こんなお話だったけ?
この本一度読んでいます。2012年の本屋大賞受賞しています。映画化もされていて、そっちも見ました。(2013年春)この年の日本アカデミー賞6部門受賞しています。映画の宮崎あおいちゃんの印象が良かったです。
そんな「舟を編む」ですが、NHKの日曜ドラマで放送中です。この感想文を書いている時点では第五話だったのですが、
「こんなお話だったけ?」
と思えるのです。映画は10年以上前だし、本もおそらくその前後で読んだのだと思うのです。
市の図書館で検索すると、蔵書は八冊。さすが本屋大賞受賞作。運よく一冊だけ残ってました。ちょうどドラマ化だったし図書館の読書会の課題図書になっていたようです。
それで原作本を検証するつもりで再読することにしました。
本や映画では、主人公の馬締(まじめ)君とその細君の香具矢(かぐや)さんを中心に描かれていました。映画は原作本と違和感はなかったと思います。しかし、ドラマでは、ファッション雑誌の編集部門から移動になった岸辺さんが主人公になっているのです。
ドラマは45分×10話です。(NHKなのでCMが入らないので一時間ドラマ相当ですね)映画は2時間。なのでお話を膨らませることが多いですよね。しかし、このドラマでは「こんなエピソード原作本に有ったかな?」が気になりました。
新しい視点からの「舟を編む」でした。
原作本を再読してちょっと安心しました。私の記憶は間違いなかったようです。ドラマは全く新しく「舟を編んだ」ようです。
ドラマは大幅に書き加えて直してあると言うレベルではなく、主人公を変更するという全く別なお話になっているのです。それに原作本には無いエピソードも盛り込まれています。これはスピンアウトの様ですね。
映像化で不幸な事件があったように、時に原作者さんと映像化側で揉めることもありますが、心配しますね。まぁNHKですから、そこは抜かりないでしょうが、原作者さんにするとどうなんだろう?とは思いました。正直、このドラマの方が面白いのでは?と思えるからです。(ご安心下さい。最後にNHK公式サイトからの引用しています)
この「舟を編む」というお話は辞書を編集→出版するというお話です。辞書を作るというのは、数年から十数年もの年月を必要とする仕事です。このような仕事を独りで成し遂げるのは無理ですね。(過去には本当に一人でされた事例もあるそうですが)
このお仕事、沢山の人間が関わって、そしてそれを次の世代、部下、担当者さんにつないで行かなくては出来ない壮大なお仕事です。
原作の中でも、定年を前にする担当者さん(荒木)が、次なる担当として馬締君を発掘して来ます。彼は小さい頃から「言葉」に対して異常に関心を示していて、言語を専門とする大学→大学院に進んで就職しています。ただ、会社では最初営業課に配属されていてトンチンカンを繰り返していたという設定。ただ、これだと辞書編集って特殊な才能や知識が必要なお仕事っていう印象が強くなりますね。
ドラマでは、その馬締君の次の担当者としてのファッション雑誌出身の25歳の若い女性の方に焦点を当てています。当然、彼女には辞書に対する思い入れも無ければ、言葉に対する知識も経験も少ないです。でも、そっちの方がドラマとして視聴率を期待出来るとか下世話な勘ぐりもありますが、「お仕事小説」として、一つの仕事が営々と繋がって、そしてそれが一つの作品になるというストーリーが若い視聴者さんにも分かりやすいと思いました。原作本では第四章から登場する岸辺さんを主人公にしていますが、この方がお仕事は次から次へとつながっているもの、という意味が強くなっているのです。
脚本家さんもすごいけどやっぱり原作が
主人公を変更するっていうだけでもすごいなぁ~と思うのですが、この脚本家さん、原作本を一つの「素材」として捉えているのだろうか?と思いました。勝手な想像ですが、「舟を編む」を入口にして、辞書編集を知って、このお仕事を是非とも描いてみたい、とお考えになったのでしょう。
例えば、辞書の中でも専門性の高い文言の注釈は、その専門家さんに外注して書いてもらいます。原作本では「西行」というお坊さんの注釈で揉めます。最初に提示した条件より長いし意味が不明瞭なのです。それを指摘して揉めるのですが、その収拾方法が、その先生の愛人問題をチラつかせるのです。
ところが、ドラマでは「水木しげる」です。外注した専門家さんは、驚くべき分量の注釈を提示して、一言一句削れないと主張します。似たような話ですが、その解決方法は「辞書は入口」と水木しげるを愛しているからこそ、沢山の人の入り口になって欲しい、と説明して納得してもらうのです。
これも原作本で、一人ひとりのキャラクターが丁寧に描いてあるからだなぁ~と思います。なら、シニアとしては、会社を定年で去ることになった荒木さんや、78歳で逝ってしまった松本先生を主人公にしたお話を読んでみたいとも思いました。
実は図書館で「辞書」で検索すると、このお話のように辞書編集に携わっていた方の本が有りました。借りてきました。そこになんと三浦しをんさんのお父さんが古代文学伝承文学の専門家さんで、実際に辞書の注釈を書かれた事があるそうです。そしてこの経験談は三浦しをんさんににも伝わっているのです。
原作者さんも歓迎されている様子
この感想文を書くのに、原作者さんはどう思っているのか?と調べたくなりました。NHKの公式サイトで
ここに原作者さんの三浦しをんさんのコメントが有りました。引用させてもらいます。
『舟を編む』のドラマ化にあたって、スタッフのかたが、実在する辞書編集部に取材してくださったそうです。ご協力いただいた各社の辞書編集者のみなさまに御礼申しあげます。 ドラマのスタッフのみなさまが、いま、とても熱心に、新たな「舟」を作ろうと総力を挙げて取り組んでくださっています。脚本家の蛭田直美さんがお書きになるシナリオを拝読して、私は早くも爆笑したり涙したりしています。その「舟」に、魅力的で実力のある役者さんたちも続々と乗りこんできてくださっているそうです。 スタッフ・キャストのみなさま、本当にどうもありがとうございます。新しい辞書を作ろうと奮闘する人々の姿を、ドラマで拝見できるのをとても楽しみにしております。 新鮮な風を帆に受けて出航しようとしている、ドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』。辞書って、辞書をつくっているひとたちって、すごくおもしろいんだなと興味を持っていただけるような、愉快で胸打たれる作品になりそうです。 視聴者のみなさまにも、ぜひ、登場人物たちと一緒に航海をお楽しみいただければ幸いです。 どうぞよろしくお願いいたします。
作家さんもこの舟がどう風を受けてどう航海をしていくのか、楽しみにしていると書かれていて、一安心。自分の手を離れた時点で、それをどう解釈されようが、それは受け手の感覚ですよね。
それと、この主人公を変えるというのは制作統括の高明希さん(女性らしい)のプランだったことも書かれてました。
十年前、「『舟を編む』を、岸辺みどりを主役に連続ドラマ化したい」と、三浦しをん先生にお伝えしました。紆余曲折あり、今、このタイミングで、脚本家の蛭田さんと出会い、この最高の本を、最高のチームでやるために必要な十年だったと、心から思えます。 池田エライザさん、野田洋次郎さんは、言葉の大切さを知っているだけでなく、言葉への“畏怖”を持っている方だと感じます。伝えあうこと、人と繋がること、簡単でないからこそ、敬意と畏怖をもって言葉を使い続ける。それが出来る方々とお仕事できる喜びを噛みしめて、何度も何度もページをめくる辞書のように、何度でも何度でも観返したくなるドラマをお届けします。
「紆余曲折あり」と書かれている部分は想像するしかありませんが、やっぱりそう簡単には許可が出ないのかな?と思いました。