ドドンゴの日 その2
「ミイラの叫び」は、「グリーン・モンス」の藤川圭介さんです。どちらも怪奇調で眠りを醒ました者を襲います。恐いものに惹かれる子供にとってこの上なく印象深い話でした。
前の週のジラースの最期も哀れでしたけど、ミイラ人間とドドンゴは双方引かれ合う密な関係があったのに、人間の生活を脅かすため命を奪われるのは、可哀相どころか残酷です。
最後のセリフに、このまま眠らせてあげれば良かったと言うのが子供だったぼくには白々しく感じました。
と言うのも、その頃流行った「名犬ラッシー」や「わんぱくフリッパー」などの動物ものも、ぼくは好きでした。むく犬が出て来る家族ドラマも見ていました。
「ミイラの叫び」の後味の悪さは、そういうペットのような存在の怪獣を倒すウルトラマンに、ちょっと待って欲しいと思うんです。
大人の目で見るなら、主従のように見えて、実際はもっと高潔な関係で、ミイラ人間の方が神獣ドドンゴに遣えた可能性だってゼロではない。あれ、神獣ならば、殺しちゃったらダメでしょう、とも思いますよね。
ドドンゴはウルトラマンの登場の前に、科特隊の攻撃で目をやられます。
その段階で嫌な気がします。
一さんは「目を狙う」が多いような気がします。企画書の新ウルトラマンでも、老ムラマツが目を狙え!と言いますし、歌にも「目を狙え!」とあります。あわれドドンゴは、アラシ言うところの座頭市状態。
放映時ではありませんけど、目の潰されたドドンゴの絵なんて悪趣味で、どうして描くんだろう、と思います。
ブルマァクの人形に、目の潰された怪獣がその状態で発売されて、ドドンゴを作った人のセンスと違うものだと思いました。
不思議と、八つ裂き光輪は残酷には思えないんですね。目を狙うのは致命傷を負わせ、卑怯な気もします。
初稿のドドンゴは黒い煙を吐きます。
目から怪光線の方が絵になるのと、黒い煙の扱いが巧く行かないと踏んで修正されたのか分かりませんが、合成の方が時間もお金もかかりますから、時間もお金もかけて良いとの判断なんでしょう。イデ隊員の新兵器バリアマシンの威力や、ウルトラマンがハヤタに戻る時の光輪なんかも合成でした。
でも、たしかに難敵の目を狙うのは分かり易い(片目を潰された怪獣は、ネロンガ、バニラなどありました)。
ぼくはそのように大きな動物が好きだったので、ドドンゴがどんどん弱っていくさまに悲しい気持ちがおこるんです。ウルトラマンも、スペシュームポーズをいっしゅん、惑いますよね。
断末魔のように脚をピクつかせるドドンゴは見てられませんでした。
シナリオは4稿までつくられました。以下、ミイラ人間とミイラ怪獣の要点を拾ってみます。
「ミイラの叫び」初稿では、ミイラは死にながら生きていたとされ、3百年前経っている事になっています。
ミイラは身体のあちこちが風化していて、空に向かって声をあげる。その声に呼応して現れたミイラ怪獣はボリボリと骨の軋む音を立てて、ミイラ人間と同じ泣き声のような声をあげる。
ミイラ怪獣は黒い煙のような息を吐き、それを吸った人間は倒れていった。
黒い煙を疾風の如くふきつけてレッドマンと戦うミイラ怪獣(初稿はレッドマン名義の頃で、カラータイマーは黄色を経て赤くなります)。
レッドマンは、ミイラ怪獣に負けない旋風を巻きおこし、砂塵の中ミイラ怪獣が一啼きすると、ミイラ人間と呼び合うように、双方が風化していく。帰してやればやればよかったと、花束がそえられる。
2稿、3稿が「7000年の眠り」で、4稿でふたたび「ミイラの叫び」になります。
ミイラ怪獣は成田さんの画集に、ドドンゴの初稿として掲載されていました。
その絵はガヴァドンに転用されます。元を辿れば「南海の怒り」用に描いた魚の骨の怪獣が同じコンセプトで骨モチーフです。骨の部分は、デザインなのか、筋肉も内臓もないのか分かりません。しかし中に人が入ることが前提ですからぺしゃんこではないんです。
骨モチーフはシーボーズで形を見ます。このときは黒い部分は素抜けです。幽霊の怪獣ですから。
ドドンゴは雑誌のグラビアで映えました。
ぼくがもっと気に入ったのはデザインした当の成田さんが描いた怪獣カードやマルサンのドドンゴのソフビでした。
どう見ても麒麟ビールのマークと同じ怪獣で、親近感があります。黄色と緑の組み合わせは、麒麟ビールよりもお洒落でした。
ソフビは、それまでのカリカチュアした怪獣に比べてリアルに出来ていました。
最初のQ怪獣を作った瀬戸物職人の河本武さんの原型でしょう。瀬戸物用の粘土特有の柔らかさ、四肢をバランス良く動きを見せて、首も少し傾いて、左右非対称な全身で見事に表情を出しています。
Q怪獣はグロテスクなものは売れないと取り次ぎに言われて、可愛くしたそうです。心配は杞憂に終わり怪獣は売れに売れ、少し、リアルになったのでしょう。
このセンスでレッドキングが出ていたらなぁと今さらながらに思います。加えて言えば、このドドンゴをしのぐソフビは現在まで見た事がありません。
当時のソフビのドドンゴは炎のようなたてがみのところ、メタリックイエローが吹いてありましたが、経年劣化で色が飛び、緑青になりました。緑青の部分はすべてメタリックイエローでした。これはレッドキングも同様です。真鍮を含む塗料はソフビと相性がわるいんですね。金色も緑青になります。
ピンクや緑のドドンゴは、女の子向け商品だそうです。なるほど、目を惹く色合いです。動物園で売っていても売れたと思うんです。
絵でもたくさんドドンゴは描かれていますので、思いつくまま集めてみました。
ちなみに、どの挿し絵だったか忘れましたが、ドドンゴが走るときの擬音が「どどんご、どどんご」なんです。
【図版】
・現代コミックス「ウルトラマン 1月号」66年末に発売されたもの。表紙がドドンゴとガボラ(端っこ)。柳柊二の渾身の1枚。もふもふですね。
・その挿し絵。鬼ノ台丘陵の洞窟の壁画。柳さんの絵。成田さんのカードを参考に描いています。
・本文、井上英沖のマンガの扉。復刻されていますので、参照はそちらを。
・現代コミックスの増刊号「ウルトラマン 怪獣大全集」の表紙。これも柳さん。マンガの再録でした。
・ミュージックグラフ「きりぬき大怪獣」から、梶田達二のドドンゴ。目がちゃんと六角形になってます。
・梶田さんのショウワノートの表紙。このあたりは67年になってからでしょうか。
・ショウワノートのスケッチブックの表紙。梶田さんの絵。版権表示から67年のもの。
・ミュージックグラフの企画した1967年のカレンダーから。梶田さんの絵。ドドンゴとミイラ人間が組んでウルトラマンと戦います。
・「少年マガジン10月16日号」、「ウルトラ怪獣ショッキング図解」より。遠藤昭吾の解剖図。ドドンゴが吐く黒煙は、シナリオ初稿の設定による。
・これも講談社「ぼくら12月号」の口絵。南村喬之の絵。
・朝日ソノラマ「怪獣解剖図鑑」から、中西立太の絵。
・その巻頭の目玉、解剖図を描いたのは遠藤昭吾。これも大伴昌司の仕事で、シナリオ初稿に則って、黒煙を吐きます。カッコイイですね。
・マルサンのドドンゴ。炎のようなたてがみは、初期のメタリックイエローで、経年で、緑青になりました(蛇腹のところは最初からメタリックグリーン)。後期になると黄色スプレーになります。
・シスコでもドドンゴの絵はいくつかありました。左上、ガムの景品のミニ人形のドドンゴ。