「奈良といえば???」
…と聞いたら1位と2位は大仏か鹿のどちらかでしょう(^^)🦌
秋といえば紅葉。
紅葉といえば鹿肉のことを指します。
奈良では鹿は神獣・神の使いとして非常に大事にされており、昔は叩いただけでも罰金💴
万が一にも殺してしまおうものなら、たとえそれが誤って殺したものでも一家全員死罪にされていました💸
もし朝に家の前で鹿が死んでいたら大変☠️
みんなが朝起きる前に別の家の前に運んでしまうという話もありますが、そのせいで早起きも奈良では名物だったという逸話があります。
さて、今日のお話は鹿政談(しかせいだん)🦌🦌🦌
「政談」というのは奉行所での取調べとか問答がメインにあるお話のことです。
他にも佐々木政談、唐茄子屋政談などがあります。
主人公は豆腐屋さん。
豆腐の素材といえばもちろん豆。
大豆ですね(^^)
で、豆腐を作った後にはおからが出来ます💡
関西ではおからのことを「きらず」
関東では「卯の花」と呼んでいました。
白くてパラパラとしているため卯の花はわかるのですが、なぜ「キラズ」…???
理由はけっこう簡単🍀
豆腐は切って食べる。
おからは切らないから「きらず」(切らず)。
…いやいや、おからでいいじゃん?笑
ところがこれが昔の人の面白い発想なのです。
古来から日本人というのは「忌み言葉」ってものを凄〜く気にする性質だったようでして…。
例えば冠婚葬祭のスピーチで避けられるような言葉とか、わかりやすいところで言えば受験生にとっての「滑る」「落ちる」「つまづく」とかです
そういう縁起の悪い言葉をわざわざ聞こえの良い言葉に変えたんだそうです。
おから=空(カラ)なのでお店がカラにならないように言い換えたわけですね💡
(昔の芸人は「おからを買ってきた」と言ったら縁起悪いこと言うなと怒られてたそうです)
スルメを「あたりめ」と呼ぶのはそこから来ています🦑
(「スる」が賭け事に負ける意味)
そんな「きらず」が巻き起こしたお話。
〜ストーリー〜
ここは奈良の三条横町。
老夫婦が営む豆腐屋があり、主人を与兵衛(よへえ)と言います。
ある朝に与兵衛が豆腐を作り、おからを桶に入れて外へ出しました。
2度目の豆腐を作るために豆を臼で挽いていると外からゴソゴソっと物音…。
ふと見ると犬が桶の中に顔を入れてゴソゴソとおからを食べています。
「あっ!コラっ!おからを食べるな!
シッシッ❗️」
叫んでも犬は動こうとしません。
売り物を勝手に食べられてムカッときた与兵衛は追い払おうと薪を投げつけました。
ゴツンと薪が当たったかと思うとバタッと倒れ込んでしまった『犬』…🐕
「…?…何かおかしいな?」と思って近づいてみて驚いた。
これが犬ではなく、鹿だったわけです🦌
当たりどころが悪かったのか、鹿は既に息絶えていました。
「え…えらいことをしてしもた…」
血相を変えて奥さんに話すと
「奈良で鹿を殺したらアンタも死罪になる…」
と泣き崩れてしまう
奈良の朝は早いと言いまして、万一どこかの家の前で鹿が死んでいた場合に自分の家の前に持って来られるかもしれないという嘘が本当かのような話があります。
かと言って与兵衛さんは正直者です。
そんな災いを他の家へ運ぶようなことはしません。
どうしようと悩んでいるうちに街の人が起きて発見するやいなや驚いた人達が集まってくる。
「鹿を殺しよったんか⁉️
豆腐屋の前で鹿が死んでるぞーっ‼️」
まぁこういうのを見るとむやみやたらに騒ぐ人っていうのはいるもんです😓
ざわざわと近所の人ももう大勢が見てしまったためにごまかしてやることができない💦
仕方なく与兵衛は奉行所へ届けられ、取調べを受けることになりました…。
さて白洲ではお奉行の御前です。
筵(むしろ)の上に引かれたゴザの上に座らされます。
しかし取調べは始まりましたが、殺したとはいえわざとではないし、お奉行様もできればそんなことで処刑にはしたくない。
何とか助けてはやれないものかと、お奉行も考えながら話します。
「与兵衛。そちはどこの生まれじゃ?」
「はい…私は奈良の人間で…」
「待て待て。そうではない。
そちは奈良の三条横町に住まいをしておるが、それは今のこと。
生まれた在所を聞いておる。
良いか。落ち着いて答えねばならん」
「お情け深いお言葉、涙が出るほど嬉しく思います…。
ですが私は嘘をようつかん性分でございます。
祖父の代からずっとこの奈良の三条横町に住み、代々豆腐屋を営んでおります与兵衛に違いございません」
「ふむ…三代にわたって奈良住まいとなれば、鹿を殺せばどのようなことになるか存じおろう。
では与兵衛。
その方、いかなる意趣遺恨を持って鹿を殺したか、正直に申してみよ」
与兵衛さんは朝に鹿を殺してしまった経緯を正直に話しました。
「どう介抱しても死んでしまったものは息は吹き返しません。
鹿を殺せばどうなるかはよく存じております。
私は覚悟しておりますが、どうか女房や子供には憐れみの沙汰をお願いしたいと存じます…」
と、与兵衛はとにかく全部正直に答える。
このままでは一家全員処刑です。
困ったお奉行様はその鹿の遺骸を持ってくるように部下に言いました。
じーっと遺骸を見つめながら口を開いたお奉行様。
「ふ〜む…皆のもの。
奉行の見るところ、なるほど毛並みはよく鹿に似ておるが…しかしこれは犬ではないか?
奉行一人だけの鑑定では心もとない。
これ。そちはどう見る?」
「ははっ。手前もこう見ましたるところ、非常に毛並みは似ておりますが…なるほど、確かに鹿に似た犬ですな」
「おお、そちもそう思うか。
他のものはどう思う?」
「なるほど。
見れば見るほど似ておりますが、こりゃ確かに犬かと心得ます」
「そうであろう。
町役の連中はどう見るかな?」
「あ、ワシらですか?
ワシらはどっちでも構いません」
「そのようなことを申すな😓
しっかりと見定めるが良い」
「ふむ。こりゃ犬ですなぁ」
「うんうん。確かにこりゃ犬や」
「犬や。さっきワンと鳴いたわ」
「いや死んでるものは鳴かん…😓
奉行も、与力たちも、町役も犬と見た。
犬ならば裁く必要はない。
よってこの願書は差し戻しとする…!」
これで一件落着かと一堂が感心していると、1人だけ声を上げた者がおります。
鹿の守役・塚原出雲(つかはらいずも)。
「恐れながら…これは鹿でございます。」
「む…塚原出雲か。
その方もお役目大事と心得たればこそ速やかに届け出たのであろうな。
だが、鹿にしては肝心の角が無いではないか。」
「いえいえ…長年にわたり守役を務め、鹿と犬を間違えようがございません。
お奉行もご存じでありましょう?
角は毎年春になれば落ちる『落とし角』によるもの。
それによってこの鹿には角が無いのです。
この角の跡をふくろ角などと言いまして…」
どの時代も空気が読めない人ってのはいるもんですねぇ…💦
しかしこれに奉行がすぐさま返します。
「黙れ‼️
この奈良奉行を務めるワシが落とし角を知らぬと思うのか。
その方…どうしても鹿だと言い張るならば、この者を裁く前に尋ねねばならんことがある。
毎年幕府から3,000両もの金が鹿の餌のために出されている。
しかしその金を高利でもって町人などに貸し付け、それを役人を使って厳しく取り立てるゆえ、難渋いたしておる者が数多くいるということがこの奉行の耳にも入っておる。」
塚原出雲…実はこの件に思いっきり関わっています。
顔は平静を装いますが、内心はギクッとしながら冷や汗と震えが出てきます。
「この奈良の街に出る鹿は300頭ほど。
3,000両もの金があればこの鹿の腹は1年中常に満ちておらなければならん。
この奈良にいる鹿が飢えるわけはないのだ。
それでもロクに餌を与えぬまま、鹿はひもじさに耐えかねて街をうろつき回るようになり、今日キラズを盗み食ってしまったのであろう。
いかに神獣といえども獣には違いない。
神獣であるのにそのようなことを行った鹿は神の意思に反したものとして打ち殺してもやむを得まい!
しかし…そうなればこの飢えた鹿のためにあった金を横領した不届きな者を調べ、裁く必要が出てくる。
その方、どうしてもこれが鹿だと言い張るのであれば、これが犬か鹿かはさておき、まず飼料の横領についてそちから吟味いたすが、どうじゃ?
…もう1度聞こう。
これは鹿か?犬か?
ハッキリと返答をいたせ」
「あ…い、いや、その件につきましては…あの…その…」
「何を申しておる?
今一度聞く。性根を据えて返答をいたせ。
これは…犬かっ⁉️鹿かっ⁉️」
塚原は驚愕しながら震えた声で
「ここ、これは…あの…し、しカ…いや、その、…鹿〜……に、似た犬、でございます」
「これは犬に違いないな⁉️」
「は、ははっ!犬に相違ございません。
手前共の粗忽(そこつ)により、毛並みの似た犬を鹿と取り違えてお届け申しました。
何卒、平に、お許し願わしゅうございます」
「ふ〜む…ではこの角の落ちた痕に見えるものはなんじゃ?」
「それは〜…腫物(しゅもつ)が2つ並んでできたものかと…!」
「うむ。ならば犬に違いあるまい。
よってこの願書は差し戻しとする❗️」
これで一件落着。
与兵衛は無罪放免となる。
お奉行が一堂立ちませいと声をかけてみんながぞろぞろと出て行きます。
「お奉行様、ありがとうございます…」😭
筵の上でボロボロと涙を流す与兵衛。
お奉行が声をかけます。
「与兵衛、お前は無罪じゃ。
斬らずにやるぞ」
「はい…豆で帰ります」😭
〜終〜
さて、いかがでしたか?
奈良のお話ではありますが、江戸落語でも地名を変えて演じられています。
上方落語では人間国宝・桂米朝によって演じられたこの「鹿政談」🦌
最近では日本一チケットが取れないと評判の大人気講談師・神田伯山によって講談でも演じられました。
そちらも大変面白いです✨
鹿が有名な奈良県の落語。
まさに「ならでは」のお話でした♫🦌
ではまた(^^)