ラーシュ・ケプレル「契約」 | アルバレスのブログ

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最近はガンプラとかをちょこちょこ作ってます。ヘタなりに(^^)

2010年発表。
文庫2冊、875ページ
読んだ期間:5.5日


[あらすじ]
ストックホルム沖を漂流するクルーザーから若い女の死体が発見された。
着衣は乾いていたにもかかわらず、何故か死因は水死。
同じ頃、武器輸出を監督する政府長官パルムクローナが不可解な自殺を遂げる。
無関係に思えた2つの事件は、かの天才音楽家パガニーニにからむ、国際規模の陰謀で結ばれていた!
(by早川書房HPより)


今回、あらすじを出版社HPからそっくりコピらせてもらいました。
色々書くとネタバレが激しくなりそうだったので。

本書は、スウェーデン国家警察のヨーナ・リンナ警部を主人公とした全8部を予定しているシリーズの最新刊で第2部。
第1部を読まずにあえて第2部から試してみました。
結果、これは中々面白かった。

シリーズの途中と言ってもそれほど前作を引きずってはいないのも入り込み易さにつながりましたし、何よりそのスピード感がすばらしい。
本書のような国際謀略をテーマにした小説は、概して、発端はなんでもない事件や事故が意外な展開から複雑な事象を引き起こし、一つの解答が新たな謎を呼び、あっと言う間に巨大な謀略に巻き込まれていくというパターンが確立されており、まさしく本書もその通りの展開を示します。
言ってみれば先の読めた、使い古された手法をベースにした小説ですが、それをいかにして読者を飽きさせず引き込むかが作家の力量にかかってくるものです。
著者のケプレルは圧倒的なスピード感でそれを実現しました。
発端となった事件から解決までは数日と言う短さ。
その短い期間の中でいくつもの複雑に絡み合う謎を出現させ、それを少しずつ解明させていく。
登場人物の何気ない言動や一見無関係なバックボーンが実は重要な意味を持つ。
このあたりの解き明かしぶりが中々巧い。
結果はあたりまえのように悪が滅び正義が勝つ。
これも実にスカっとする。
押さえるところをしっかり押さえた小説になっています。
ラストでは思わず泣かせるシーンもあり、この後どうなるんだ?と気にさせる引きがあり、第3部への期待も膨らむ。
中々楽しみなシリーズに遭遇できました。

本書の主人公ヨーナ・リンナ警部はコロンボの直感とジェームズ・ボンドの行動力を持った警察官。
性格はコロンボ寄りで何でも強引に自分の思うところを突き進むというよりはちょっと抑えたタイプで言葉使いもやさしい。
本書でのヨンナの相棒となる公安警察のサーガ・バウエルは妖精のような容姿を持った女性警察官。
こちらの方が強い性格を持っており、この対比も読んでて面白いと思います。
ほかにも個性的な性癖の持ち主が出てきますが、キャラクターの掘り下げは若干弱いかな。

本書では色々と音楽にまつわる話が出てきます。
中心は「パガニーニ契約」と言う言葉通り、クラシックがベースとなっています。
パガニーニと言う人は、18~19世紀に活躍した天才ヴァイオリニストで、あまりにも卓越したヴァイオリン演奏技術から「悪魔に魂を売った」とまで言われた人。
本書の国際武器売買に関わる悪魔じみた契約をこれにたとえたと言った感じ。
最近、クラシックが趣味になってきたわたしとしては、文中に出てくる曲を実際に聴きながら読書すると言う稀有な読書体験をする事が出来ました。
小説世界にピッタリマッチしたBGMを聴きながらの読書はその場の雰囲気や臨場感もUPしたような、楽しい読書でした。
そこで、小説に出て来た曲を一部抜粋してみたいと思います。
まずはモーリス・ラヴェル作曲の「ツィガーヌ」↓


ラヴェルと言うと「ボレロ」ですが、こう言う曲も書いてます。

そしてなんと言ってもニコロ・パガニーニ作曲の「24の奇想曲」から最も有名な24番↓


弾いてるのは20世紀を代表する名ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツ。
古いのでかなり雑音が入ってるしモノクロですが、そのテクニックのすばらしさは堪能できると思います。
(とは言ってもわたしもコレは初めて観ましたが)

ほかにも本書の登場人物アクセル・リーセンのヴァイオリンに関する特殊能力も面白かった。
チューニングが全く狂ったヴァイオリンで正確に演奏するとか、4人の演奏者のスナップ写真を見てそれぞれがどんな音を出しているか、その音の組み合わせから演奏しているのがどんな曲なのかを瞬時に当ててしまうとか。
特に後半はホントにこんなこと出来るのかなと思いました(まぁ、フィクションなので)。

クラシック以外にもジャズも出てきますが、HR/HM系のアーティストの名前も結構出てきます。
メガデス、エントゥームド、ヨーロッパ、ジミ・ヘンドリックス、ガンズ・アンド・ローゼズ、デヴィッド・ボウィ、イングヴェイ・マルムスティーン、ZZトップ、アリス・クーパー。
小説でお目にかかる事がほとんど無いアーティストも結構います。
洋楽好きでもあるわたしとしてはこれも面白い要素でした。

小説の内容だけでなく、本書はその構成もうまく、大変読みやすいです。
わたしのように通勤途中の移動の間だけ読書する者にとっては、どこまで読んで一端終わるかは結構重要です。
普段の読書ではかなり中途半端な位置で乗り継ぎのため読書中断となりますが、本書は章立てがかなり細かく区切りやすい。
こういった事もあり、わたしの普段の読書スピードに比べるとかなりの速さで読み終えました。

著者のラーシュ・ケプレルは1作目「催眠」発表時は正体不明となっていたそうですが、今は正体も判明し、アンドリル夫妻と言う純文学作家だそうです。
純文学作家がこのような国際謀略小説を書くと言うのも珍しいんじゃないかな。
1作目「催眠」は「サイダーハウス・ルール」の監督、ラッセ・ハルストレムにより映画化が決定とか。
このシリーズ、益々目が離せなくなりそうです。
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