逆流性食道炎と機能性胃腸症(機能性ディスペプシア/FD)の整体治療
下部食道括約筋と胃腸の内臓整体で改善した症例の解説です。
患者Yさん=29才-女性-主婦/パートの症例より
① Yさんの病歴・・・「お薬が効かなくなりました…」
患者Yさんは1年前から仕事のストレスにより体調を崩して胸やけや胃もたれ、背中痛が生じ、某病院で逆流性食道炎と機能性胃腸症(機能性ディスペプシア=FD)の診断を受け、その症状が今もずっと続き悪化傾向にあったので4か月前に退職しているそうです(現在は週2~3回ほどのパート勤務)。病院での治療では改善しなかったので整体や鍼灸・漢方などをされていましたが、当初は少し良くなってもすぐに悪化するので、身体的だけでなく精神的にも落ち込み、かなりまいっているそうです。
② Yさんの診察
・胃食道接合部に炎症はあるそうですが、バレット食道は無いそうです。その他の検査で異常は無いそうです。血圧は上が80mmHg代だそうですが、下はよく覚えていないそうです。
・6年前に十二指腸潰瘍に罹患しています。また2年前に左卵巣嚢腫の手術をされています。
・胸やけや胃もたれは常時あり、ゲップも一日に何十回も出るそうです。呑酸は出たり出なかったりだそうです。また、食後に背中痛も生じるそうです。
・元々は食欲旺盛で何でも食べていたそうですが、本症に罹患前から食欲は低下傾向で、最近は乳製品を中心とした食事をされているそうです。
・時おり(☚月に一二度)、歩行中に行き苦しくなることがあるそうです。
・便通は毎日あるそうですが、食べ物によっては不消化便もあるそうです(なっとう、ひじきなど)。
・月経周期は32~35日周期で、月経期間は5日前後だそうです。
・生理痛は普通くらいで頭痛やだるさが主な症状だそうです。PMSもあり、頭痛や吐き気があるそうです。数年前に外陰部に強い痒みがあったそうですが、自然に治癒していたそうです。
・常に(左右交代的に)鼻閉があり、時折後鼻漏もあるそうです。しかし耳鼻科での検診で副鼻腔炎などは無いとの事です。
・花粉症があり、アレルゲンはスギ・ヒノキなどだそうです。
・数年前から後頚部の凝り感-持続性疼痛がひどく、しょっちゅうマッサージ等を受けているそうです。
・気管は正中にあり、甲状腺の腫脹や萎縮はありませんでした。頸部全般の筋肉群の著名な緊張と圧痛がありました。
・腹部聴診上、グル音はやや弱めに聴取できました。血管雑音はありませんでした。
・腹部触診上、心窩部周囲、臍上部~臍左右部、左右の臍部からそれぞれ恥骨の左右縁にかけて著名な緊張と圧痛がありました。肝脾腫はありませんでしたが、肝叩打痛があり、その放散痛が心窩部に向けてありました。
➂ 治療目標と整体治療
⑴ 下部食道括約筋および胃平滑筋の疲労を回復する
⑵ 十二指腸~空腸部の平滑筋の疲労と緊張を回復する
⑶ 上記⑴,⑵部位への動静脈血流(腹腔動静脈流域および上腸間膜動静脈流域)を回復する
⑷ 横隔膜および横隔膜脚の疲労-緊張を緩和する
⑸ 肝胃間膜/肝十二指腸間膜(小網)の緊張を緩和する
・胃/十二指腸平滑筋テクニック
・下部食道括約筋解放テクニック
・腹腔/下部食道動脈解放テクニック
・横隔膜(脚)解放テクニック
・肝胃間膜/肝十二指腸間膜(小網)解放テクニック
④ 経過と結果・・・
・2診目までは変化がありませんでしたが、3診目来院時「朝が楽に起きられるようになりました。息苦しさもましになってきて、みぞおち(心窩部)も軽い感じがします」と仰っていました。
・4診目来院時、
「食べ過ぎなければ胸やけや胃もたれ、背中痛は出なくなってきました」と仰っていました。
・5診目来院時、
「息苦しさはあれから出ていません。食事の量もかなり食べられるようになってきました。みぞおちの違和感も少しありますが、以前の事を思うと全然マシです。」と仰っていましたので、これで一応の治療を終了し、様子をみて頂くことにしました。
・機能性胃腸症(機能性ディスペプシア=FD)は、比較的新しい概念で、その定義も曖昧な点があり、その名称だけが独り歩きしているような気がします。ですから、例えば医師によっては、FDに逆流性食道炎を入れて考える立場のDrと、そうでないDrもおられるようです。
・ただ現実的には、当院においても本症例のYさんの様に、FDと逆流性食道炎が合併している患者さんは少なくなく、むしろ多数派を占めている、と思われます。下記1の「消化管平滑筋の緊張/疲労」に鑑みれば、消化管の一部である「下部食道括約筋」の疲労が逆流性食道炎の直接的な原因ですから、その意味では逆流性食道炎もFDの一部、あるいはその発展型なのかもしれません。
◆ FD患者の消化管には「コリ」がある、、、そして隠れた原因もある?!
・ところで当院のFDの考え方は二つの要素から成っています。
1. ほぼ全てのFDと言われる症例に消化管平滑筋の疲労/緊張(コリ)がある
2. 1以外の、その患者独自の隠れた原因が横たわり、症状と治療を複雑化させて、治癒を遅らせている
です。
ですから、FDの原因が上記の1「消化管平滑筋の疲労/緊張」だけなら、その治癒は、整体治療によって意外と簡単で早期に訪れるのですが、そうでなく、2の隠れた原因も追加される場合、非常に難しいものとなります。
・そこで、当院のFDに対する取り組み方ですから、まず上記1に鑑みると、全てのFD患者に対して、その消化管平滑筋の疲労や緊張を解放する整体手技を取り入れる事は、必然です。
次に上記2の要因について言えば、その隠れている原因を探すわけですから、相当深いFD患者の診察と洞察が必要となります。この1と2の両者が車の両輪の様に上手くかみ合えば、極めて早期にFDは治癒します。しかしそうでない場合は、難治性で治癒が遅延する傾向になります。
◆ 消化管の「コリ」の治療と隠れた原因の除去がかみ合えば…早期治癒が?!
・そこで今回のYさんの症例ですが、5診でほぼ完治、というかなり短期間でFDは改善しています。この事は、1の下部食道括約筋を含む(☚胃酸の逆流抑止)、消化管平滑筋の治療効果は当然として、2の患者独自の隠れたFD原因の治療も、上手くいったのでは、、、という事になります。では2の患者独自の隠れた原因とは何だったのでしょうか?
・おそらくそれは「横隔膜脚と肝胃間膜/肝十二指腸間膜(小網)の緊張」では無かったか、と考えます。一般的には、横隔膜脚や小網などの治療は、ほとんどなされないと思いますが、当院で初めてYさんに同部への整体治療を施術したので、思わぬほど早期に改善したのでは、と思います。
肝臓と胃を連結する腹膜=小網
FDの原因になりやすい
◆ 横隔膜脚の治療もFDに効果的?!
・念のために申し添えると、先ほど「一般的に横隔膜脚や小網などの治療はほとんどなされていない」と述べましたが、当院ではこの両者については常に意識して診ていて、比較的多いFD原因の一つだと考えています。なぜなら横隔膜脚は、その上端が食道裂孔(下部食道括約筋の位置する部位)に接続しています。小網は、その肝胃間膜は肝臓と胃を連絡する腹膜ですし、肝十二指腸間膜は文字通り肝臓と十二指腸を連絡する腹膜の一部です。従って、下部食道括約筋、あるいは胃や十二指腸の緊張があれば、上記の横隔膜脚や小網などに緊張が伝播し、それが腹痛の原因(☚薬で効果が無いタイプの腹痛原因)になっても不思議でなく、むしろ自然の成り行きであって、これらの脚や間膜を緩和する整体治療が奏効するのは当たり前だからです。
本症例のYさんのケースでは、上記の治療方針で改善した典型的な症例では、と思います。
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