東京湾アクアライン 15.1キロの罠 | geezenstacの森

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東京湾アクアライン 15.1キロの罠

著者 西村京太郎
出版 新潮社 新潮文庫  

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 飯田橋の狭いアパートの一室で見つかった中年男の絞殺死体。その傍らには、「タクサンノヒトガシヌ」という言葉とともに、ヨットの帆にも見える、奇妙な三角形の図形が描かれた便箋が、残されていた。大量殺人を予告する奇妙なダイイング・メッセージに、十津川警部と亀井刑事の捜査は難航する。その頃、川崎―木更津を結ぶ東京湾アクアラインの爆破を予告し、五億円を要求する電話が、日本道路公団に。そして、アクアラインの海底トンネルには白煙が充満し、トンネル内はパニック状態におちいった…。迫真の長編推理最新作。---データベース---

 新しい物好きの西村氏、今回はアクアラインを登場させました。5億円の奪取方法や次々と仲間を殺害していく主犯の動機などに疑問は残りますが舞台に東京湾アクアラインを選んだ著者のアイデアは流石です。ただ、ハローワークに集う人間像を仲間に選んだ事はちょっと意味不明です。

 最初の殺人は3畳一間の狭いアパートの一室で発生します。福井から職を求めて東京に出てきた45歳の男が殺されるのです。データベースにあるダイイングメッセージが残されますが、捜査一課の中では早くから東京湾アクアラインの風の塔もその形から注目はしています。被害者がハローワークに足げく通っていた事から犯人グループの面は早くから割れます。しかし、いつもならこのルートで容疑者達を追うはずなのに今回はそうはしません。この最初の捜査が充分されなかった事が事件を大きくしているとも言えます。言葉を変えれば捜査ミスがこの事件を引き起こしてしまうのです。

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 犯人グループには女が一人います。3歳の子供のいる母親です。何でこんな人物まで犯人グループに入っているのか不思議です。案の定、ストーリーの展開の上では何の役割も与えられてはいません。後半に至ってはただ足手まといになっているだけです。こんな犯人グループですから統率が取れている訳がありません。グループの一人が以前所有していたクルーザーで海上に浮かぶ川崎人口島「風の塔」へ上陸し、爆薬を仕掛け当時アクアラインを管理していた日本道路公団を脅迫します。要求は5億円、最初はいたずらだろうということで500万しか用意しませんがこれが、犯人グループに知られる事になり、第1回目の爆発が起こり風の塔の機能が停止します。慌てふためく公団は慌てて5億円を用意します。

 この5億円の強奪方法は緻密の様でいい加減です。東北地方の小さな信用金庫がなぜ利用されたのかということにも関係がありますが、東京での計画が緻密であるが故に、こんな方法で強奪出来るのかという驚きもあります。それが後々の現金の移送方法にも繋がります。

 事件は後半爆破殺人が連続します。アクアラインを巡っての脅迫事件は、いやが上でも殺人事件を巻き込んでいきます。それも、犯人の仲間割れとも思われる殺人です。こう考えると、最初の殺人事件は序章であった事が分かってきます。ここで、女の存在が少しだけ意味をなし、寿もーのフランス人形とともに爆死します。この事件にはやたらプラスチック爆弾が登場します。まあ、自衛隊上がりの人間が一人いるから手に入るのは分かりますが、自衛隊も管理が杜撰なものです。それにしても爆薬の線から犯人像も絞り込めるはずです。このプラスチック爆弾を主犯の男は次々に利用して仲間を殺していきます。5億円の金は彼にとっては最終目的でなかった事が分かってきます。

 現金5億円は手に入れましたがもそれを東北からグループのいる千葉まで軽自動車で運ぶというのはあまりにも稚拙です。途中で検問に引っかかれば逃げることはできないはずです。予想通り、検問がしかれます。千葉の君津までは内房総線です。しかし。わざわざ東京駅から乗り込んで駅員に目撃されてしまいます。こんな輸送方法は無理に決まっています。なんか、ここら辺がちぐはぐです。いつものスマートさに欠けます。現金強奪が最終目的ではないためにこんな手法になるのでしょうか。

 事件はあくまでも、アクアラインで解決していきます。犯人達は逃げないのです。こんな所にもこのストーリーにいらだちを感じます。十津川警部たちが追いかける、推理するという部分がこのストーリーからは抜けてしまっていていつもの読後の爽快感が無いのです。やや失望の一冊でした。

 千葉県の産業振興を目的として30年の歳月と総工費1兆円をかけて平成9年12月開通に開通したバブル時代の負の遺産「東京湾アクアライン」は千葉県に利益をもたらすことなく開通しました。小説の中でも利用客の少なさを指摘していますが、現実はそれに輪をかけてひどいもののようです。川崎から木更津まで15分で渡れるという便利さは魅力がありますが、15Kmで3000円(ETCは2320円)の通行料ではこれからも産業用としての利用は難しいかな。