著者/西村京太郎
出版/角川書店 角川文庫
出版/角川書店 角川文庫

イベントで再来日したエリエント急行。しかし、中から百丁のトカレフ拳銃と白骨化した手首が発見された…。政界絡みの拳銃密輸事件を捜査中に行方不明となった刑事を追ってベルリンへ向う十津川―。
一方、日本での捜査に当たる亀井の前には謎のドイツ人が…。十津川は犯人との接触を続け、ついに舞台はモスクワ、そして厳寒のシベリアへ!激動のヨーロッパ大陸で冴えわたる十津川の名推理。本格海外トラベルミステリー。---データベース---
一方、日本での捜査に当たる亀井の前には謎のドイツ人が…。十津川は犯人との接触を続け、ついに舞台はモスクワ、そして厳寒のシベリアへ!激動のヨーロッパ大陸で冴えわたる十津川の名推理。本格海外トラベルミステリー。---データベース---
うーん。タイトルに魅せられて読み始めましたが「オリエント急行」が出てくるのは最初の数ページだけです。このオリエント急行、後にも先にも日本へ来たのは1988年だけです。フジテレビ開局30周年の記念イベントとしての来日でした。この小説ではもう一度オリエント急行を日本で走らせるという架空の企画をベースにしています。まあ、東南アジアのタイのバンコクからマレー半島をへてシンガポールまで「イースタン・オリエント急行」が1993年から走っていますから身近な存在になってはいます。
さて、小説ではソビエト(今のロシアです)経由で入ってきたこのオリエント急行の食堂車の天井にトカレフ自動小銃が発見されるところから始まります。これになぜか白骨化した手首が出てきますがこれはあまり意味がありません。時間的に白骨化されるのには無理があります。
ということで、最初は殺人事件はありません。十津川警部の同期の佐伯という外事課の人間がこの事件の調査にヨーロッパに渡り、行方不明になります。そこで十津川警部の登場となる訳ですが、今回は亀さんは同行しません。ドイツ語と英語に堪能な日下刑事が同行します。亀さんは日本に残って十津川警部たちをバックアップです。しかし。表立って動けませんので私立探偵の橋本に事件に関係する松井家の捜査を依頼します。そこで、交通事故に見せかけた殺人事件が起こるのですが表面上は交通事故です。なぜレストランのオーナーが殺されるのか最後まで明らかになっていません。
また、途中から藤川というS大の教授が顔を見せます。ドイツの事情に精通しているのですが一癖あり松井家の息がかかっています。橋本が接近するとあたふたとヨーロッパに夫婦共々行ってしまいます。そして、彼が十津川警部と犯人グループとの接触の現場に現れ十津川を蹴り倒します。唐突に登場する藤川ですが以後登場しません。不思議な設定です。
不可解なのはこの松井家の娘が誘拐されたような事件が起こるのですが、表立ってはそんな様子は感じられません。ただ理不尽な金の受け渡しがあります。しかし、その1億円の金を引き出したのは何と松井家の娘の彼氏なのです。いったいどういう金なのでしょうか。その金を持って彼はモスクワに向かうのです。こんな現金を持って搭乗なんて税関は大丈夫なのでしょうかね。
入院先で十津川警部は一人の日本人に会います。ソビエト軍の捕虜になった残留日本人の老人です。彼がいい活躍をします。さりげなくこういう日本人を登場させるのは巧い設定です。今回の密輸はロシアの廃車になったSLを利用します。その列車を追って十津川警部たちは積み込みの現場を目撃しますが捕まってシベリアの荒野に放り出され、まさに危機一髪の状況に追い込まれます。
ここら辺から話はエンディングに向かって急テンポで進んでいきちょっとこちらが慌ててしまいます。SLは広島の下松港に陸揚げされます。しかし、密輸品の拳銃は見つかりません。いつもながらの十津川警部の推理が冴えます。途中で移し替えられたと考え空からその船を追います。ヘリコプターでの追跡ですが、ここで十津川警部は高所恐怖症だと告白します。それでも、ヘリから船にロープで降下して行くのですから執念は凄いものです。
十津川警部たちの活躍は素晴らしいのですが幕切れは後味の悪いものです。関係者の中で、あまりめだたないただ金を運搬した東ドイツの青年だけが逮捕されます。首謀者とおぼしき政治家が既に死亡しているからです。それにしてもこの金の出所は松井家なのでもっと突っ込んだ捜査がされてもいいような気がします。せっかくの題材が尻つぼみで終わっていて、肩すかしを食った感は否めない仕上がりが残念です。