グレートコンダクター
その1
曲目/ベートーヴェン交響曲第5番ハ短調Op.55「運命」
1. Allegro Con Brio (Reharsal) (live) 11:58
2. Andante Con Moto (Reharsal) (live) 11:22
3. Allegro (Reharsal) (live) 7:03
4. Allegro (Reharsal) (live) 14:15
5. Allegro Con Brio (live) 8:05
6. Andante Con Moto (live) 10:17
7. Allegro (live) 5:49
8. Allegro (live) 9:02
演奏/ルガーノ放送管弦楽団(スイス・イタリア語放送管弦楽団)
指揮/ヘルマン・シェルヘン
指揮/ヘルマン・シェルヘン
録音/1962/02/26 ルガーノ
Documents 223602

シェルヘンはベートーヴェンの交響曲全集を録音しています。最近では AriosoからARI106で出ているようです。ですが、今日紹介するのは DOCUMENTSから発売されている「グレートコンダクター」の中の一枚です。こちらは交響曲第5番1曲だけしか収められていませんが、リハーサルと本番の両方が収録されていて彼の音楽作りの一端を知ることができる貴重なドキュメントとなっています。
リハーサルはほとんど通しの演奏で行われています。その中で、シェルヘンの「クレッシェンド!」とか「ピアノ!」という言葉が賑やかに飛び交っています。オーケストラはお世辞にも巧いとは言えません。弦も不揃いだし、各楽器のバランスもとれていません。そして、何よりも時代を反映して一時代前の運命を奏でています。同時代のベームやワルター、クレンペラーの「運命」に通ずる響きです。
シェルヘンは指示をイタリア語で出しています。まあ、もともと音楽用語はイタリア語が起源ですから何ら問題はありません。それにしてもリハーサルの指示を聴く限りではダイナミックな響きの構築を目指しているのは明らかです。そんなリハーサルが1楽章から4楽章までほぼ通して行われています。そして、最後にもう一度第1楽章の冒頭がもう一度リハされます。

そしていよいよコンサート本番です。リハーサルの出来具合からすると本番はあまり期待してはいなかったのですが、これが大間違いです。さすが腐っても鯛、プロのオーケストラです。リハーサルはあくまでもリハーサル。本番は爆演です。
第1楽章の運命の主題こそ、ちょっと不安定さが顔を出しますが、シェルヘンのリズムに乗ってしまうと後は突っ走ります。運命の動機のリピートは不安定さは消え、金管が吠えます。シェルヘンのテンポは独自です。休止をたっぷりととって疾走感はやや押さえ気味にして旋律を充分に歌わせています。オケがついていくのに必死です。確かに楽譜を見ると3小節目の動機の後は2小節の全音符でしかもフェルマータ付きです。しかし、この冒頭の響きは独特でこんな運命は聴いた事がありません。フルトヴェングラーも真っ青な演奏です。この1楽章を聴くだけでもこの演奏の価値がありますね。

第2楽章は反対に速めのテンポでリズムを重たくしないでカンタービレしています。そして、ここぞというところでは録音しているのもおかまいなく声たからかに指示を出しています。シェルヘンの声も演奏の一部になっているかのようです。自らも音楽を楽しんでいるのでしょうか。
第3楽章は冒頭のホルンがちょっと張り切り過ぎの音を出しますが、後はいい纏まりです。相変わらずアンサンブルは乱れがちですが音楽に対する真摯な姿勢はひしひしと感じられる演奏で、リハーサルの指示が的確に表現されているのが解ります。そして、シェルヘンの雄叫びとともに第4楽章になだれ込みます。弦の編成はさほど大きくないオーケストラなので見通しはいいのですがやや官途のバランスは悪い響きです。そのハラハラドキドキのバランスの響きが絶妙で、尚かつシェルヘンの雄叫びで最後まで面白く聴かせてくれます。演奏のレベルからすれば何でこの程度の演奏がレコード化されるのと不思議に思えるかもしれませんが、聴衆の割れんばかりの拍手を聴くとレベルよりも音楽性だということが分かると思います。
小生としては、久しぶりに面白いベートーヴェンの交響曲第5番を聴いたといったところです。第5を聴いて面白いと思ったのはストコフスキーがロンドン・フィルハーモニー管弦楽団と録音した演奏聴いて以来です。万人には勧められない演奏ですが、リハーサルと演奏を同時に楽しめる演奏ということでは貴重な記録では無いでしょうか。