アルフレッド・ベスター「虎よ、虎よ!」 | アルバレスのブログ

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最近はガンプラとかをちょこちょこ作ってます。ヘタなりに(^^)

1956年発表。
文庫1冊、446ページ
読んだ期間:3日


[あらすじ]
24世紀。
人類はその活動の場を地球のみならず太陽系に広げ、金星・地球・火星の3惑星を中心とした内惑星連合と木星・土星・海王星の7つの衛星を中心とした外衛星同盟の2つの勢力に分かれ、活動していた。
そんなある時、一人の学者が特殊な能力を偶然発揮した。
その学者の名前を取って、ジョウントと呼ばれるその能力は、精神の力で瞬時に場所を移動するテレポート能力だった。
研究の末、現在の居場所と目的地をはっきりと意識した上で、精神集中する事で誰にでもそれが可能となる事が判明し、人類の大半がジョウント能力を得るに至る。
移動距離は最大1600km。
この能力は人と物の移動・輸送に絶大な変化をもたらしたが、この輸送経済の激変は内惑星連合と外衛星同盟の関係を悪化させ、ついに戦争状態に突入する…

2436年。
宇宙船員のガリヴァー・フォイルは破壊された宇宙船ノーマッドの残骸と共に170日も宇宙を漂流していた。
そして171日目、ついに助けとなるはずの宇宙船ヴォーガと遭遇、救難信号を上げるが、ヴォーガはこれを無視し飛び去ってしまう。
激しい怒りを覚えたフォイルは必ず生き残ってヴォーガに復讐する事を決意する。
その直後、火星と木星の間に存在するアステロイド・ベルトに漂着したフォイルは、そこで独自の生活を営む科学人に救出されるが、意識を失っている間に体中に虎のような刺青を入れられる。
科学人の船を奪い脱出したフォイルは、地球に戻り、ヴォーガの存在を知る。
人類有数の資産家プレスタインが所有する船がヴォーガだった。
フォイルはヴォーガの係留されているドッグにジョウントしヴォーガ爆破を図るが、未然に阻止され、身柄を拘束される。
実はプレスタインもフォイルを探していたのだった。
フォイルが乗っていたノーマッドには戦争の帰趨を決する特殊な兵器パイアが積まれていた。
その行方をプレスタインは捜していた。
プレスタインの要請でフォイルを尋問する、ダーゲンハムだがフォイルは口を割らない。
ダーゲンハムはフォイルを暗黒の洞窟病院グフル・マルテルに送り込む。
しかしフォイルはそこで知り合ったジスベラ・マックイーンの協力の下、グフル・マルテルを脱出。
最初の契機になった宇宙船ノーマッドの残骸を探しにアステロイド・ベルトに戻ってきたフォイルとジスベラだが、そこにはダーゲンハムと内惑星同盟中央諜報局のヤン・ヨーヴィル大尉が待ち構えていた。
ノーマッドの残骸を何とか確保したフォイルはジスベラを残したまま逃走し姿を消す。

それから2年後。
あるサーカス団が大きな話題になっていた。
そのサーカス団を率いるのはジェフリー・フォーマイルという資産家。
それこそはガリヴァー・フォイルの変身した姿だった。
自らをサイボーグ化し、加速装置まで装備したフォイルは、自分を貶めたあらゆる存在についての復讐を果たすため帰って来た!

あらすじが異常に長くなりすいません(^^;
これで本書の半分くらいになります。

アルフレッド・ベスターの「虎よ、虎よ!」はアレクサンドル・デュマ・ペールの小説「モンテ・クリスト伯」をモチーフとしたベスターの代表作です。
わたしは「モンテ・クリスト伯」は読んでないので、本書の雰囲気とどのくらい近いのかは分かりませんが、本書の主人公ガリヴァー・フォイルが野蛮で粗野な無頼漢であり、彼の復讐の動機とその対象に抱く感情がちょっと無茶な印象がぬぐえないので、確か無実の罪を着せられたはずの「モンテ・クリスト伯」とはちょっと違う気がします。

はっきり言って、本書は50年以上前の作品なため、台詞回しとかキャラクター設定とかは古いと感じる部分がかなりあります。
何も考えず猪突猛進なだけの主人公フォイルの粗野な性格は、あまり感情移入できませんし、本書自体ちょっとジュブナイル的な印象もあります。

ただ、300ページを超えたあたりからの怒涛の展開は圧倒的です。
何がどう、とは話せませんが、とにかくページをめくる手が止まらなくなる、この先どう転がるのかが気になる、先が読めない。
そんなスピード感あふれる驚きが待っています。

また、本書には、特徴的なギミックが色々と用意されています。
テレポート能力であるジョウントに始まり、日本では「サイボーグ009」でおなじみの加速装置(奥歯にスイッチがある)&サイボーグ。
最近映画化された「ウォッチメン」に出てくるDr.マンハッタンみたいな印象のダーゲンハム(超能力は無いですが生きた放射線発生器)。
特定の波長以下しか見えない特殊な盲人オリヴィア・プレスタイン(フォイルをはるかに上回る憎悪の復讐者)。
発信しか出来ないテレパス(佐藤マコトの「サトラレ」そっくり)。
人間の感覚を錯綜させる現象は、寺沢武一「コブラ」に出てくる視覚と聴覚を入れ替える話のよう(このあたりの描写は目がくらむようです)。
さらに「意思と思惟」に反応し極大爆発を起こすパイアなど、非常に個性的な着想から出てくる小道具が面白い。

そして、普通の本ではありえない遊びのような模様や活字の使い方↓
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(ちょっと折り返しがゆがんでますが、雰囲気は伝わると思います)

このあたりは後の「ゴーレム100」で遺憾なく発揮され、邦訳不可能とまで言わしめました。
(2007年に邦訳版が発行されました。読んでないけど(ちょっと立ち読みはしました))

とにかく非常にクセのある作品で、その終わり方には納得行く人と行かない人が半々くらいじゃないかと思えますが、とりあえず、読んでみてもいいかもと思います。

ベスターは1953年に長編SF小説「分解された男」でヒューゴー賞を受賞、そして3年後に本書を発表。
その後、SF界から離れTV界で活躍した後、1974年「コンピュータ・コネクション」で再びSF界に舞い戻り、1980年には「ゴーレム100」を発表。
残念ながら1987年に亡くなりました。
SF作家としてズーっと生活していたわけでは無いので作品も長編はこの4作くらい。
生きていた時代としてはアーサー・C・クラークなどと同年代なので、彼らと比肩しうる可能性もあったわけですが、残念というか、それが彼らしいのかも知れません。
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