トム・ロブ・スミス「エージェント6」 | アルバレスのブログ

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最近はガンプラとかをちょこちょこ作ってます。ヘタなりに(^^)

2011年発表。
文庫2冊、872ページ
読んだ期間:6.5日


[あらすじ]
運命の出会いから15年。
レオの妻ライーサは教育界で名を成し、養女のゾーヤとエレナを含むソ連の友好使節団を率いて一路ニューヨークへと向かう。
同行を許されなかったレオの懸念をよそに、国連本部で催された米ソの少年少女によるコンサートは大成功。
だが、一行が会場を出た刹那に惨劇は起きた…(上巻まで)
1980年。
ニューヨーク行きの野望を断たれたレオは、ソ連軍の侵攻したカブールで、設立間もないアフガニスタン秘密警察の教官という職に甘んじている。
アヘンに溺れる無為な日々がつづくが、訓練生ナラを伴ったある捜査で彼女とともにムジャヒディン・ゲリラに囚われてしまう。
ここにいたって、レオは捨て身の賭けに出た。惜しみない愛を貫く男は何を奪われ、何を与えられるのか?(下巻まで)
[新潮社HPより]


「チャイルド44」「グラーグ57」に続くレオ・デミドフ・シリーズ第3弾にして完結編の「エージェント6」が遂に登場。

「~44」の次が「~57」だから次は「~6×」かな~と思っていたらストレートに”6”でした(^^;

では、本編の話ですが、ここからはちょっとネタバレ的になって行くのでご容赦を。
そしてちょっと厳しめの感想にもなって行きますので、こちらもご容赦を。

本作は、はっきり章と書いてあるわけではありませんが、4章構成になっています。
起承転結がはっきりしている構成です。

第1章は「チャイルド44」の前の1950年の話。
レオはバリバリの国家保安省捜査官。
後に妻となるライーサと知り合い仲を深めるきっかけになった、アメリカ人共産主義者で黒人歌手のジェシー・オースティンのソ連訪問についての章。

第2章は「グラーグ57」の後、1965年の話。
レオは捜査官を辞め、小さな工場の工場長となっています。
ライーサは教師を続け、徐々に出世。
米ソ友好目的の合同コンサートのソ連側団長として、ゾーヤとエレナを伴いアメリカに旅立ちます。
コンサートは成功するものの、直後に起こった事件によりライーサは命を落とします。
米ソ双方はありえない顛末をでっち上げ幕引きを図りますが、レオは一人で真相を探る決意をし、8年後国境越えを図るも発見され連れ戻されます。

第3章は1980年の話。
人生の目的を失い自暴自棄に陥ったレオは、アフガニスタン駐留ソ連軍顧問に就き、アヘンにおぼれる自堕落な日々を送っています。
そんな時、ある事件をきっかけに渡米のチャンスをつかんだレオは国を裏切りCIAに接触。
遂に念願の渡米を成し遂げます。

第4章は1981年、渡米後の話。
慣れない異国の地で言葉もままならない状況で遅々として進まないライーサ殺害調査にじりじりとした日々を過ごすレオに、ソ連本国でゾーヤとエレナが当局に尋問を受けたとの知らせが入ります。
このままでは二人にさらなる危機が訪れるかもしれない。
レオは、かつての友好コンサートの際にエレナがアメリカに残していった日記から、一人の重要人物にたどり着きます。
エレナの付けたコードネーム、エージェント6=元FBI捜査官、ジム・イエーツ。
レオはイエーツから事件の真相を知る。

と、まぁこんな感じで進みます。

期間は何と30年以上。
実に長いネタ振りです。
そして本書は謀略と暴力の小説ではなく、純愛小説になってます。
「チャイルド44」路線を目的に買うと「あれ?」って感じになります。
そこを考慮して読む必要があると思います。

それまでの強い信念の持ち主のレオが徹底的に落ちるところまで落ちる第3章は、かなりの違和感を感じるかもしれません。
ここは物語的にも沈滞ムードなので相当異質な印象。
しかしこの落ち込みが無いと第4章につながらないのも事実。
妻への愛、家族への愛がいかに深いか、レオにとっていかに重要かと言う事が、激しい落差のある描写により明確に記されています。
結局、レオがライーサと出会い、結婚し、養子(ゾーヤとエレナ)を得て家族となり、ライーサを失う事で家族まで失い、ライーサの思い出におぼれ、どん底を味わい、一定のけじめを付け、再びゾーヤとエレナとの家族を取り戻す。
本書の目的はそれ以上でも以下でもないというものです。

なので、事件の真相も、それまでのシリーズに比べれば込み入ったところもなく、若干、拍子抜けするようなあっさりしたもので、あくまで味付け程度に収まっています。

くどいですが、最高傑作「チャイルド44」路線ではないですが、これはこれでOKと言う人も多いと思います。
決してつまらない小説ではないです。

収容所社会ソ連で収容所に送り込む側だったレオが逆の立場になってまで愛を貫く長い展開にじわじわと感情を掻き立てられもしますし、反共吹き荒れる60年代のアメリカで、人権を無視した激烈な取締りが行われていた様子も興味深い。
小説なのでフィクションではありますが、実際、同じような事が行われていただろうと思うと、ソ連もアメリカも同じだなと感じます。

本書で3部作完結と言う事ですが、果たして本当にこれで終わるんでしょうか?
ラストがちょっとぼんやりしていたので、その後的外伝などが出てきたりして。

もし映画化するならレオ役はダニエル・クレイグでお願いします。
(単に小説読んでて顔が浮かんだだけですが)

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