スタニスワフ・レム「ソラリスの陽のもとに」 | アルバレスのブログ

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最近はガンプラとかをちょこちょこ作ってます。ヘタなりに(^^)

1961年発表。
文庫1冊、382ページ
読んだ期間:3日


[あらすじ]
二つの恒星を巡る惑星は、定期的に起こる軌道変化により大きな環境変化が巻き起こされるため、生命は発生しない。
その理論が覆された惑星がソラリスだった。
ソラリスの軌道は常に一定で、安定した環境が維持されていた。
その理由は何なのかを探るため、人類は調査を行う。
惑星ソラリスは全体を覆う海に満たされた惑星だった。
その海は特殊な動きにより軌道修正を行っているように見え、最終的に、それが自然現象としての海ではなく、巨大な知的生命体であるとの結論に至る。
人類は海とのコミュニケーションを図ろうとさまざまな取り組みを行うが、わずかな反応しか得られない。
その後、研究者達の多くを巻き込んだ死亡事故が起こり、ソラリスの海は人類の働きかけに反応を示さなくなる。
人類は、惑星上にステーションを建設し、わずかな研究者だけを残してソラリスから撤退する…

それから60年後。
心理学者のクリス・ケルビンは、ソラリス・ステーションに赴任する。
事前に通告があったにも関わらず、出迎えも何も無いステーションに不審を抱くケルビン。
サイバネティックス研究者のスナウトは、当初、ケルビンが本物かどうかを疑いを抱いていたほど。
物理学者のサルトリウスは研究室に閉じこもったまま出てこない。
もう一人の研究者ギバリャンは、ケルビン到着前に自殺していた。
ステーションの中を調べるケルビンは、そこにいるはずのない人物に遭遇する。
スナウトはケルビンにしばらくすれば君にも分かると言い、それ以上の詳しい事は言わない。
そしてその夜、ケルビンは意外な人物と再会する。
それは10年前に自殺した恋人、ハリーだった…

つい最近までソ連の人だと間違えていた、ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの代表作がこの「ソラリスの陽のもとに」。
レム作品はこれが初めての読書です。

前回のレビュー「虎よ、虎よ!」に続いて50年前の古典SFですが、読んだのが最近新装版として出版された文庫本だったからか、文体としてはそれほど古臭さは感じませんでした。
出てくる機械の中に真空管を使ったものがあるのはさすがに古いと感じましたが…
(最近は古典SFに回帰中なので当分この流れが続きます…)

巻末の訳者あとがきの中で、本書を執筆した理由をレム自身が語っている箇所がありますので簡単にまとめると、
「当時の異星人との接触物は、相互協力・敵対後人類勝利・敵対後異星人勝利の3パターンしか無かったが、それ以外の可能性もあるはず」
と言う事で、「それ以外の可能性」を著したものだそうです。

本書に登場する異星人=ソラリスの海は、(おそらく)ニュートリノ生物であり知的生命体ではあるものの、人類とのコミュニケーションには特に興味が無いだけではなく、ほかのあらゆる事にも興味が無く、超保守的で、自分達(?)の平穏な生活を淡々と送るのが目的、と言った生命体。
そのため、輝かしいファーストコンタクトなど望めるべくも無い、人類としてはガッカリさせられる知的生命体です。
海の生態や思考など、結局何も確かな事はわからない。
ある意味投げっぱなしの話になります。
ただ、ひとつだけ海が人類に投げかけるのが、ステーションにいる人間の深層心理の奥深くに閉ざされた人物の再生。
再生された人物は、あくまで記憶の中にある再生物ではあるものの、自ら意識もある、見かけは人間そのもの。
ケルビンは過去の過ちにより自殺に追い込んだ恋人ハリーの突然の出現に動揺し、最初、彼女をロケットに閉じ込め宇宙空間に放り出します。
しかし、その夜、何事無かったように再び現れたハリーを目にし、彼女との関係を考え直します。
それと共に、ソラリスの海がなぜこんなことをするのかを探ります。

本書は相容れない人同士のような不完全なコミュニケーションだってあるはずと言う1つの回答と、そんな生き物の生態、そして過去の過ちと直接対面する人間の心理を描いた作品。
SFと言う側面を持った人間小説と言ってもいいかも知れません。

本書は過去に2回映画化されています。
1回目は1972年のソ連映画、タルコフスキー監督の「惑星ソラリス」。
2時間半を超える、当時としては非常に長い映画で「2001年宇宙の旅」と並び称される作品ですが、レムは全く評価しておらず、また、長くて退屈という批評もあり、それもあってわたしは未見です。
この評価の延長で、原作も退屈そうと言う印象が付いたので、今まで読んでいなかった。
2回目は2002年のアメリカ映画、スティーブン・ソダーバーグ監督の「ソラリス」(99分)。
こちらはケルビン役がジョージ・クルーニー(下の本書表紙に顔が出てます)。
こっちは一応観ましたが、あまり記憶に残っていません(^^;
こちらもやはりレムは気に入ってはいないらしい。
どちらも原作を忠実に映像化したものではないと言う事が一因らしいですが、原作物の映画化は常にこうなりますね。
コミック原作の映画化は比較的そうでもないですが、小説となると小説側の密度が高すぎて2時間の映画にするのは無理があると思います。

後、あらすじの冒頭に書いてある二重星(連星)をめぐる惑星ですが、この設定を真っ向から生かして特殊な生態を擁した異星人を登場させた作品として、ロバート・J・ソウヤー「イリーガル・エイリアン」があります。
結構面白いのでそちらもどうぞ。

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