ミュンシュ/ニューフィルハーモニアのビゼー | geezenstacの森

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ミュンシュ/ニューフィルハーモニアのビゼー


曲目
01: カルメン組曲/第1幕への前奏曲
02: アラゴネーズ
03: 間奏曲
04: アルカラの竜騎兵
05: ハバネラ
06: 衛兵の交代
07: ジプシーの踊り
08: アルルの女第1組曲/前奏曲
09: メヌエット
10: アダージェット
11: カリヨン
12: アルルの女第2組曲/ファランドール
13: 美しきペルトの娘/前奏曲
14: セレナーデ
15: 行進曲
16: ジプシー舞曲



指揮/シャルル・ミュンシュ 1-12
   エルネスト・アンセルメ 13-16
演奏/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1-12
   スイス・ロマンド管弦楽団 13-16
録音/1967/1/04,05,キングスウェイ・ホール,ロンドン 1-12
   1960,ヴィクトリア・ホール,ジュネーブ 13-16

独DECCA 421632

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 DECCAに残したこのミュンシュのビゼーはフェイズ4による録音でした。それまでのミュンシュのイメージは、RCAの録音がほとんどだったのでその音の違いにびっくりしました。RCAの録音は最近、リビング・ステレオやXRDシリーズで復刻されていて、決して悪い録音ではないのですがもどうも小じんまりとしたイメージが強く、これぞミュンシュという録音に出会いませんでした。

 ところがこのビセー、巣ざま辞意ばかりの馬力のある音なのです。ニュー・フィルハーモニア管弦楽団の音は、フランスのオケのように決して洗練されてはいませんが、ビセーの音楽のイメージを変えるには充分の驚きでした。ミュンシュは元来ライブの人で、リハーサルもそこそこで一発勝負に掛ける人でした。このスタジオ録音には一期一会の組み合わせのすざましい音楽のほとばしりを感じます。以前にミュンシュは交響曲第1番を取り上げていますが、演奏はともかく音は今イチでした。ここではマルチマイクの録音により立体的なビセーを素晴らしい録音で聴くことができます。フェイズ4の録音は音が玉砕してひずんでいる物もあるのですが、ここではあまり感じられません。特に、カルメン組曲の方は緊張感のあるドラマティックな演奏でぐいぐい引き込まれます。

 「カルメン」「アルルの女」、ともに抜粋の形で録音されています。音優先で、LP一枚分の録音という観点からこんな形になったんでしょうが、ミュンシュにとっては意外にもこれが唯一の録音ということでは、全曲録音なされなかったのは返す返すも残念です。「カルメン」の方はやや遅めのテンポで各曲をじっくり料理しています。「アルルの女」は意表をついた選曲で、第2組曲からは「ファランドール」しか収録されていません。この「ファランドール」がちょっとびっくりです。最初は通常のテンポで始まりますが、徐々にテンポをあげていき最後は快速のテンポになります。シンバルなんかややフライイング気味に鳴る箇所もあり、オーケストラが必死についていく様が伺えます。ライブのミュンシュの片鱗が感じられます。

 日本盤では、カップリングにオッフェンバックの「パリの歓び」やら、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」組曲なんかが収録されていますが、ドイツ盤では、アンセルメ指揮スイスロマンドの演奏で同じくビゼーの「美しきペルトの娘」組曲が採用されています。こちらはフェイズ4の録音ではなく、録音も1960年と古いのでテープヒスの目立つ録音です。こちらの組曲も2曲目の「オーバード」がカットされています。

 アンセルメの演奏はいつもながら無駄を排した筋肉質の演奏で、スイス・ロマンド管弦楽団のややベールのかかったパステル調の音色でカルメンとは対照的なヒゼーの世界を響かせています。あまり聴く機会の無い作品ですが、ハープの使って幻想的な調べの前奏曲、弦楽の美しいセレナーデ、バスーンの重々しいメロディで始まる行進曲、フルートとハープの掛け合いで始まり、テンポアップして華やかなボヘミアン調の舞曲になるジプシー舞曲と佳曲が並びます。小品ながらもっと広く聴かれてもいい曲のような気がします。