、女は以前この信用金庫に務めていました。それも社長直属の秘書課です。こういう繋がりの中で女の役割が浮上してきます。そして、女の両親の実家もこの信用金庫から多額の融資を受けていました。そして。嫌っていた生命保険にも入っています。
杉本は女に会いその事実を伝えます。女の顔色が変わり、警察に出頭する変わりに更なる殺人に加担していきます。十津川警部たちは次に狙われる人物を割り出し密かに身辺を警護します。果たして、女はブルートレイン「はやぶさ」に乗り込んできます。しかし、殺されたのはマークしていた人物ではありませんでした。なんと、信用金庫の調査部長でした。彼女は復讐に燃えていたのです。十津川警部は信用金庫の社長(本来は理事長のはずですがここではこういう扱いになっています)が狙われると西本刑事達に連絡し、自分たちも社長達がアリバイ作りに逗留している箱根の別荘に向かいます。
役者が揃い、この別荘で最後の対決が始まります。この一編はドラマ向きということもあって、2005年3月28日に渡瀬恒彦の十津川警部のシリーズで放送されました。このタイミングが、このドラマを録るには最後のチャンスだったのです。なんとなれば、寝台特急あさかぜは残念ながら2005年3月1日のダイヤ改正で廃止されてしまったからです。それに先立ってロケが敢行されドラマ化されたということです。ドラマ化に当たってはかなり登場人物が整理されていて残念ながら杉本刑事は登場しません。杉本刑事の活躍はこの小説でしか味わえません。
ということで、これはお薦めの一冊です。
寝台特急 あさかぜ 昭和31(1956)年11月19日東京-博多間で「あさかぜ」が登場する。東京発18:30→博多着翌日11:55、博多発16:35→東京着翌日10:00での運転で京阪神地区を深夜に運転される当時としては画期的なダイヤであった。昭和33(1958)年10月1日改正から20系客車での運転となる。当初の編成は荷物車、2等寝台車A室、2等寝台車B室2両、2等車、食堂車、3等寝台車5両、3等車2両であった。昭和43(1968)年10月1日改正から東京-博多間に「あさかぜ」が増発される。昭和45年10月1日改正で東京-下関間に「あさかぜ」が増発された。昭和47(1972)年3月10日から東京-博多間の「あさかぜ2/3」1往復を14系に置き換えられる。昭和50(1975)年3月10日東京-博多間1往復が廃止される。昭和52(1977)年9月25日から東京-下関間の「あさかぜ」が24系25型に置き換わる。昭和53(1978)年2月1日から東京-博多間の「あさかぜ」が20系客車から24系25型車両に置き換えられる。昭和61(1986)年12月25日から東京-博多「あさかぜ1/4」にカルテットの連結が始まる。昭和62(1987)年4月14日から東京-博多間「あさかぜ1/4」にシャワー室付きデュエットの連結が始まる。平成2(1990)年3月10日から東京-下関間の「あさかぜ2/3」にシングルデラックス、ラウンジカーの連結が始まる。平成5(1993)年3月18日から東京-博多間の列車から食堂車の営業が休止される。平成7(1995)年12月3日東京-博多間の「あさかぜ1/4」が廃止され、東京-下関間の列車になる。平成17(2005)年3月1日改正により廃止されることとなった。最後のダイヤは東京19:00→下関翌日09:55、下関16:50→東京07:33であった。