geezenstacの森

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音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

The Kingsize Sound of

 Phase 4 Stereo 

 

曲目/

 

 

℗ 1964, A-5 ℗ 1965, A-1 to 4,6
℗ 1964, B-1,2, 5 & 6 ℗ 1965, B-4 ℗ 1966, B-3
Voice [Baritone] – Robert Merrill Voice [Tenor] – Kenneth McKellar-A5

Decca PFS 4086

 

 

 デッカのコンピュレーションされたフェイズ4のレコードです。こういうものはCD化されていませんからレコードは貴重です。テッド・ヒース楽団の第1曲目の「フィーバー」からしてご機嫌なナンバーになっています。ベースのリズムはペギーメリーの歌でヒットしたオリジナルからの流れですが、変なアレンジを加えていないのでストレートに楽しめます。まずはそのペギー・リーの歌声です。

 

 

 それがテッド・ヒースの手にかかるとこうなります。かっこいいでしょ!!

 

 

 2曲目のフランク・チャックスフィールドの「引き潮」も名演です。効果音を使ったこの演奏はロバート・マックスウェルの自作自演より遥かに情緒があります。3曲目はスタンリー・ブラックの「ブロード・ウェイ・スペクタキュラー」に収録されているナンバーですが、その3曲目に収録されていました。ミュージカルナンバーということでロンドン・フェスティバル・コーラスも動員したゴージャスなアルバムに仕上がっていました。4曲目はヨーロッパではインターナショナル発売されたアルバムということで、ウィル・グラーヒェの「リヒテンシュタイン・ポルカ」が収録されています。彼のヒット曲では「ビア樽ポルカ」も忘れられません。5曲目はマントヴァーニ・オーケストラの「And This Is My Beloved」です。ミュージカル「キスメット」のナンバーで曲はポロディンの「イーゴリ公」のナンバーが使われています。このミュージカルでは「夜のストレンジャー」が一番ヒットしたナンバーですが、この曲もデュエット曲としてよく歌われています。ここでもマントヴァーには伴奏に回って歌がメインになっています。そしてレコードのA面の最後は英国近衛歩兵グレナディア連隊軍楽隊の演奏で映画「ベンハー」から「戦車の行進」です。サントラよりも録音が新しくフェイズ4の特徴を以下した録音ですから無茶苦茶かっこいい音楽に仕上がっています。

 

 さて、B面はジャズのスタンダードナンバーでもある「縁は異なもの」です。デッカのもう一つの雄であるエドムンド・ロス楽団が演奏しています。2曲目はフォスターの名曲「掻き鳴らせバンジョー」です。男声合唱の力強い歌声が魅力です。3曲目はレコード時代によく集めたロニー・アルドリッチのピアノによる「マイ・フェバリット・シングス」です。ロニー・アルドリッチはステレオ時代の申し子で1大のピアノを左右の音源に振り分けて録音していました。アメリカのフェランテとタイシャーを一人二役で演じているようなものでした。4曲目はジョニー・ケーティングと27名からなるバンドの演奏でビートルズの「涙の乗車券」を演奏しています。ケーティング自身がトロンボーン奏者ということもあり、英国のブラスバンドにリズムセクションをプラスしたスタイルでなかなかご機嫌なサウンドを披露していました。次は一転してフォーク調のロス・マチュカンボスは1959年にパリで結成された音楽バンドです。ギターはラファエル・ガヨソとミルトン・サパタ、ボーカルはジュリア・コルテスでした。1960年にサパタに代わり、イタリア出身のロマーノ・ザノッティが加入しました。演奏されているのは「おやすみアイリーン」という曲で数々のアーティストがカバーしています。最後はローランド・ショーの愉快なナンバーで欧米では童謡として知られている「彼女が山にやってくる」というナンバーです。まあ、コンピュレーションといっても日本の感覚とはかなりイメージが異なるものになっていますが、これはこれで欧米のシチュエーションを知る上ではもってこいのレコードです。全曲は下でお楽しみくださいな。

 

 

 

名古屋ブルックナー管弦楽団

第30回演奏会


 セントラル愛知交響楽団はここでリハーサルを行なっていて後悔していますのでよく聴きに出かけましたが、それ以外ではあまり馴染みのないコンサートホールです。まあ、我が家からは車で30分程の距離ですから出かけるには不便はしません。今年も下記のようなスケジュールで後悔リハーサルが組まれています。

 

 

稲沢市民会館大ホール

 

 さて、今回も式には新田ゆりさんが登場です。日本シベリウス協会の会長も務めるシベリウスのスペシャリストです。その新田さんの指揮でシベリウスの最後の交響曲の第7番が演奏されました。もう曲は頭の中に入っているので暗譜での指揮です。シベリウスの交響曲はだんだん形式的要素は崩れて、この曲はもはや単一楽章として作曲されています。まあ、言ってみれシベリウスの特徴と言える交響詩の拡大版と言ってもいいでしょう。ただ、標題がないので交響曲として分類されているような気がします。

 

 演奏する名古屋ブルックナー管弦楽団は名古屋大学の学生らのOBを中心としたオーケストラで構成されています。

 

 交響曲第7番は単一楽章の交響曲です。曲はAdagio(序奏) - Vivacissimo - Adagio - Allegro molto moderato - Allegro moderato - Presto - Adagio - Largamente molto - Affettuosoで構成されています。

 

  この曲は、単一楽章の中に伝統的な交響曲の各楽章の要素(緩徐楽章、スケルツォ、フィナーレ等)が巧みに内包されていて、曲の前半、中盤、終盤に現れる、神の啓示を想わせるトロンボーンソロの「提示」「展開」「再現」を柱としながら曲が進行していきます。

序奏部はアダージョで、ティンパニの響きの後、弦楽器によるゆったりとした上昇音階で音楽が始まり、木管楽器が静かにモチーフを提示します。その後弦楽器セクションが聖歌風に演奏します。最大 9 声部に分かれた弦楽器による、清廉な響きが織りなすこの部分はこの曲の最大の聴きどころの一つです。この後 1 回目のトロンボーンソロがハ長調で演奏され、管楽器が嘆くように演奏した後、木管楽器と弦楽器により冬眠から目覚めた小動物が動き出すような音楽が演奏され、徐々にテンポがあがり、ヴィヴァーチッシモとなります。

 

 この部分はスケルツォに相当する部分で弦楽器と木管楽器がリズミカルかつ規則正しく動き、その動きを引き継いだ弦楽器が北欧の暗い海の波がうねるように演奏し始め、2 回目のトロンボーンソロがハ短調で演奏されます。他の金管楽器を伴い徐々に盛り上がりながらテンポを上げ、岩礁に最大の波が打ち寄せたようなクライマックスの後、波が散る中、海辺の生き物が逃げるよう

にテンポを上げ、アレグロの部分に入ります。アレグロではロンド風な主題が演奏されますが、この主題は先述しましたカルペラン宛の手紙

にあった「ヘレニック・ロンド」に相当する部分です。弦楽器の刻みに乗り、小動物や村人が踊るようなロンドもこの曲の聴き所といえます。

 

 ロンドが急終止し、ヴィヴァーチェに移り木管楽器と弦楽器が掛け合い、曲冒頭の上昇音型がホルン等管楽器により演奏され盛り上がると、 3 回目のトロンボーンソロが今度は情熱的な弦楽器を伴い奏されます。低音楽器群の溶岩がなだれ込むような音型を伴い音楽が高揚し、管楽器が激しく吠えると、音楽は徐々に浄化されるように終結部に向かいます。静寂の空気の中でフルートとファゴットが冒頭の木管楽器のモチーフを繰り返し歌い、最後は全管弦楽により、曲は無限の世界に帰結するような余韻を残して終わります。

 

 このオケはネットを最大限活用し、プログラムは配布されていません。全てQRコードを読み込んでのスマホ表示です。上の曲解説はそのネットにアップされていたシベリウスの交響曲第7番の解説です。

 

 新田氏は得意なシベリウスですからオケに的確な指示を送りながらインテンポでぐいぐい曲を進めていきます。今回は2006年の前回の演奏よりオケの編成が大きく厚みのある響きでありながらシベリウスの透明感のある響きは感じることができました。

 

 

 休憩後はメインプログラムのブルックナーの交響曲第7番です。個人的にはすっきりとした造形美で仕上げたシューリヒトの演奏が好きですが、今回の演奏もエッジを効かせたメリハリのある演奏となっていました。ただ、稲沢市民会館はステージと客席がほぼ水平のすり鉢状の構造のホールで、ブルックナーの上に広がる音の響きを感じることができず、音に包まれるという感覚を感じることができなかったのが残念です。下は2015年の愛知芸術センターのコンサートホールでの演奏の模様ですが、こちらの方が音の広がりを感じることができます。

 

 

 

 

 

コンマスとグータッチする新田氏

 

今回の演奏もYouTubeでアップされるのが楽しみです。
 
 また、次回の演奏会は2026年7月26日ということです。曲目は発表されていませんが、楽しみです。

 

 

 

 

 

Non Stop West

Al Caiola & Leroy Holmes Orchestra

 

曲目/

1.The Good, The Bad And The Ugly-続・夕日のガンマン  2:53

2.A Professional Gun-ジャガー   2:12

3.True Grit  -トゥルー・グリット  3:53

4.A Fistful Of Dollars-荒野の用心棒   2:00

5.Ole Turkey Buzzard-マッケンナの黄金   3:26

6.Hang 'Em High-奴らを高く吊るせ   2:25

7.The Big Gundown-復讐のガンマン   2:45

8.The Magnificent Seven-荒野の七人   2:00

9.For A Few Dollars More-夕日のガンマン   2:20

10.Bonanza-ボナンザ   2:16

11.The Big Country-大西部   2:23

12.Wagons Ho! -ワゴン・トレイン  3:44

13.Return Of The Seven-続荒野の七人   2:15

14.High Chaparral- シャパラル高原  2:13

 

演奏/ルロイ・ホルム・オーケストラ 1-6

  アル・カイオラ楽団 7-14

発売/1972

 

英SUNSET SLS 50312

 

 

 英SLSはユナイテッド・アーティスト系の再発専門の廉価版レーベルでした。サントラ版はこのレーベルで結構集めました。これまでには下記のアルバムを取り上げています。

 

 

 

 

 

 前半を担当しているのはルロイ・ホームズです。このルロイ・ホームズ(1913年9月22日 - 1986年7月27日)は、アメリカの作詞家、作曲家、編曲家、オーケストラ指揮者、そしてレコードプロデューサーでした。そして、ホームズはハリウッド高校を卒業後、イリノイ州エバンストンのノースウェスタン大学とニューヨークのジュリアード音楽院で音楽を学び、1930年代から1940年代初頭にかけて、エルンスト・トック、ヴィンセント・ロペス、そしてハリー・ジェイムズといった多くのバンドリーダーと共演しました。

 第二次世界大戦中はアメリカ海軍でパイロットと飛行教官、そして中尉を務めた後、ハリウッドに移り、MGMミュージック・スタジオに専属編曲家兼指揮者として採用されました。1950年にニューヨークに移り、MGMでレコードプロデューサーとして活動を続け、後にユナイテッド・アーティスツに移籍しました。1960年代初頭にユナイテッド・アーティスツ・レコードに移籍し、数多くの映画テーマ曲のコンピレーション・アルバムに楽曲を提供し、自身の名義でアルバムをリリースするとともに、コニー・フランシス、グロリア・リン、シャーリー・バッシー、そしてプエルトリコ出身のティト・ロドリゲスやチューチョ・アヴェジャネットといっ​​た歌手のバックオーケストラを務めています。

 

 今回このアルバムを取り上げたのは今月までNHK-FMで放送中の「✖️クラシック」で特集中のエンリオ・モリコーネがらみということで考えました。まあ、アル・カイオラにしてもウェスタンをテーマにしたアルバムを服末発売していましたからねぇ。必然的にエンリオ・モリコーネもたくさん含まれています。このアルバムでいうと1.2.4.7.9とモリコーネの作品が並びます。

 

 冒頭は「続・夕日のガンマン」です。ユナイテッド・アーティストで活躍していましたから、映画音楽は得意なものです。いいアレンジで原曲の雰囲気を掴んでいます。日本とはヒットの基準が違いますから2曲目の「ジャガー」はあまり知られていません。3曲目はジェフ・ブリッジェス主演の西部劇で音楽はエルマー・バーンスタインが書いています。

 

 後半のアル・カイオラはギター奏者でしたが自らのオーケストラを率いて勢力的に1960-70年第二活躍しました。彼の演奏した「荒野の七人」はベストセラーになりましたし、テレビドラマの主題歌としての「ボナンザ」も大ヒットしました。あまり知られていない「ワゴン・トレイン」の主題歌、「ワゴン・ホー」も彼がヒットさせました。まあ、楽しいアルバムですが、日本ではこういうアルバムはリリースされていません。

 

音楽を楽しむ会

新美南吉、文学と音楽
 

 あいにくの雨模様でしたが、テーマが興味があり、今月も音楽を楽しむ会のコンサートに出かけてきました。テーマは地元の児童文学者、新意味南吉に関する文学と音楽と題するものでした。

 

 愛知県は半田市にある新海南吉の誕生から始まりますが、もう幼い頃から文学に対してはかなりの才能を見せていました。まぁ半田が産んだ全国の児童文学者でしょう。今回はその彼の創作活動と当時彼が聞いたであろう音楽をたどると言う内容になっていました。

 

今回、コンサートでかけられた曲は、以下のプログラムになっていました。

 

会場の様子、今回も蓄音機が大活躍です

 
 時代的なこともあるようですが、新美南吉は結構音楽好きで、東京に住んでいた時はあちこちの音楽喫茶をはしごして回っていたようです。当時の音楽の主流はクラシックでしたから必然そういう音楽になっていました。新美南吉は1913年生まれでした。冒頭に掛けられたのはチャイコフスキーの「アンダンテ・カンタービレ」でした。ここで演奏しているみっしゃ・エルマンは1891年ウクライナ生まれのヴァイオリニストでしたから、当時はバリバリで活躍していました。
 

 
  次に掛けられたのも専門の童謡で、野口雨情、中山新平コンビの「証城寺の狸囃子」でこういう曲も聴いていたんですなぁ。歌っている平井英子さんは102歳まで長生きをされた生粋の童謡歌手として活躍された方で、このレコードでは作曲の中山新平がピアノを弾いているという貴重なものでした。
 

 

 ワインガルトナーのベートーヴェンは当時としては一番ポピュラーに聴かれた演奏でしょう。

 

 

 南吉は生涯独身でしたが初恋は小学生時代でした。同級生の「木本みなこ」で、家の格の違いもあり鯉は実りませんでしたが、恋敵の遠藤家に押しかけて敵情視察もしています。そのきっかけがベートーヴェンのクロイツェル・ソナタで遠藤家でさんざんレコードを聴きまくったようです。そのレコードと蓄音機は遠藤家から寄贈され、現在は「新美南吉記念館」に保存されているようです。

 

 

 SP時代はレコードの片面が5-6分でしたから小品がこぞって録音されています。「アリオーソ」は元はバッハのカンタータ156番。バッハのカンタータにはそれぞれ聖書の物語にちなんで147番の「主よ人の望みの喜びを」のような題名がついているのですが、この156番の題名がちょっとびっくりです。

片足は墓穴にありてわれは立つ」(Ich steh mit einem Fuss im Grabe)というものなんですなぁ。でもメロディは気に入っていたらしく、バッハは後にチェンバロ協奏曲第5番にも転用しています。

 

 

 演奏の珍しいのはフィレンツェ・カルテットの「ドリゴのセレナーデ」です。ヴァイオリンにフルート、ハープといった楽器が使われています。

 

 

 プログラムでは名前が間違っていますが、関屋敏子さんの歌うシューベルトの子守歌」の伴奏はフィラデルフィア管弦楽団の変名だそうです。今でも歌われている日本語歌詞が初めてつけられたのがこの録音のようです。

 

 

 南吉はいろいろな同人誌に投稿していますが、その中でも「赤い鳥」には1932年1月号に代表作の「ごんぎつね」も発表されています。まだ18歳の時でした。

 

 後半のストコフスキーの「新世界から」は彼のフィラでルティアとの3度目の録音です。よほど得意としていたのか生涯に5度録音しています。彼の「新世界から」の特徴はフェルマータかけまくりという特徴があります。曲のメリハリがはっきりするという特徴があります。

 

 

 音楽としての最後は安生高等女学校の卒業式で使われた曲だそうです。「アロハ・オエ」はさようならという意味だそうで4年間の教員生活にも別れを告げるという意味も含まれていたのでしょう。

 

 

  さて、当日は図書館ですから蔵書の新美南吉の本がずらりと並べられていました。豊明市民ならそのまま借りる事も出来たようです。

 

 

 

 

当日のレジメ

 

最後に代表作の「ごんぎつね」のアニメを張り付けておきます。

 

 

 主催されたネコパパさんの記事は下記でご覧ください。

音楽を楽しむ会・文学と音楽「新美南吉」 - 児童文学と音楽の散歩道reload

 

10月ですから図書館は全館ハロウィンの飾りつけもなされていました。

 

 

 

 

 

カラヤン/ベルマンのチャイコフスキー

 

曲目/

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23 

1.第1楽章:Allegro Non Troppo E Molto Maestoso    21:59

2.第2楽章:Andantino Semplice    8:01

3.第3楽章:Allegro Con Fuoco    7:18

 

ピアノ/ラザール・ベルマン

指揮/ヘルベルト・フォン・カラヤン

演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 

録音/1975/11/17,18 フィルハーモニーザール

P:ハンス・ヒルシュマグダレーネ。パトベルク

D:ミシェル・グロス

E:ギュンター・ヘルマンス

 

DGG 2530677

 

 

 先日ベルマンの「超絶技巧練習曲」を取り上げたのでちょいとこのディスクを思い出しました。単品では所有していませんでしたがカラヤンの1970年代の録音を集めたボックスセットの中に含まれていました。このボックスセットはDGに録音したカラヤンの管弦楽録音の集大成になっていました。

 

 カラヤンはチャイコフスキーのピアノ協奏曲は第1番しか録音を残していませんが、下記の録音が存在します。

  1. 62年(リヒテル/VSO)I:22:07、II:6:55、III:7:09
  2. 67年(ワイセンベルク/BPO)[F]
  3. 70年(ワイセンベルク/パリo)I:23:12、II:8:48、III:7:31
  4. 75年(ベルマン/BPO)I:21:55、II:7:57、III:7:18
  5. 88年(キーシン/BPO)I:23:41、II:8:33、III:7:35
  6. 88年(キーシン/BPO)[F]
Fとあるのは映像で残されているもので、6が1988年ジルヴェスター・コンサートのライヴ映像でカラヤンとベルリンフィルの最後の録音です。2006/08/17

 

 ラザール・ベルマンも忘れかけられているピアニストでは無いでしょうか。リヒテルの後を追って1970年代に西側に現れこのCDの様にカラヤンと共演するなどして話題になりました。カラヤンはステレオ以降ではリヒテル、ワイセンベルクもそしてこのベルマンとチャイコフスキーを録音していますが、小生はこのベルマンとの共演が一番好きです。下記はカラヤンの録音タイミングですがベルマンとの演奏が一番、第1楽章のタイミングが早くなっています。そして、ベルマンは1986年にテルミカーノフと原典版で再録音していますがほとんどタイミング的に違いがありません。これはカラヤンを向こうに回して自分のテンポで録音を押し進めていたからではないでしょうか。

 

 第1楽章から実に堂々とした鳴らしっぷりで痛快です。リヒテル盤は何処か神経質な所があり、ワイセンベルクは技巧でバリバリと弾きまくるだけのような印象が強いので、そういう意味でもカラヤンと対等に距離を置いて、自己主張をしながらベルマン流のチャイコフスキーを組み立てているベルマンは好きです。

 

録音 第1楽章 第2楽章 第3楽章
ベルマン盤 21:55 7:57 7:13
リヒテル盤 22:07 6:55 7:09
ワイセンベルク盤 23:12 8:48 7:31
ベルマン原典版 21:40 7:30 7:38

 

 ピアノは中央にきっちりと定位し堂々の鳴りっぷりなのですが、オーケストラの低域がちょいとだぶつき気味なのが気になります。73年頃まではイエス・キリスト教会が使われていましたがこの頃は全面的にフィルハーモニーホールで録音されるようになっていました。しかし、まだ75年当時は音のバランスがどことなく悪いものもあったのでしょうか、この録音もそういう面では損をしています。これに引き換え。65年のヴァイオリン協奏曲のほうは今となっては音質的には十全ではありませんがバランスの麺では完成されたベルリンフィルの音を聴くことができます。

 

第1楽章:序奏は中の遅。主部(4:44~)は中。ベルマンのヴィルトゥオーソ風の演奏スタイルが曲に良く合っている。鮮やかな技巧と強靱なタッチが基本で、身振りの大きめなところも聴かれます。音色も絢爛豪華な印象である。ただテンポの変動は極力抑えているようで、アルゲリッチのような恣意的なデフォルメはありません。さてカラヤン三度目の録音にして初めてのベルリンフィルと録音しています。。リヒテルに対抗して熱く燃えたウィーン響、ひたすら遅めでピアノは置き去りにして大音量で鳴らしたパリ管、これらと異なり本演奏でのカラヤンとベルリンフィルはやや遅めのテンポで、中庸の演奏を繰り広げています。輝かしい音色はさすがこの時代のベルリンフィルです。温度的にはさほど高くない演奏ですが、その分音色は磨き抜かれており、スタジオ録音でのカラヤンらしいとも言えます。ただ、この録音はそれまでのイエスキリスト教会での録音ではなく、フィルハーモニーでの録音になっていて、まだ音がこなれていない部分が感じられます。


 雄大な序奏で一旦盛り上がった後、主部の入りは穏やかで控えめです。ルービンシュタインとは正反対のやり方と言っても良いでしょう。その後展開部の頂点に向けて息長く徐々に盛り上がってゆきます。コーダは中やや遅いのですがこれがベルマンのテンポなのでしょう。


第2楽章:中の遅。遅めに演奏され、チャイコフスキーの美しい緩徐楽章を堪能できます。音量的には控えめながらベルマン、ベルリンフィルの名人芸に浸れる演奏となっています。


第3楽章:中。BPhの美しくも豪華な音響とベルマンの巨匠風ピアノが規模の大きさを感じさせます。やや速めで充実した主要主題部とゆったり演奏される副主題部が鮮やかな対比を示し、次第に盛り上がり。コーダでの達成感が素晴らしいものになっています。


 発売当初は、ソ連の鉄のカーテンの向こうから現われた天才ピアニスト、ベルマンとカラヤンの夢の共演といった感じで話題になったものの、最近ではあまり取り上げられることもなく、殆ど忘れ去られたような演奏です。


 カラヤンが招聘したベルマンでしたが、やや肌が合わなかったのか共演はこの録音だけです。


 一方カラヤンは、旧盤(ワイセンベルクとのパリ管での演奏)の作為的とも言えるテンポ設定から一転して、非常に中庸度の高い速度設定と、インテンポを保つ品位の高さを示している。そしてこの曲では初登場のBPhがやはり華やかで美しい。全体として中庸、リファレンス的名演と思います。ただカラヤンが少し冷静すぎて演奏の温度がやや低いかなと感じられます。