著者/西村 京太郎
出版社/光文社 光文社文庫
出版社/光文社 光文社文庫

「えっ、妹が船から海に落ちた!?」広島県尾道市の病院からの電話に、日下刑事は驚愕した。妹の京子は、連絡の途絶えた親友ユキを追って同地を訪れていたのだ。京子は、駆けつけた兄に何者かに船から突き落とされたと告げた。十津川警部は、日下とともに捜査に乗り出すが、やがてユキの水死体が発見される…。巧妙な犯人に十津川が挑む。---データベース---
日下刑事の妹が登場し事件に巻き込まれます。そして、親友のユキが尾道で消息を絶ちます。林芙美子に憧れての旅行のはずですが、行動が不可解です。表面上は何も事件の発生していない因島での行方不明です。現地へ飛んだ日下は、独自の捜査を開始します。そこで知り合った柴田刑事との地道な捜査で不審な旅行グループが浮かび上がってくるのですが、このグループと殺されたユキと接点が不可解です
この小説は不可解な事が多すぎます。まず、ストーリー上ではこのグループにとってユキは新しい仲間ということになっていますが、彼らは東京-熱海-京都-姫路-尾道・因島-高知-東京というルートで旅行しているのです。単独で尾道に行ったユキが彼らと接触する機会はほとんどありません。グループの一員なら最初から同一の行動をとるはずです。
そして、捜査の中で浮かび上がる因島のタクシーの運転手が事件後急遽引っ越しをします。東京のタクシー会社の引き抜きにあったということですが、そのタクシー会社には就職していません。この夫婦も行方不明になるのですがこの捜査は途中からうやむやになります。
さらに、この旅行グループを追っても金使いが荒くなる事象が掴めないことです。最後の方でグループの一人シナリオライターの豊田が家を新築していますが、大金が使われたと思われる事象はそこしか描かれていません。犯人の動機からすれば裏切りの特急サンダーバードと同一のものです。それがこの事件の事件性を消しているのかもしれません。
前半と後半は少しタッチの違う作風になります。前半はユキの失踪と旅行グループの存在の関係がしっくりこなくてイライラ気分でしたが、中盤以降はこのグループの実態の捜査になり俄然テンポが上がります。はっきり言って、前半のユキの捜索はあまり重要ではありません。
後半から事件の性格が変わってきます。仲間が二人殺されます。追いつめられたグループが分裂し、殺人を重ね自滅して行く後半は快調なテンポで楽しめます。そして、主犯は新たに仲間を募ってまた、強盗旅行を計画します。短期でメンバーを替えるのなら何で殺人事件なんかを起こすのだろうとか不思議な展開です。まあ、この行動が彼の命取りになります。十津川警部は二度も同じ手口では引っかかりません。
列車のトリック、騙しの殺人旅行など見せ場は沢山ありますのでそれなりに楽しめます。しかし、事件のタイトルと犯罪があまりにかけ離れているのでなんかピンとこなかった作品ではあります。