カール・ミュンヒンガー
ベートーヴェン交響曲第3番「英雄」
曲目/ベートーヴェン
交響曲第3番変ホ長調Op.55「英雄」
交響曲第3番変ホ長調Op.55「英雄」
指揮/カール・ミュンヒンガー
演奏/シュトットガルト放送交響楽団
演奏/シュトットガルト放送交響楽団
録音/1983/10 福音教会、ルートヴィヒスブルグ
P:アンドレアス・ロイプロンナー
E:ステエファン・シェルマン
独インターコード INT830.803
P:アンドレアス・ロイプロンナー
E:ステエファン・シェルマン
独インターコード INT830.803

小生の一番好きな曲はベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」です。それこそレコード時代はすべてのレコードを集めるつもりで片っ端から収集しました。CD時代になってからはさすがにその根気は無くなりましたが、今でも気が向けば集めています。このミュンヒンガーの「エロイカ」はそんなコレクションの中の一枚です。日本ではDECCAから発売されていますが、小生が所有するディスクはドイツのインターコードから発売されたものです。以前のブログでも少し触れましたが、インターコードは現在ではEMIの翼下に入っていますので本来ならEMIから発売されるべき音源です。と言うことは、多分デッカはインターコードから一本買でこの音源を買ったのではないでしょうか。録音スタッフからしてもデッカのものでないことが分かります。もともと、インターコードにはシュトットガルト古典POと6番「田園」も録音していますし、他にも、2、6、7番の録音を残しています。しそして、最近DISKYからこの2、3、6、7を3枚組にして発売されました。解説によるとやはりEMI音源ということですからデッカからの発売は今後は無いということなのでしょうかね。
さて、ミュンヒンガーの指揮を一言でいうと楷書のベートーヴェンです。これはバッハやヴィヴァルディの演奏にも通じるものですが、がっちりとしたいかにもドイツ的という演奏です。揺るぎない構成で淡々と押し進められていきます。しかし、機械的という訳ではなくフレーズフレーズの変わり目はリタルダンドでしっかりためを作って決めていきます。それはちっとも不自然には聴こえず、ドイツの伝統にのっとった格調高いベートーヴェンです。テンポは非常に揺ったりとしており、正に悠々自適といった様相です。すべてのリピートを繰り返すという演奏では有りませんが第1楽章は16分17秒かかっています。そして、コーダのトランペットはオリジナルのまま演奏されています。このトランペットの扱いは微妙で決して突出した響きを作っておらず全体の中に溶け込んだ響きでオリジナルの響きでも違和感は有りません。
第2楽章の葬送行進曲は主調はハ短調です。ここでもフレーズが変わるたびにひとつ間を置く演奏で曲の構造が手に取るように分かる演奏です。そしてその「間」の中に音に無い音楽を感じます。丁寧な音楽の作りで、ハ長調の中間部分との対比も見事です。その後のコントラバスの呻くような音から始まるフーガもドスの利いた低音ではなく節度が有り続くトランペットも絶妙なバランスで鳴り響きます。実に意味深い響きであり演奏です。15分53秒。
第3楽章は一転して軽快なアレグロ・ヴィヴァーチェです。先行の2楽章が遅かったためにここでは通常のテンポですが速さと推進力を感じます。中間部のホルンの響きも羽目を外すこと無くきっちり様式美に守られていますが輝いています。これがバッハから続くミュンヒンガーの美学です。5分59秒。
第4楽章のフィナーレはこれまた遅めのゆったりとした演奏で疾走感は有りません。剛健実直のミュンヒンガーのアレグロ・モルトです。一つ一つのフレーズを大切にし、それをフーガの中で織りなしていきます。一瞬、まるでバッハのフーガを聴いているような錯覚に陥ります。4楽章は自由な変奏曲形式になっていますがそこには対位法的な手法も取り入れられていてまさに、ミュンヒンガーの腕の見せ所となっています。淡々とした中にも細かい息づかいがあり古典の様式美に徹した演奏は聴き終わって深い感動に包まれます。