落語にはいろんなキャラクターがいます。
『はっつぁん、クマさん、ご隠居さん、人の良いのがジンベエさん、バカで与太郎なんてことを申しまして…』
という具合なのですが、役ごとに名前がだいたい決まってたりすることが多い。
おバカキャラ・与太郎はどちらかというと江戸落語の方に多い名前かなと。
では上方落語のおバカキャラには喜六(きろく)という、キィ公・キリ公という愛称で呼ばれております。
おバカキャラと言うよりは喜六は狂言回し的な位置になることが多いですが、今回はこの喜六が大暴れ‼️
お楽しみください♫
〜ストーリー〜
「こんにちは」
「おお、喜六か。
こっち入り。どないした?」
「ちょっと相談があって」
「相談〜…?😒
オマエが相談っちゅうて来たらいっつもアホみたいな話ばっかりやが…今日はなんや?」
「いや〜、世の中っちゅうのは無駄なもんが多いなぁと思ってなぁ」
「おお、そらいろいろあるやろなぁ。
普段は何とも思わんけど、考えてみたら無駄やな〜ってなことはたくさんあるやろ」
「そうでんねん。
さっきも餅屋の前を通った時に1つね。
臼に餅米入れて、杵でポンポンついてまっしゃろ?」
「そりゃ餅を作るんやから、つかなあかんやろ」
「あれ、餅をつくためにはやっぱり重たい杵を振り上げて、臼の中へバーンと振り下ろすでしょ?」
「そうやなぁ?」
「あれ、けっこうな力でっせ?」💪
「そらそうやろ。
せやないと餅がつかれへんやないか。」
「そこやがな。
この、バーンと振り下ろす時の力ね?
まぁこれはよろしいわ。
振り下ろしたら次にまた振り上げるでしょ?」
「当たり前やないか。
振り上げんと振り下ろされへんやないかい」
「さっきも言うたけどあれ、振り上げるだけでもけっこうな力でしょ?
だから上にもう1つ臼を付けて、そこにも餅があったら上と下で両方つけまんがな❗️」
「う、う〜ん…えらい事考えよるな。
そらまぁそうかもしれんけど、上に臼があったら餅が落ちてくるやないか。
それはどうするねん???」
「それをアンタに相談に来たんや」

「知るか、そんなもん!

アホかオマエは…。
あのなぁ、こっちは忙しいんや。
そんな話の相手してられるかいな。」
「いやいや、これは今さっき思い付いたもんやからええんやけどね。
今日はホンマに銭儲けの話を…」
「あのなぁ…オマエの話にはもう懲りてるんや。
あれは一生忘れへんで、ワシは。」
「何がです?」

「オマエが『ええ銭儲けの話見つけた‼️』って言うから何やと聞いたやろ。
ほなオマエが
『10円札を9円で仕入れて11円で売ったら儲かりまんがな‼️』
💡

って…。
わしゃ冗談かと思ってたら真剣な顔で聞いてきたやないか。
『どこぞの世界に十円と書いてるもんを11円で買うやつがおるねん!』
『そんなこと言うたかて、額面通りに売ったとしても1円儲けまんがな!』
『ほなどこで10円札を9円で売っとんのや⁉️』
『それをアンタに聞きにきたんや❗️』
『どこへ行ったって10円札を9円で仕入れるところなんかあるかい‼️』

『まとめてぎょうさん買ったらいくらか安なりまっしゃろ⁉️』

…オマエの考えにはわしの頭では及ばんわ。
ホンマにオマエっちゅう男は…。」

「いやいや、今日は違いますがな。
まぁ聞いておくんなはれ。
今度は食べもんの商売を始めよかとね」
「ほう、食べもんの商売?
そら10円札よりはだいぶマシな商売やな。
当たったら大きい商売やしな。
やっとまともな考えが出たか。」
「そう!
当たったら大きいんです、食い物の商売は。
まずは場所が肝心やと思って、もうちゃんと見てきたんでっせ!
堺筋の八幡筋(はちまんすじ)をちょっと西へ入ったとこにええ場所があったんですわ!
わし、もう手金払ってきたんでっせ!」
「もう金払ったんか⁉️
ほほぉ〜、まぁ今度はだいぶ話がまともやからな。
で、何をするつもりでおるんや?
食いもん商売はいろいろあるからなぁ」
「そら食いもんはうどん屋とか寿司屋とかいろいろありますけど、わてはそこらではちょっとお目にかからんような食いもん屋をやろうと思ってまんねや!」

「お目にかからんような食いもん…って、何や?」🙄
「すき焼き屋です❗️」

「すき焼き屋なんかもう大阪中いろんなとこに出来てるから、珍しいことも何もあらへんで?」
「わかってまんがな。
そこらにあるすき焼き屋は牛肉やとかかしわ(鶏肉)でっしゃろ?
私は違いまっせ。ふっふっふ…」
「ほな何のすき焼きや?」🤔
「天すきですわ‼️」
「てんすき…???」🤥
「あっ、ちょっと。
ここからは声を小さくしておくんなはれや。
大声出して誰かに聞かれたら『おっ、そらオモロイ❗️』って先を越されたらどうにもならん」
「あ、あぁ…そらそうやけども。
…その天すきっちゅうのは何やねん?」
「内緒でっせ?
天狗のすき焼きでんねん…‼️」
「…何を???」😶
「だ・か・ら!天狗ですよ、天狗❗️
知りまへんか?天狗さんでんがな。
よく絵に描いてまっしゃろ?」
「そらわかってるがな。
つまり…あの鼻の高〜い、真っ赤な顔で、羽団扇(はうちわ)持った…あれか?」
「そうそう!
あれは大天狗っちゅうやつでね。
それとは別にカラス天狗っちゅうのがいてまっしゃろ?
あの〜鳥みたいにクチバシがあって、背中に羽が生えてて牛若丸みたいに身軽な、あれ。」
「あぁ、はいはい。カラス天狗なぁ。」
「あれを捕まえて、すき焼きにしまんねや‼️」

「な、なるほど…?

天狗のすき焼きで天すきか…」
「そうです!
店は二間あるんで、片方に金網張ってね。
そこへカラス天狗5、6羽入れて放しとくんですわ。」
「5、6『羽』ってかい…?
その数え方合っとるんか?😓
まぁええわ。それで?」
「そしたらカラス天狗が金網をガッと掴みながら怖ぁい顔で外見てたら、大勢の人がたかってくるわいな。
で、もう一間あるのを調理場にして、こっちで板場がカラス天狗さばいて調理してたらみんなどんどん入ってきまっしゃろ❗️
これ、わて流行るやろと思うんですわ」
「そらぁ流行るわ。
珍しいもんやからな!
美味いかどうかはともかく、いっぺん食うてみよかなと思うがな。」
「そうでっしゃろ⁉️
話のタネに食うてみよと思うし、そこからまた客が客を呼んでえらいことになりまっせ❗️」

「そら結構やなぁ〜。
結構やけど…そのカラス天狗はどこから仕入れてくるねん?」
「それを相談に来たんやないか」

「んなもんワシが知るかい‼️」

「知るかいって…そんな無責任な‼️」

「なんでワシが無責任やねん⁉️

アホか、オマエは…。」
「今更そんなこと言われても困りまっせ。
明後日には大工が店の中造りに来ますんや」
「おかしなとこだけ話が早いなぁ。」
「どこか仕入れ先知りまへんか?」
「知らんっちゅうねん…。
天狗ってなもん、その辺におらんがな」
「その辺やなくてもどっかにおらんかな?
だってそうやないですか。
昔からあんなに絵にも描いてあるし、話もいろいろと聞いたことありまっせ?
あれみんな嘘でっか⁉️」

「なんでワシが怒られてんねん…

まぁ確かに言い伝えはあっちこっちにあるし、絵にも描いてるし、お面まであるしなぁ。
きっと昔はそこらにおったんちゃうか?」
「何で今はおりまへんのや?」

「知らんっちゅうに。
ワシは何ともよぉ言わんわ。」
「だいたい天狗の本場はどこでんねん?」
「本場っちゅうのもおかしな言い方やけども…。
まぁそう言うなら京都が本場なんちゃうか?
ほら、鞍馬山なんか天狗で1番有名なとこやし」
「おおっ、そうでんなぁ。
鞍馬天狗っちゅうやつ💡
今でもおるやろか⁉️」
「さぁなぁ〜?
しかし…鞍馬山では姿は見えんが天狗の修行の音がするとかいろいろ聞くわなぁ。」
「その天狗はどうやって捕まえたらええんです?」
「知らんっちゅうてるのに。
そら捕まえるにも大きいやろうし、えらい道具が必要やで。」
「なるほど!
ほな京都で捕まえてきますわ❗️
あと聞きたいんやけど、天狗って何が好物や?」
「知らん‼️
忙しいんやさかい、もう帰れ❗️」

喜八はすぐに大量のトリモチ、太くて丈夫な竹の棒、縄を用意して鞍馬山へ入りました🏔
地元の人に聞いて、ある大きな杉の木の根元で竹の棒を構えて天狗を待ちますが、天狗は現れません。
そうしてるうちに夜中になり、ついウトウトと寝てしまいました😪
するとその日たまたま鞍馬の奥の院で行を終えたお坊さんが大きな門をギギギ〜ッと開けて出て参りました。
このギギギ〜ッという音を見事に聞き間違えたのがこの喜八。
「…

い、今のは天狗の鳴き声や…❗️
近くにおるで‼️」
そこへ慣れた足取りで階段をトントンッと軽快に降りてくるこのお坊さん。
運の悪いことに真っ赤な衣を着ておりまして、そこへまた夜風がサーっと吹いたことでヒラヒラとなびきました。
「は、羽が生えとる…!

とうとう見つけたで、天狗…❗️
天狗も位が上がると羽まで赤くなるんやな。
よぉ〜し…」
トントンと降りてくるお坊さん。
「来た来た…!
こいつ1匹で40人分は作れるやろ!
…おりゃーっ‼️」
「う"わ"ーっ‼️」

いきなり飛び出して足をサッと払ったので、たまらずそのお坊さんはバターンと倒れます。
「よっしゃーっ❗️
縄でくくったるから大人しくせぇ❗️」
「なっ、なっ、何をする⁉️
オマエは何者じゃ⁉️」

「何者もクソもあるかい!
暴れるな❗️手にトリモチかましたらぁ‼️
これで動かれへんやろ」

「こ、これ!乱暴はいかん…❗️」
「うるさいやっちゃなぁ!
黙っとかんかい❗️
猿ぐつわ持ってきてよかったわ!」
手にはトリモチを大量に付けられ、口には猿ぐつわをされ、体は縄でぐるぐる巻き。
そこへ竹棒をズボッと入れられる。
「いよっしゃぁ〜っ!
とうとう捕まえたぞ、大天狗❗️
いや〜ありがたいわ〜!
しかしこいつ生かしとかんとあかんのやな。
エサは何やろな…?」
竹棒にお坊さんを付けたまま山を降りて行きます。
もう夜明けの時間も過ぎておりまして、街には早朝の商売に出たり、世間話をしている人達がいます。
そこへ竹棒に坊主を刺した男が意気揚々と歩いてくる。
「お、おい…あれ何や?」

「あれ鞍馬の奥の院におる坊さんやないか?
ぐるぐる巻きにされて棒刺されとるけど…何かしたんやろか???」

「ありゃよっぽど悪いことしたんやおまへんか?」
「それにしたってありゃ気の毒な。
お、おーい。もしもし、そこのお方?」
「なんじゃい?
迂闊なことは喋らんぞ⁉️」
「いやいや、その方が何をしはったんかは知りまへんけど、さすがに気の毒でっせ。
離してあげなはれ」
「何を⁉️
せっかく捕まえた天狗を離せるかい❗️」

「て、天狗…???
そのお方は奥の院のお坊さんでっせ?」

「何を訳のわからんことを…。
これのどこが坊さんに見えるん…あれっ⁉️
天狗が坊さんに変わってる‼️」

「天狗捕まえて何する気やったんや?」

「暗くてわからんかったんかなぁ〜?
いや、わたい天狗捕まえてすき焼きにしたろと思ってたんですけどね。
お坊さんやったらそら無理やなぁ。」
「す、すき焼き…?
天狗って食えますのんか…?
ま、まぁともかくその方は天狗やおまへんわ」
「なんや坊さんかいな〜…

せやかてせっかく捕まえたのになぁ。
う〜ん…あっ💡
ほなわたい、てんすき屋やめて天ぷら屋にするわ!」
「なんで坊さんが天ぷらでんねん?」
「この坊さん、衣(ころも)付いてまんがな!」
〜終〜
さて、いかがでしたか?
今回は上方落語のバカバカしぃぃ〜い話を持ってきました♫笑
このお話、上方落語では非常にポピュラーな演目で笑いどころも豊富ないいお話なのですが、本来のオチが通じなくなってきたという危うい状況になっております💦
もともとこの演目のオチには京都で一般的に浸透していた「念仏差し」という物差しが使われていました。
落語のオチに使うぐらいなので少なくとも関西では非常に有名なものであったと推測しますが、これも100年以上も経つと誰も知らないという商品名になってしまいました💦
今回のオチは今現在の落語家さん達が新しく改変したものを使わせて頂きました。
落語は時代と共にその言葉が変化したり廃れたりしていくことで消えていく危険性があります。
しかしこうして少し形を変えて残していけるのも言葉のみで作られている落語の強みであり、魅力であると思います(^^)
上方落語でも桂二葉(かつらによう)という方を筆頭に若手の落語家が育ってきていますので、ぜひこの次の時代を担う方々に面白く残して頂きたいですね✨
(男性の上方落語家も頑張れ🔥)
ではまた(^^)