
「-島」と意味不明のことばを残して、初老の男女2人が相次いで死んだ。男は交通事故死、女は溺死だった。 二つの死に共通する謎のことば「島」に、事件の匂いを感じた十津川警部と亀井刑事は、二人が日本三景のひとつ、松島一帯を所有する地主夫婦であることをつかむ。どうも松島開発に絡む事件に巻き込まれた可能性が高い。 捜査中に浮かんだデベロッパー「みちのく興発」の背後に、政界で暗躍するあの男の影が...。事件は思わぬ方向へと急展開を...?!十津川警部、松島へ。政官をつなぐ黒いルートに、十津川警部の鉄槌がくだる!西村サスペンス最新作!---データベース---
この小説は雑誌連載当時は「東京・松島事件の輪」として発表されましたが単行本化されるにあたって改題された一編です。近作にはムラのある作品が多いのですがこれは面白く読めました。
最初は事件とはいえない出来事の発生です。本来は捜査一課が動くほどのことではないのですが、事件の匂いを嗅ぎ付けた十津川警部は上司の本多一課長を説得して非公式に活動を開始します。マスコミがこの事件を取り上げると警察も本腰で取り組まざるを得なくなり十津川警部と亀さんは本格的に捜査しだします。そこへ、投書が一通舞い込みます。東北地方で不明になっている人物に似ているとの内容です。渡りに船と二人は出かけますがどうも人違いのようです。しかし、島へわたるのに有料の橋があるということをヒントに東北各地を調べ上げると松島に該当する島がありました。「福浦島」という島です。この島、実在する島で橋の通行料は200円と確かに有料です。
どうも事件はこの島の観光開発を巡っての利権争いが原因のようです。殺された男女はこの島の所有者とおぼしき人物と判明します。しかし、この島の開発にあたっては県の観光課が一枚噛んでいます。やがて、観光課の課長が殺され事件の波紋は広がっていきます。そして、バックには東北地方に暗躍する影の大物が浮かび上がってきます。
鉄道トリックこそは出てきませんが沈められたクルーザーを巡っての警察と業者の駆け引きは読み応えがあります。鉄道以前に海洋物で活躍した十津川警部は、ここでは自ら松島の海に潜って沈んだクルーザーを探します。亀さんは潜れないので船上で待機です。
前半は物語の進捗はゆっくりですが後半はテンポアップできびきびと進みます。事件は6月15日に起こり7月上旬には相続人を名乗るTKKが名乗りを上げます。そして、7月15日には意志を継いで観光開発の事務所が開設されます。そして、7月下旬から沈んだクルーザーの捜索が始まります。妨害に合いながらもクルーザーを発見し7月28日には障害物を爆破して引き上げの準備が始まります。クレーン船を使ってのクルーザーの引き上げには実際にはかなりの日数を要するのですがここでは僅か数ページで半月が進みます。そして、8月12日遂にクルーザーは引き上げられ十津川警部は船内に入り込み事件の真相を解明していきます。
脅迫、殺人の証拠が次々と明らかになっていきます。そして、事件は大団円を迎えますが、この展開の後半1/4は一気に読み進んでしまいます。読み終わってすっきりする爽快感は格別です。 これもお薦めの一冊です。