
京都の観光を楽しむ若いカップル四組が、つぎつぎと謎の死をとげた! 彼らの死に共通したものは何もない。しかし、彼らが一致して訪れた観光ルートをたどるうちに、戦慄の事実が…!? ご存じ十津川警部の推理が冴える! 京都を舞台に、旅情と推理とサスペンスあふれる、人気絶頂トラベル・ミステリーの最高力作!---データベース---
京都ものを集中して読んできましたが、これもその一冊です。嵯峨野が舞台になります。ここでは西本刑事の友人が自殺したということで、まず彼が休暇を取ってその真相を探ります。十津川警部シリーズの中では断トツに彼の関係者が事件に巻き込まれるものが多いように思います。それに比べて、北条刑事はほとんど交友関係が描かれていません。
ま、そんな事はともかく、自殺に見せかけて東京から出かけた4組のカップルが次々と自殺します。この謎の原因を尼寺の直指庵で見かけた、そこの「思い出草」というノートに共通点を見いだします。ここら当たりの仕掛けは「京都 恋と裏切りの嵯峨野」と同じ仕掛けを使っていますが、こちらの方がより複雑です。犯人のあぶり出しに若い刑事と婦警をカップルに仕立てておとり捜査を実施しますがこれには犯人は乗ってきません。
しびれを切らして京都に乗り込んだ十津川警部と亀井刑事は何回も直指庵に足を運び、そこで、二人の人物がそのノートを題材に作品を仕上げた事を突き止めます。これが突破口になって事件は急展開になります。
しかし、アリバイ崩しの部分はちょっと強引な推測が目立ちます。東京都京都の間は鉄道以外に東名高速がありますが、もう一つ忘れてはならないのが中央自動車道です。東京からの所要時間はあまり変わらないはずですから、こちらのルートを使った移動手段もあるはずなのにそういう言及はされていません。不思議です。犯人が鉄道に依らず車での移動を選択しているのですからこちらを調べるのも当然だと思うのですが・・・ましてや、犯人は長距離トラックに便乗して移動しているのですから鉄道よりも、そのルートを洗う方が先でしょうに。
ここでは、殺人の方法は全く描かれていません。若いカップルのうち女性が絡んでくるのですが、そこのところも、犯人の感情にどのように作用したかの記述は今イチ理解し難く感じました。証拠物件を次々廃棄して、十津川警部たちは後塵を拝するのですが最後に文学賞の受賞が犯人逮捕のプロローグになります。
なんか取って付けたような解決方法で、のこのこと犯人がその受賞会場に現れるという結末であっけなく事件は解決してしまいます。前半の謎解きの面白さに比べて、後半はやや尻つぼみでちょっと肩すかし感があるのも事実です。
西本刑事が絡む事件なのに、最後は登場しないのも寂しい感じがしました。この小説当初「京都情死行」というタイトルで発表されました。なんかこちらのタイトルの方がぴったりとするイメージなのですがなぜ改題されたんでしょうね。