geezenstacの森

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音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

グスターボ・ドゥダメルと若き指揮者たち

 

編集、著作:能地 祐子

小室敬幸  (著), 坂口安紀  (著), 鈴木淳史  (著), 本間ひろむ  (著), 前島秀国  (著), 山田真一 (著), 奥田佳道  (その他), 吉原真里  (その他), 亀田誠治 

出版:DU BOOKS

 

 

来日記念出版!
映画『ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦』も大好評。
配信作品が2025年グラミー賞で3部門受賞、2026年にはニューヨーク・フィルの音楽監督就任。
いま、世界で最も注目される指揮者ドゥダメルについての、はじめての本!

 

 日本のクラシック論壇では意外と、ドゥダメルがしっかりと語られる機会は少ない。人気のわりには。ベートーヴェンと16ビートを地続きで指揮してしまうドゥダメルの全貌はなかなかこれまでのクラシック音楽史観だけでは語れない、ということもあるのだろう。でも、間違いなく21世紀のクラシック音楽世界を変えたすごい指揮者だし、特にドゥダメルをきっかけにクラシックが好きになったポップ、ロック系の音楽ファンはとても多いんじゃないかと思います。なので、ドゥダメルや新世代の指揮者に注目している音楽ファンにとっては興味深い、クラシック読本だけどジャンルレスなアプローチの、濃いけど楽しい本を作りたいと思いました。で、想像していた以上に面白い本ができたのではと思います。まだ刷ってるとこなんで、くわしい内容やご寄稿いただいた方々については後日あらためて書きたいと思いますが。ちょうどドゥダメル、マケラ、ヤマカズと来日公演が続き、しかもヤマカズはベルリンフィルにデビューしたばかり…という、偶然にもここでとりあげられた指揮者たちに注目が集まるグッドタイミングでの発売となりました。---データベース---

 

 2004年にバンベルクで開かれた第1回グスタフ・マーラー国際指揮者コンクールに優勝し 一躍時の人となったのが南米はベネズエラ出身のグスターボ・ドゥダメルです。若干18歳でベネズエラのシモン・ボリバル・ユース・オーケストラの首席指揮者に就任しています。コンクールの2年後には、ミラノ・スカラ座にデビューし、2009年からはロサンジェルス・フィルハーモニックの音楽監督を務めています。

 

 そのキャリアの根にあるのはベネズエラで生まれた「エル・システマ」による音楽教育であり、指揮者に転向する前はヴァイオリンを学んでいます。ドゥダメルのキャリアの中で特に華々しいプロジェクトは、2012年に行われたマーラーの交響曲ツィクルスであり、ロサンジェルスとカラカスにて、それぞれ20日以上かけてロサンジェルス・フィルとシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ両方の楽団を指揮したのです。まさに破竹の勢いで、DGGと契約し、デビュー盤はシモン・ボリバル・ユース・オーケストラとのベートーヴェンとの交響曲第5番と7番をカップリングしたものでした。

 

 

 

 今年9月日本の河口湖で開催された日本版ワルドビューネコンサートも大成功だったようです。それもありこの本は今年の5月に発売されています。内容的にはドゥダメルの紹介本といったところで、それほど内容があるわけではありませんが、2009年にロサンゼルスフィルの音楽監督に就任して以来のドゥダメルの動きというのがよくわかるようになっています。また本来ならシモン・ボリバル・ユース・オーケストラと世界ツアーができたものがベネズエラの内紛によってそれが不可能になってしまった事はこの本で初めて知りました。そして公開された映画です。ドキュメンタリー映画でこのベネズエラの内紛の事まで描かれています。

 

<主な内容>
Introduction ドゥダメルの現在地──音楽の力が未来を照らすとき

1部 ドゥダメルから始まった新時代
奥田佳道×能地祐子 ドゥダメルと二十一世紀の若き指揮者たち──朝日カルチャーセンター講義
グスターボ・ドゥダメルの歩み 能地祐子
吉原真里インタヴュー バーンスタインからドゥダメル、そして新世代指揮者たちの時代
ドゥダメルとふたりの〝ジョン〟──現代アメリカを代表するふたりの作曲家が託すもの 前島秀国
グスターボ・ドゥダメル全作品ガイド

2部 映画『ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦』を読む(劇場版パンフレット増補版)
ドキュメンタリー映画がとらえた、ドゥダメルの示す〝新世界〟 能地祐子
映画『ビバ・マエストロ!』に寄せて 山田真一
政治の渦に巻き込まれたドゥダメル――ベネズエラで何が起きているのか 坂口安紀
エル・システマとの衝撃的な出会い 豊田泰久
音楽プロデューサー・亀田誠治が語る『ビバ・マエストロ!』とグスターボ・ドゥダメルの魅力

3部 これからの若手指揮者ガイド
いま聴いておきたい! 二十一世紀の若手指揮者たちの聴きどころ 鈴木淳史
巨匠への道が約束されたクラウス・マケラという天才 小室敬幸
世界で活躍する若き日本人指揮者たち 本間ひろむ
これからが楽しみ! 本書執筆陣とディスクユニオン スタッフが注目する、新世代の若手指揮者59人

 


デュダメルのリハーサル

 様々な人との対談やエッセイが収録されています。必ずしも統一された内容ではありませんが、基本的にドゥダメルの絶賛本といったところです。ただこの本の面白いのは従来の大家と言われる指揮者の事にはほとんど触れていません。要するに、これから次世代を担うデュダメルを代表とする指揮者にスポットを当てて構成しているところです。この本ではディダメルとともにマケラがその筆頭に挙げられています。マケラと言えば、先日パリ管と来日したばかりですが、今度はアメリカのシカゴ交響楽団もその手中に収めると言うことで、八面六臂の活躍をしています。そうそう、アムステルダムコンセルトヘボウも彼を常人に迎えようとしています。こんな指揮者は今までいません。そういうところの視点を持って、今後活躍しそうな若手指揮者を59人取り上げています。映画が中古レコード店のディスクユニオンが配給したと言うこともあり、そのディスクユニオンの店長がその若手指揮者を取り上げています。また鈴木淳史氏による若手演奏家の考察もなかなか興味深いところです。その中には日本の指揮者も含まれていますし、女性指揮者も取り上げているところが今までにない視点です。日本の若手指揮者の筆頭は、先ごろベルリンフィルにも登場した山田一樹です。また原田慶太桜や川瀬賢太郎、さらには鈴木優人などがピックアップされています。世界的な期待指揮者としては、先の寺を筆頭にピエタリ・インキネン、シシト・ウルバンスキ、ヤクブ・フルシャ、アンドレア・バッティストーニ、マキシム・パスカル、ペトル・ポペルカなどの名前が上がっています。また女性指揮者としては、沖澤のどかを始め注目株の名前が上がっていますが、それはこの本を読んで確認していただきましょうか。

 

 これからの音楽界を担うということでは、これは結構面白い本です。自分の一押しも含めいちど確認されると良いでしょう。

 

 

 

 

長月の散財

 

 

 

 先日のメイフィルのコンサートの日、開演まで少し時間があったのでふらっと立ち寄った中古レコード店でまたしても散財してしまいました。

 

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 こんなレコードが国内盤で発売されていたとは知りませんでした。1970年の発売のようですが、東芝から1,200円盤で出ていたようです。それも歴としたエンジェル盤です。こんな廉価盤シリーズありましたっけ?指揮者のピエール・デルヴォーは1958年から亡くなる1992年まで音楽監督を務めたコンセール・コロンヌ管弦楽団との今や幻の録音と言ってもいいしろものです。原盤はフランスの「デュクレ・デ・トムソン」で1961年の録音のようです。若きデルヴォー44歳の時の録音で演奏は非常に個性的で粋な「新世界」です。

 

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 1979年に発売された「バロック・トランペットのための音楽」と題されたアルバムです。演奏は「エドワード・タール・ブラス・アンサンブル」です。エドワード・タールはバロックトランペットの第一人者でイギリスのフィリップ・ジョーンズ、フランスのエドワード・タールと称されていました。なかなかお目にかかれないレコードです。

 

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 で、こちらはフィリップ・ジョーンズ・ブラス。アンサンブルの「展覧会の絵」です。録音は英アー後ですが、日本ではロンドンレーベルで発売されました。写真はロンドン国立絵画館を使ってPJBEの死野心をコラージュしています。

 

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 こんなシンセサイザーによる「四季」が発売されていたとは全く知りませんでした。国内録音で演奏しているのはフランク・ベッカーです。この名前も初めて目にしました。しかも、原曲がヴァイオリン協奏曲ということで、ソロヴァイオリンを辰巳明子が弾いています。シンセサイザーはローランドのシステム100を使って1977年に録音されています。

 

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 個人的にモーツァルトの協奏曲はホルン協奏曲が一番好きです。タックウェルのモーツァルトはペーター・マークと録音したものが夙に有名ですが、マリナーとの録音は知りませんでした。しかもEMIに録音しているではありませんか。1971年の録音で、未完のホルン協奏曲ホ長調K.494aまで収録しています。

 

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 このラヴェルやドビュッシーの作品を数多く録音したフランスの名ピアニスト、モニク・アースがポール・パレーと録音したラヴェルです。この時初めてヘリオドール・レーベルに投入された一枚で、先日辻井伸行のラヴェルを取り上げた時このモニク・アースとマルグリット・ロンの名前を発見し記憶に留めていたものでしたので捕獲しました。

 

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 レコ芸の1973年2月号で取り上げたフランス・クリダの「リストピアノ曲第全集」の第1巻を発見したので捕獲しました。その時はIPG(International Pelgrims Group)録音と記事にしたのですが、実際には「SAIP-VEGA」レーベルであることが確認できました。SAIPは「Société d'Applications Industrielles Plastiques」のことで、ジャケットにもある通り、第1巻は仏ACCディスク大賞を受賞しています。

 

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 先日クイケン盤の「音楽の捧げもの」を取り上げた時紙余裕しているとばかりに思っていたリヒター盤のアルバムを見つけたので捕獲しています。まあ、この曲の代表的録音と言ってもいいものでしょう。

 

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 最後は日本コロムビアの1000円盤シリーズの「エオリアン100」シリーズに投入されていたムジディスク原盤のローラン・ドュアット/パリ・コレギウム・ムジクムのテレマンの「水上の音楽」を発見したのでゲットしました。このレコードすでにファクトリー・シールドの形で発売されています。このムジディスク盤、本場のフランスよりはるかにカッティング、製盤が良いということで見つけるたびに捕獲しています。

ガンゼンハウザー

ドヴォルザーク交響曲第2番

 

曲目/ドヴォルザーク

Symphony #2 In B, Op. 4 

1. Allegro Con Moto    15:57

2. Poco Adagio    14:57

3. Scherzo: Allegro Con Brio    11:58

4. Finale: Allegro Con Fuoco    11:03

Legends, Op. 59 *

5.. Allegro Con Moto    5:17

6 Allegretto Grazioso    2:51

7. Un Poco Allegretto E Grazioso    4:04

8. Andante Con Moto    2:41

9 Andante    4:19

 

指揮/スティーブン・ガンゼンハウザー

演奏/スロヴアキア・フィルハーモニー管弦楽団

    チェコ・スロヴァキア放送交響楽団*

録音/1990/05 レデュタ・コンサートホール ブラティスラヴァ

         1991/05  チェコスロヴァキア放送ホール*

P:マーティン・サウアー

E:ギュンター・アッペンハイマー

 

NAXOS  8.550267

 

 

 レコード時代は、ドヴォルザークの交響曲は7番以降しかほとんど聴いたことがありませんでした。もちろん全集はケルテスとかクーベリックはありましたが、その程度だったのではないでしょうか。何しろドヴォルザークはそれほど交響曲作家とは思われていなかった節があります。それがCD時代になって状況が一変します。1980年代の終わり頃からナクソスが大量にCDの文庫本とも言うべきシリーズを発売しだしたからです。小生もその恩恵に預かりました。そこで出会ったのがこのガンゼンハウザーとチェコ放送交響楽団によるドヴォルザークの全集でした。何しろCDで 1曲ずつ聞くことができる全集になっていました。ですからこの2番は衝撃を受けました。作品番号は4番ですが非常に完成された作品で、いっぺんに気に入りました。まぁ、こういう交響曲作品は、他にもCD時代になってからいっぱいあります。それまではロンドン交響曲の中で埋もれていたハイドンの交響曲第92番オックスフォード、シベリウスの交響曲の中でもほぼ無視されるような交響曲第3番が小生の感性に触れました。

 

 多分このガンゼンハウザーによるドヴォルザークは、レコード芸術では取り上げられたことがありませんから、ほとんどの人は知らないでしょう。ですが、他の指揮者による全集に比べても全く聴き取りがしません。90年代の初め頃は、ドヴォルザークの交響曲はこの第2番だけを集中して聴いていました。ジャケットの表記は

 

 この交響曲が作曲されたのは1865年です。ブルックナーの交響曲第1番が完成したのは、1866年で実際に初演されたのは1868年という事は、まだブルックナーの交響曲が世に現れていない時期に作曲された作品ということです。そしてこの交響曲は、全曲を演奏するのに50分以上の時間がかかります。この交響曲の規模の大きさがわかろうかと言うものです。

 

 ドヴォルザークはメロディーメーカーと言われる事はあまりありませんが、この作品に限っては溢れんばかりのメロディーが溢れています。まぁそういうところがこの交響曲を気に入った理由の1つでもありますが、長大な作品でありながら少しも弛緩することなく、曲が進むところに魅力があります。

 

1773年に建設されたバロック様式によるレデュタ・コンサートホール

 

 第一楽章からして、ガンゼンハウザーはじっくりと歌い込んでいきます。まぁオケが地元のオケと言うこともあって、チェコフィルに通じるひなびた音がするのも曲の情緒を誘っています。この曲の録音に使われたホールはやや小ぶりなホールです。ただ録音はオーソドックスなもので、特に音が良いと言うわけではありませんが、弦の合奏から木管の響きまで過不足なく収録しています。

 

 ガンゼンハウザーはアメリカの指揮者ですが、マルケヴィチやストコフスキーに師事し1979年から実に40年間の長きにわたってペンシルベニア州にあるランカスター交響楽団の音楽監督を務めていました。中堅ですがなかなかの実力者だったのでしょう。交響曲の方はスロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団が演奏しています。録音当時はアルド・チェッカートが常任だったはずですが、1年で辞めていますからあまり良好な関係ではなかったのでしょうか。

 

 

スティーブン・ガンゼンハウザー

 

 第2楽章もポコ・アダージョのテンポでじっくり音楽を歌い上げています。この時点でランカスター交響楽団の常任を10年以上勤めていますからオケをまとめる手腕は十分です。変に尖ったところや古風なスタイルに陥ることもなく、きっちりまとめています。第1番の交響曲に関しては「作曲コンクール」に提出するという目的があったようです。しかし、この第2番の交響曲に関してはその様な明確な動機はどこにも見いだせず、当然の事ながらそれが演奏される見込みなどは全くなかったのです。作品の書かれたのは22-23歳の頃です。まあ、一般の人なら異性に恋心の一つでもありそうなものです。

 

 ドヴォルザークの音楽家としてのキャリアはチェコ歌劇場のオーケストラのヴィオラ奏者からスタートするのですが、その歌劇場の中にいた一人の女性に熱烈なる憧れを抱くのです。残念ながらその恋愛は片思いに終わり、彼女は伯爵夫人となってしまうのですが、その代わりと言っては変なのですが、彼女の妹だったアンナを妻とすることになるのです。ということで、この作品は交響曲というスタイルをとったラブレターみたいなものではなかったでしょうか。作品番号は4万ですが、実際に出版されたのは交響曲第7番と8番の間でその時大幅な改訂をしています。そのため、作品としては充実したものになっているといえます。

 

 

 この交響曲の一つの聴きどころは第3楽章にあります。形の上ではスケルツォですが、魅力的な旋律が次々と登場して軽快なアレグロ・コンプリオのテンポに乗って弦と木管の掛け合いが楽しい楽章で、ガンゼンハウザーはメリハリのある音の組み立てで曲の魅力を引き出しています。

 

 

 第4楽章は古田9番と同じようにAllegro Con Fuocoのテンポです。この指示のあるのは2番と9番だけです。どの楽章も10分以上の大作ですが、ガンゼンハウザーのテンポはこの楽章だけやや重たいのが唯一の欠点といえば欠点です。もう少し、弾むようなテンポならもう少ししられた演奏になるのになぁという思いはあります。

 

 

 ドヴォルザークの「伝説」は元々はピアノ連弾用の曲ですが、これもオーケストレーションしています。10曲からなる曲集ですが、収録時間の関係でここでは後半の5曲しか収録されていません。交響曲全集はは数々あれどこの曲まで録音している大御所はクーベリックしかいないのではないでしょうか。全曲を演奏するには40分以上かかる作品です。元々はスラヴ舞曲の人気にあやかってその続編として書かれた経緯があります。

 

 多分この曲集で一番しられているのは最初に収録されている第6番でしょうか。小オーケストラのために編曲された作品ですが、ドヴォルザークらしさの漂う導入部で弦と木管の絡むシユ大はなかなか魅力的です。ガンゼンハウザーは前半の5曲を録音しなかつたのは惜しまれるところです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名フィル/市民会館名曲シリーズ・ベートーヴェン・プラス Ⅲ

 

曲目/

C. P. E. バッハ:シンフォニア ヘ長調 Wq.183-3(H.665)*

ベートーヴェン:交響曲第8番ヘ長調 作品93
ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 作品92


■ロビーコンサートのお知らせ

18:15より、1階ホワイエにてロビーコンサートを行います。

 

 

[出演]

小泉悠,瀬木理央(ヴァイオリン)、北島明翔(コントラバス)

[プログラム]

J.S.バッハ:カンタータ『おしゃべりはやめて、お静かに』 BWV 211より「ああ!なんてコーヒーはおいしいのでしょう」
 テディ・ボーア:バッハ・アット・ザ・ダブル

 

今回もロビーコンサートがありました。一応トップにはバッハの「コーヒーカンタータ」BWV.211より「ああ!なんてコーヒーはおいしいのでしょう」が演奏されました。ただし、今回はこちらがメインではなく、次のテディ・ボアの「バッハ・アット・ザ・ダブル」が本命でした。まあ、聴いてみてください。こんな曲です。

 

 

 パロディーの元ネタは、バッハの2本のヴァイオリン協奏曲 ニ短調。それをまるで悪ふざけをするかのごとく、スイングして演奏したりと、こんなアンコールピースがあっても悪くないでしょう。こんな、楽しい曲がコンサートのプロローグを彩りました。

 

 
 さて、これが最初のステージ構成です。指揮台ではなくチェンバロがステージ中央でステージ台の上に鎮座していて、演奏者用の椅子はありません。今回の指揮者は大井駿。ピアニストでもあり、古楽のフィールドでも活動を繰り広げる新進気鋭の音楽家で、立ったままで指揮をしながらチェンバロを弾くというスタイルを取っていました。リハーサルではちゃんと椅子に座って演奏していたようですから急きょこういうスタイルになったのでしょう。なを張り付けた映像でも指揮者は立ってチェンバロを演奏しています。もっとも、全員立って演奏しているんですけどね。
 

 

大井氏のプロフィールです。

1993年生まれ、東京都出身。

2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール優勝。
2025年、第21回ハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門第2位、古典派交響曲ベストパフォーマンス賞。

パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽科、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科、同大学ピアノ科・指揮科修士課程、バーゼル・スコラ・カントルム大学院フォルテピアノ科卒。2018-20年度ヤマハ音楽奨学支援制度奨学生、2023年度ロームミュージックファンデーション奨学生。

指揮者・ソリストとして都響、読響、東フィル、大フィル、広響、モーツァルテウム管弦楽団、マイニンゲン宮廷楽団など国内外のオーケストラと共演。

暖かい季節はキャンプとスキューバダイビング、寒い季節はスキー、そして1年中天体観察をしている。

 
 バロック作品としてはやや大ぶりの編成ですが、指揮者の相性からしてこの作品が一番生き生きとした演奏でした。この作品はは対比と表現力豊かな 3楽章構成の作品です.第1楽章 (ヘ長調) は三部形式で,華やかで短い導入に続き,情熱的な主題が展開されます.フルートが叙情的な対照的モチーフを奏で,発展部では短い「宣言」のようなフレーズが音楽の流れを妨げ,強弱の対比や急激な休止が緊張感を生みます.主題の再現後,不協和音の遷移で次の楽章へと繋がります.第2 楽章 (ニ短調) は短く重々しい単一主題であり,ヴィオラとチェロが悲劇的な旋律を奏で,「疾風怒濤(Sturm und Drang)」の影響が色濃く表れています.暗い雰囲気の中,調性の変化とともに次の楽章へ進みます.第3楽章 (ヘ長調) は主題と自由な変奏形式であり,優雅で舞曲風の主題が提示されます.展開部では,強弱の対比や転調,装飾音が用いられ,最後は力強いコーダで華やかに締めくくられます.
 

 

 続いて演奏されたベートーヴェンの交響曲第8番は、ステージはそのままの編成でしたからこちらに合わせていたのでしょう。ただ、最近のべートーヴぅンの演奏はどれも金太郎あめ的な演奏ばかりで、最新のベーレンライター版の楽譜を使いながらも、テンポはメトロノームにのっとった早い演奏ばかりになっています。これならピリオド楽器による演奏と変わりないもので、何も編成の大きいオーケストラでやる必要はないわけで、今回の演奏もこれも一つの流れと取れるリピートはすべて繰り替えすスタイルにはなっていましたが、どうにも一本調子でした。

 

 後半は交響曲第7番でしたが、こちらも性急としか思えないテンポで第1楽章から、ぐいぐい飛ばしていきます。せっかくフルオーケストラを使うのですから、ピリオド様式のせわしない演奏ではなく1980年代までのじっくりと落ち着いたテンポでのベートーヴェンを聴きたいものです。最近はベートーヴェンの作品があまり演奏会で取り上げられなくなったのもこういうところに原因があるのではないでしょうか。

 

こちらは規模を拡大した編成での演奏でした。

 

 
 それだけに大音響は響きますが、全体としては空虚な演奏で、アンコールの拍手もそこそこに退出する人が大勢いました。小生もその一人ですがね。

 

ストコフスキー

シェエラザード

 

曲目/

リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」作品35

1. 海とシンドバッドの船    10:04

2. The Story Of The Kalendar Prince    11:42

3. The Young Prince And The Young Princess    11:53

4. Festival In Baghdad, The Sea, The Shipwreck, Conclusion    12:09

リムスキー=コルサコフ/「スペイン狂詩曲」作品34*

1. アルボラーダ(朝の歌)    1:20

2. Variazioni. Andante Con Moto    4:52

3. Alborada. Vivo E Strepitoso    1:24

4. Scena E Canto Gitano. Allegretto    5:13

5. Fandango Asturiano    2:58

ボロディン/歌劇「イーゴリ公」より,ダッタン人の踊りと合唱**    11:17

 

ヴァイオリン/エリック・グリューエンバーグ

指揮/レオポルド・ストコフスキー

演奏/ロンドン交響楽団 

        ニュー・フィルハーモニー管弦楽団*

        ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、ウェールズ国立歌劇場合唱団、アンブロジアン合唱団**

 

録音/1964/09/22 キングスウェイ・ホール

   1973/07*

         1969/06/16,17**

P:トニー・ダマート

 レイモンド・ヒュー * **

E:アーサー・リリー

DECCA 417753-2

 

 

 ストコフスキーは好きな指揮者で「シェエラザード」もレコードで所有していましたが、CD時代になってほとど処分してしまいました。これもそんな一枚で、CD化されておまけもついていたので乗り換えました。1990年ごろに発売されたものですでに72分以上の収録時間を誇っていました。名盤として誉れ高い録音ですが今までこのブログでは取り上げていませんでした。手元には93歳で録音したロイヤルフィルとの1975年録音も所有していますが、そのスタイルの違いは一目瞭然です。まず冒頭のテンポが違います。そして、トロンボーンでサルタンの主題を高らかに歌い上げています。まるでストコフスキー編曲の「シェエラザード」といっても差し支えない演出で、千夜一夜の物語が始まります。これはデッカの「フェイズ4」に録音されたもので、通常のデッカの録音スタッフによるデッカツリー方式による録音ではなく、20本以上のマルチマイクを使った収録で各楽器が生々しく響きます。往々にしてフォルテでは音が玉砕し歪んでいるのもこの「フェイズ4」の特徴の一つです。それでも当時としては生々しい音の洪水はストコフスキーが望んだものでしょう。そして、ここでヴァイオリンのソロをとっているコンマスのエリック・グリューエンバーグもオーケストラをリードしながらも自らもシエエラザードの主題を楽しんでいて、その主題の最後の音をオクターブ上げるという遊びで答えています。

 

 この「シェエラザード」は決してファーストチョイスではありませんが、「アラビアンナイト」の世界をどっぷりと楽しむのならこの演奏は外せません。

 

 

 次の「スペイン奇想曲」はストコフスキー唯一の録音です。ただね映像としては、病気のフリッツ・ライナーの代役でストコフスキーがシカゴ交響楽団を指揮をしたテレビコンサートの映像が残っています。信じられないかもしれませんが、この演奏はストコフスキー80歳の誕生日の3か月半前に録画したものです。セッションという事でそのテンポよりはやや遅めですが、特徴的なのは「アクセント」をはっきり演奏していることです。

 

 

 最後のボロディンの「ダッタン人の踊りと合唱」もセッションとしては唯一の録音です。ここでも、ストコフスキー水んらの編曲版で演奏されています。この編曲の絶妙なこと!個々のテンポの落とし方入念な節回し、テンポアップの対比もストコフスキーの真骨頂でしょう。ラスト熱狂的な声楽とオーケストラの掛け合いもお見事な一大絵巻物風編曲になっています。このCD初めてCD化されたもので、ストコフスキーのだいご味を満喫できるのもうれしいところです。

 

 

下はLPレコードです。

こちらはCDです。