今日の一冊 04/17「大江戸神仙伝「いな吉江戸暦」改「江戸仙女暦」 | geezenstacの森

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今日の一冊 04/17「大江戸神仙伝「いな吉江戸暦」

講談社 1996

 江戸で最高の贅沢、歌舞伎の顔見世興行を初日に特等桟敷で見物、大川の舟遊びでは澄んだ水に泳ぐ白魚の鍋を味わい、愛宕山で雪見しながら江戸市中を一望する──現代から“転時”した速水洋介が芸者・いな吉と味わう、贅を尽くした名所絶景巡り。美しい江戸に花開くせつない恋を描く傑作小説。---データベース---

 1999年文庫本化された際に「江戸仙女暦」に改題されたので『いな吉江戸暦』としてはハードカバーでなければ手に入りません。「大江戸神仙伝」としてシリーズ化されたものの第5作にあたります。

 第1作はかなり以前に読んだのですが、主人公・速見洋介は、或る日突然に、東京の日本橋から 江戸時代の日本橋へタイムスリップしてしまいます。原因の判らないまま、洋介は江戸時代での生活を余儀なくされます。しかし、その江戸は、予想していたより遥かに快適で、居心地の良い社会でした。当然の如く、洋介は江戸社会を見聞し、現代東京と比較観察するようになります。

 ということで最初はSFとして読み始め、主人公の江戸での行動にハラハラドキドキしたのですが、出会った人物が医者で当時の流行病「脚気」を製薬会社につとめていた化学知識をもとに、ビタミンB1抽出液を米糠、酢、鉄なべを使い作り出します。。それはよく効いて、涼哲の幼なじみを助けることが出来たあたりから江戸を観察する紀行文みたいになっていきます。

 そうこれはSFに名を借りた見聞録、紀行文なのです。タイムスリップの仕組みは疼きによる感覚的なもので都合のいいときに転時来ます。この都合のいい視点でこの第5作は当時のイギリスはロンドンとの比較文化論を展開しています。このシリーズどこかの大学でテキスト代わりに使われているとかでそれだけ内容にリアリティがあります。確かに文明開化の時代にあったロンドンと規模的には引けを取らない江戸は、自然リサイクル循環型のエネルギー消費量ゼロに等しい社会で環境には優しい優れた都市といっても良かったのでしょうね。

 今回はイギリスでもタイムスリップしていて、それが原因で転時先の時間がずれるという新たな展開がありタイトルの若く魅力的な辰巳芸者「いな吉」がダブって登場するシーンがあります。

 設定の文政6年はかの「勝海舟」が生まれた年で時の将軍は徳川家斉、そして後半は文政10年へとタイムスリップします。その辺りの設定はいい加減でなぜ文政10年なのかは説明されていませんし、最後の1章はまた文政6年に戻ってしまっています。

 まあ、SFとしてのストーリーを楽しむより江戸文化の歌舞伎や川遊び初詣などの風物を楽しむには、時代考証もしっかりしているのでもってこいの小説です。