十津川警部 白浜へ飛ぶ | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

十津川警部 白浜へ飛ぶ

著者 西村京太郎
出版 講談社 ソフトカバー 

イメージ 1


 阿佐ヶ谷のマンションで商社の若手社員が殺された。捜査陣は、南紀白浜行きの便に乗務中の彼の恋人に連絡を取ろうとしたが、彼女も空港内のトイレで殺されていた。そして、彼女のマンションには「死ね!」という赤い文字が!犯人は彼女を追いかけていたというストーカーなのか?トラベルミステリー傑作集---データベース---

 短編集です。以下の4編が収録されています。
◆処刑の日◆絵の中の殺人◆十津川警部の苦悩◆十津川警部白浜へ飛ぶ

 この中で、表題作が最後に収められていますが、、ちょっと違和感のある作品になっています。というのも、客室乗務員のことをここでは、スチュワーデスと呼ばずにエア・ホステスと称しているからです。この小説が発表されたのは1997年ですからそれほど古いものではありません。それ以前の作品ではスチュワーデスの表記を使っていましたからなぜこんな表記になったのかは不思議です。ちなみに「ウィキペディア」で検索すると、確かに初期にはそう呼ばれていたこともあるようです。ちなみに現在はスチュワーデスという表記もあまり使われなくなってもっぱらフライト・アテンダント、エア・アテンダント、また単にアテンダントと呼ばれているようです。最先端が好きな西村京太郎がなぜこの時期に古いエア・ホステスの表記を使ったのか不思議な気がします。こんなことは本筋には関係のないことですが非常に気になった表記です。

 さて、冒頭にも登場するストーリーですから傑作と思いきや、これがあんまりなのですね。まあ、犯人が男とも女とも不明な書き出しにはなっていますが、不審人物が二人登場すればその何れかということは分かります。イメージ 2後はその特定だけなのですが、その決め手はエアー・ブラシです。絵を描く人以外ほとんど知らないものだとは思いますが、こんなものが使って犯人はわざわざメッセージを残します。まさに、犯人を特定する要件になってしまいます。普通ではこんなものは持って旅行には出かけませんからね。また、トリックとしてはいささか物足りないのは、最初の殺人で被害者は南紀白浜の名物「温泉まんじゅう」で殺されるのですが、このまんじゅうから指紋がいっさい検出されないのです。包装紙ぐらいは販売者の指紋は残っていても良さそうなのにそれも検出されないという不思議さです。

 しかしこの犯人、殺人の方法は手が込んでいるのに、その前に失敗を犯しています。簡単に身元がばれる行動をしているからです。普通はこんな行動はしないよなぁ、とは読み終わってからの感想です。まあ、こうしないと犯人が分から無くなって長編になってしまいますからしょうがないか。

◆処刑の日

 最初から犯人像が絞り込める殺人事件です。話の商店はフーダニットに絞られます。 動機とアリバイ。この両面から捜査すれば自然と犯人像は浮かんできます。こういうストーリーはたいてい犯人が最後に登場します。推理小説の王道です。これも、そのパターンで描かれていますから真ん中を読み飛ばしても犯人は浮かんできてしまいます。もう一捻り欲しいと感じました。

◆絵の中の殺人

 十津川警部に絵の趣味が在るとは知りませんでした。それにしても不思議な絵です。タイトルは「さくらの木の下の死体」です。この絵のことを調べると作者は既に死んでいました。交通事故に遭い車に轢かれたのです。そして、加害者は交通刑務所に服役していました。しかし、納得のいかない十津川警部は3課間の猶予を貰って事件ではないこの調査をします。そして、本当に死体が発見されるのです。そのことを、加害者に伝えると、犯人はほっとして反対にお礼を言われます。事件は解決したのですが、犯人に取ってはフーダニットの本当のところが分かってそれが嬉しかったのです。十津川警部と亀井刑事はそんな犯人を見て言葉を失ってしまいます。

◆十津川警部の苦悩

 捜査一課のベテラン刑事が警視庁内でピストル自殺します。死んだ長谷川要は十津川警部の部下でした。そして。後になって妻に当てた遺書が出てきます。そこには、Tを恨めと書いてありました。本来は怨めなんでしょうけれど、表記はこうなっています。日本語の難しいところですね。上司でTの付くのは十津川警部だけです。十津川警部はそのことに衝撃を受けます。心の傷もいえないとき事件が発生します。老舗和菓子屋の職人が殺されます。ここでの犯行の動機の一つに煙草が深く関係しています。
 小生も煙草はやりませんので、この気持ちはよく解ります。煙草の煙は煙草を吸わない人間にとっては煙草の煙は生理的には苦痛以外の何者でもありません。容疑者を問いつめると最後は煙草の特権を持っている被害者に逆上したことが原因でした。そして、この事件と並行に、亀さんは西本刑事に長谷川刑事が自殺した事件を一人て捜査させます。そして、十津川警部以外にTの付く元上司の存在を突き止めます。そこに絡んだ事件は、これ自体が警視庁にとっての不祥事でした。
 ということで、一編で二つの事件が解決してしまうおいしい短編に仕上がっています。そして、喫煙者にはちょっとほろ苦い作品になっているといえるでしょう。喫煙で何処かで誰かに憎まれていても知りませんよ。