ギャンゴの日 その1
1966年9月25日は「ウルトラマン」第11話「宇宙から来た暴れん坊」の放映日でした。脳波怪獣ギャンゴ登場です(前回、日付間違えました。多謝)。
ギャンゴは、わりと人気者でした。わりと、と言うのは、見た目があんなだし、ベムラーの改造だし、活躍も強いのか弱いのかよく分かりません。でもなんとなく、可愛いし、悪童のような悪戯者です(初稿のタイトルが「宇宙から来た悪戯者」だった)。
それまでの怪獣はゴジラのように復讐のために暴れるか、キングギドラのように侵略に来るか、怪獣と言えば爬虫類で、怖くて強いが相場です。
「ウルトラQ」以降、カネゴン、ガラモンのようなユーモア、ユニークな怪獣の登場に、子供はみんな驚いて飛びつきました。
この変な連中は、要するに、幼児性の強い怪獣です。子供みたいなものなので、子供に共感したんでしょうか? そう言えばピグモン(ガラモン)とギャンゴは、人気があるとされ、アトラクション用の縫いぐるみをTBSが高山さんに発注しています。
宇宙から来た不思議な石は、科学的な分析がなされた発表の場で、鬼田によって盗まれます。この鬼田、あの初代「ゴジラ」で一番最初にゴジラに踏んづけられてしまう大戸島の漁師をやった山本廉さんです。
66年の夏休みの話題作「フランケンシュタインの怪獣サンダ対ガイラ」でも冒頭でガイラと大ダコの犠牲になりました。映画を観てすぐの放映で、覚えている子供も多かったかも知れません。
山本さん、特撮に縁のある俳優さんで、鬼田もどこか憎めない。
いや果たしてなんのために?と言う部分も含めて、そんなに根は悪い人じゃなさそうだし、脚の悪い描写があるので、(いま思えば、社会の底辺を舐めて這いずって生きていた人の精一杯の抵抗だったのかなと)、何となく子供心に同情さえするような人物像でした。
とくにタイアップで借りたホテルの中でギャンゴを使った悪戯は、ギャンゴが悪戯者なのではなく、鬼田自身が悪戯者で、ギャンゴが巨大化して瓦礫に埋まった事で一種の犠牲にもなって、果たしてどういう罪に問われるのか、心配になってしまいます。
ギャンゴはベムラーの改造で荒垣輝雄さんがそのまま入っています。プールから飛び出すところは、ベムラーのプール撮影でウエットスーツを着込んでタイミングなども経験値が付いたと思うんですが、あのヒゲモジャの荒垣さんがギャンゴの悪戯をリハーサルの素顔でやっている場面を想像すると可笑しいです。
満田監督はこの10月放送の日本テレビ「快獣ブースカ」でメイン監督で活躍する事になります。この話は、ブースカの入り口のようなところもあって、遡れば「ウルトラQ」の「育てよ!カメ」「カネゴンの繭」(満田さんはすべてに助監督で入っていた)に原型があって、子供ドラマがごく自然に円谷プロの見せ方の1つであったと感じさせます。
実際、脚本の山田正弘さんの話では、カネゴンからの発想がブースカだったと言われました。
冒頭の子供たちの造成地での遊びは飾り気内当時のままの風景で懐かしい人も多いでしょう。むかしの子供はヤンチャでしたから、有刺鉄線の柵があればくぐり、土管があれば寝転びました。廃材を使って基地を作りましたし、他の学校の子供たちとの交流もそんな中でありました。
本多監督の「オール怪獣大進撃」(69年)にはそれに加えてガキ大将が怪獣とかぶります、よく「ウルトラQ」の「育てよ!カメ」的な子供ドラマのようだと指摘する向きが多いのも、子供を主役にもっていくドラマが1つのスタイルにあって、こと空想特撮シリーズにとても見合っていたからです。大人になってみれば子供ドラマがなんと愛おしいものか。
円谷一監督が芸術祭で受賞した「煙の王様」の助監督にも満田さんは入っていますから子供を演出するコツは分かっているんでしょう。
ちょっと生意気で、大人顔負けの意見を言う子供たち。隕石にしては小さな不思議な玉を前にさまざまな物欲が試される。レーシングカーはマルサンの提供と思います。ヒット商品でしたからね。
女の子にとって夢のピアノ。あの女の子、「虹の卵」のピー子ですよ。女になったなぁ、なんてオジサンは思ってしまう。女子の成長は早い。
不思議な石の原型、バラージの青い石と同じ型だと思うんです。ガラダマと同じ成田さんの彫刻の面のとり方です。
そもそも石は記憶媒体と言われ、また霊体を封じる事も出来るとされます。
青い石 怪獣を倒す意志を受け取る→相手を破壊!
不思議な石 物欲を具体化する→身の程を越えると破滅!
ともに人間には過ぎた存在でした。
「バラージの青い石」の項目で書いたんですが、青い石は、カラータイマーのツブツブの1つだと思っていました。なんかその辺が、ウルトラマンと共通する世界のもので、ギャンゴも光の国からの授かり物で、カプセル怪獣のように使えたかもしれません。
いやしかし、ギャンゴ、山本廉の顔にそっくりなんですよね。
命名はギャングからだと思います。ギャング怪獣、ゴー、ゴー! みたいな感じで。
レッドマン名義の初稿ではゴリラのような異様な怪物とあります。鬼田は公園や森で悪戯をさせます。
改造怪獣を前提としたため設計が丸っきり変わります。ベムラーが選ばれたのは腕がないためショーには使えないからだと思います。
シナリオにはこうあります。
「キバをむき出せ! 角も生えろ! 爪ものばせ!」
一応、成田さんは注文を形にしていますね。
初稿から、鬼田のギャンゴへの想いを拾ってみましょう。
「(呟くように)おれは力がほしい。人を恐怖に陥れ、物を破壊し、思い切り暴れまわりたい」
「お前は、世界一の暴れものだ。力も強い」
「身体ばかりではない。お前の頭脳はすばらしい。人間のように憎み、怒ることもできるのだ!」
そうして鬼田の矮小な夢や希望がギャンゴを暴れものに仕立てるわけですが、映像ではもっとソフトな感じです。
そして2稿では、岩本博士が登場していて、
「(鬼田に)君の心から、悪魔がとび去つたのだよ。その証拠に怪物も消えた」と事件の解決を示唆します。
3稿で、岩本博士から山本博士に変わり、つづく同じセリフで、
「(しみじみと)あの小石は宇宙からおそらく何かのはずみで飛んで来てしまつたものだろう。しかし、あゝいう能力をもつた物質を悪用する奴がある限り、人間はほんとの意味で進歩したとはいえませんね、大きな教訓でした」で終わります。
脚本の宮田達男さんに詳しくないのですが、テンポがあって面白いでした。
造型に話を戻します。ギャンゴはベムラーを改造したものですから、高山さんが順当に担当しています。
ピーター(制作者不明)改造のゲスラと同時で、どこの会社でもあるでしょうが、たまにヨソで作った怪獣が持ち込まれます。
この模様は、旺文社の「少年」誌で藤子不二雄先生が取材に来て、ハットリくんのレポートという企画で紹介されていました。いま切り抜きが出て来ないので、いつか出て来たら紹介します。
代わりにその際の写真を何点か。「少年」が撮った写真かアトリエメイのスタッフが撮った写真かは分かりません。
ギャンゴは、成田さんにしたらそう苦労はしてないようですが、絵にするとなかなか素敵で、ベムラーがこうなるか!と驚愕します。
センターにトーテムポールのような模様をもってきた事で特徴が出て、ギャンゴの賑やかな雰囲気になりました。
立派な腕が付き、尻尾がなくなり、頭部の角が取られた代わりに金属質のアンテナが。つまりベムラーの逆をやっているわけです。
ギャンゴの手、ぐーだと思っていました。
マルサンのソフビは掌の代わりに鳥の嘴のようなかぎ爪でした。
80年に高山さんの所へ行って、お菓子のカンカンに無造作に入っていた造型の写真を見せてもらって、ギャンゴに指があるのにビックリでした。
指の第2関節のところに馬蹄形の磁石を思わせるかぎ爪が付いています。
たしかにデザイン画を見ると、そういう事になっていました。
取って付けたような馬蹄で、打ち合わせの際に書き添えた感じです。
ギャンゴが劇中で、ダダをこねる場面。この腕の感じがとても良いです。
狙って出来る怪獣じゃないです。偶然の連続が形を成す、これぞ現代アートの発想です。
【図版】
・宇宙から来た不思議な石。鬼田のテレパシーでギャンゴに変化。ウルトラマンの目のようなクリスタルカット。樹脂成形で、内側から色が付けられています。
・熱海の町で大あばれのギャンゴ。綺麗な怪獣ですね。こういう発想はそれまでありませんでした。
・成田亨によるギャンゴのデザイン画。鬼田のテレパシーを受信するため耳はレーダーになっています。特徴的なトーテムポール模様、高山さんのところでさらに追加されてお腹いっぱいに増えました。
・見栄えがするので商品展開も多いです。美しい模様にユニークな性格、忘れられない風貌です。
・東宝から借りてきたAサイクル光線車。熱線砲の攻防が3稿から書かれているので、シナリオ段階で借りる算段がついた、と言う事なんでしょう。
メーサー車も登場しました。小松崎メカ、豊島メカがウルトラシリーズに登場。
・ギャンゴの顔、アップ。すごいですねぇ。どうしたらこんな怪獣がつくられるんでしょう。写真を見ているだけで嬉しくてニコニコしちゃいます。
・旺文社「少年」で紹介されたアトリエメイのレポート。ピーターはゲスラに、ベムラーはギャンゴに改造されます。
・腕は原型、型抜き、ラテックスでつくられました。耳はポリ。若いスタッフがお手伝い。高山さんの奧さんの姪御たちは女子美。あと沿線にある日芸の学生が通いました。
・ギャンゴの掌。こうなっています。高山さん、ちゃんとどれも試着します。
・上、お馴染みのスチールです。こんど、熱海の怪獣祭で上演されますね。ギャンゴ、熱海特産の怪獣です。
下、ギャンゴの尻、こうなっています。
・当時掲載された雑誌から。ジラースのセットで。
・するとこれは逆版だろうか。5枚組のブロマイドから。
・「別冊少年マガジン お正月号」67年のカレンダーにギャンゴとガヴァドンの特写。
・マルサンのギャンゴ。初期はこのカラーリング。柿色成形。このあとオレンジ色成形で、銀スプレーになりました。柿色は、ハヤタ隊員も同じなんですよね。独特の色でした。
・増田屋のギャンゴの手踊りの発売は放送が終わってからだと思うんですが。どうでしょうか。