アーサー・C・クラーク「楽園の泉」 | アルバレスのブログ

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最近はガンプラとかをちょこちょこ作ってます。ヘタなりに(^^)

1979年発表。ヒューゴー賞、ネビュラ賞受賞。
文庫1冊、414ページ
読んだ期間:4日


[あらすじ]
かつて、人類史上最大級の建造物であるジブラルタル橋の建造を行った地球建設公社技術部長モーガン博士は、タプロバニーにやってきた。
彼の目的は、近年開発に成功した超繊維を使った宇宙エレベーターの建造だった。
エレベーターの地球側の地点を厳密に計算したところ、唯一の場所がここタプロバニーにあるスリカンダ山頂だった。
しかし、そこは3000年の歴史を持つ寺院の立つ霊山だった。
霊山使用を申し出るモーガンだったが、指導者テーロを説得できなかった。
使用権を訴える裁判にも敗訴し、ここですべてが終わったかに見えたが、意外なところから救いの手が伸びる。
火星のテラフォーミングに使用する事を目的とした建造が申し入れられて来た。
短期間の実験として一時的な使用を許可されたスリカンダ山上に建造された宇宙エレベーターのプロトタイプを使った実験が行われたが、そこで起こるはずの無い強烈なモンスーンにより超繊維は切れ飛翔体は墜落する。
しかし、これは霊山を守るために人為的に起こされたモンスーンによる妨害活動だった事が判明。
指導者テーロは霊山の永久使用に同意する。
ついに現実的に宇宙エレベーターの建造が始まった…


本書を簡潔に表すと宇宙エレベーター建造を目指す男の話です。
一般的には軌道エレベーターと言った方が通りが良いかとも思いますが、SFに興味のある人ならどこかで聴いた事のある、夢の建造物を建設するための、場所の選定とその接収、プロトタイプの建造と実験、実際のエレベーター建造までが本書の流れです。
本書執筆時には、このエレベーターを建造するための素材になりそうなものが無かったため、クラークは宇宙空間でしか製造できない超繊維と言うものを考え出しています。
しかし、今ではこれを実際に作れそうな素材、カーボン・ナノ・チューブと言うものが存在します。
そのため、今では夢のまた夢だった軌道エレベーター建造が、もしかすると近いうちに出来るかも知れない状況になっています。
今では宇宙エレベーター協会なるものも存在しています。
そのHPでは宇宙エレベーターとは何なのかを分かりやすく説明してありますので、興味のある方はググってみて下さい。

クラークは本書の中にエレベーター以外の要素も持ち込んで、物語に深みを出しています。
架空の島国タプロバニー(実際のスリランカをモデルにしたもの)と霊山スリカンダにまつわる2000年前の文明と、異星人の探査機スターグライダーとの遭遇です。
本書冒頭ではカーリダーサという太古の王の物語とモーガンの奮闘を交互に著しコントラストを出し、中盤からはスターグライダーとの交信を盛り込み人類と神との関係を説き、宇宙エレベーター建造と言う幹にさまざまな枝を生やし、感動的なラストシーンにつなげて行きます。

クラーク作品は今までに「2001年宇宙の旅」シリーズと「幼年期の終わり」しか読んでいないので、あまり詳しくは無いですが、何と言うか読んでて非常にフィットします。
読みやすさもさる事ながら(これは翻訳者の方の努力の賜物でもあるかと思います)、しっかりした文体でありながらもところどころにユーモアがあり、論理的でありながら感動もある。
そしてほっとする楽観性。
少ない読書ですが、その中で出てくる異星人の人類に対するやさしさは、大半の映画で描かれる人類の敵としての異星人とは一線を画しています。
また、実際に軌道エレベーターを建造する事になった場合想定される各国間の軋轢などは本書では起こらないなど、厳密にはありそうも無いスムーズな建造が行われているところも楽観の表れかと思います。

本書の時代設定は2160年ですが、もしかするとそれより早い時期に軌道エレベーターが建造されるかも知れません。
(生きてる内に見れたらいいですが、さすがに無理か(^^;)

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