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クオ・ワディス〈上〉 (文庫)
シェンキェーヴィチ (著), Henryk Sienkiewicz (原著), 木村 彰一 (翻訳)
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クォ・ヴァディス
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クォ・ヴァディス: ネロの時代の物語 (Quo Vadis: Powieść z czasów Nerona) は、一般には単に「クォ・ヴァディス」としてよく知られるヘンリク・シェンキェヴィチ による歴史小説 である。「クォ・ヴァディス」とはラテン語 で「主よ、何処に行き給ふか」を意味し、新約聖書 の『ヨハネによる福音書 』13章36節からの引用でもある。(同節では最後の晩餐の席でペトロがイエスに「主よ、何處に行き給ふか」と問い、イエスが「わが往く處に、なんぢ今は從ふこと能はず。されど後に從はん」と答えている。訳文は舊新約聖書 による)本作はネロ帝治下のローマを舞台として、若いキリスト教徒 の娘リギアと、ローマ人マルクス・ウィニキウスの間の恋愛を活写している。
シェンキェヴィチはこの作品を執筆するのに先だってローマ帝国 の歴史を綿密に研究し、歴史的な詳細を精確に描きだした。本作に歴史上の人物が登場してキリスト教 以前の主張を生き生きと伝えるのはその顕われである。
1895年 にポーランド の三つの新聞に連載され、1896年 に出版された。この時以来、日本語を含む50以上の言語に翻訳されている。この小説はシェンキェヴィチのノーベル文学賞 受賞 (1905年 ) に貢献したとされる。
目次
[非表示 ]この作品の影響
1895年はウィルソン・バレット (劇作家、俳優) が演劇「十字架の徴」を演出して成功を博した年でもある。バレットは「クォ・ヴァディス」の存在を知らなかったとしているが、この演劇の幾つかの要素が 「クォ・ヴァディス」によく似ている。どちらの作品でも「マルクス」という名のローマ軍人がキリスト教徒の娘と恋に落ち、彼女を「所有」しようとする (「クォ・ヴァディス」では彼女は「リギア」だが、「十字架の徴」では「メルキア」である)。ネロ、ティゲリヌス、ポッパエアはどちらの作品でも重要な登 場人物であり、ポッパエアがマルクスに肉慾を抱く。作品の結末とペトロニウスが「十字架の徴」には登場しない点が両作品では異なる。ほぼ同時代の小説家チャールズ・ディケンズ が、小説が改作され舞台化されても著作権利用料が支払われないことに不平を書き残していることから、小説を舞台向けに非公式に改作することは、当時一般的に行なわれていたと考えられる。このことから「十字架の徴」が本作の非公式の改作であったと推測することはできる。
「クォ・ヴァディス」に基づいて制作された映画が幾つかある。英語で撮影されたもので最もよく知られているのは、1951年 にハリウッド で制作された「クォ・ヴァディス 」である。
[編集 ] 「クォ・ヴァディス」の登場人物
- マルクス・ウィニキウス (創作された人物)最近になってローマに帰還したローマ軍の大隊長。その到着の折にリギアと出会い、恋に落ちる。彼は彼の叔父ペトロニウスに、彼女を手に入れるための助言を求める。
- カリナ (創作された人物)周囲からは「リギア」 (Ligia) と呼ばれる。いくつかの翻訳では「Lygia」とも綴られる。退位したルギイ族の王の娘で、スラブ系の娘である(彼女の渾名がリギアとなったのはこのことによる)。リギアは公式には「元老院ならびにローマ市民 」の人質である。だが彼女は出身地の人々から忘れ去られて何年も経ている。美しいキリスト教徒の娘として描かれる。マルクスは彼女がキリスト教徒であることを知らずに恋に落ちる。
- ガイウス・ペトロニウス (歴 史上の人物)「典雅の審判者」、ビテュニアの前総督。ペトロニウスはネロの廷臣であるが、彼の機知は常にネロへの阿諛追従でもあり、嘲弄でもある。幾分、 非道徳的で怠惰な人物として描かれる。彼の甥であるマルクスのためにした彼の姦計はキリスト教徒であるリギアの友人によって裏を掻かれる。
- キロン・キロニデス(創作された人物)彼はリギアを見つけ出すためにマルクスに雇われる。小説中でのキロンの役割は重要だが、映画 化にあたって登場することは稀れである。例外としては2001年撮影のポーランド語版があげられる程度である。二枚舌の裏切り者であるが、彼の最期は明ら かに聖ディスマスを基にしたものであろう。
- ネロ (歴史上の人物)無能で狭量な皇帝で、廷臣に操られている。侫臣と道化の言ばかりを重んじる。
- ティゲリヌス(歴史上の人物)近衛隊長。彼はペトロニウスとネロの寵を争い、ネロを唆して様々な残虐な行いを犯させる。
- ポッパエア・サビナ(歴史上の人物)ネロの妻。リギアに対して嫉妬と憎悪を激しく燃やす。
- アクテ(歴史上の人物) 解放奴隷であり、ネロの元愛人。彼女はいまだにネロを愛しているが、今ではネロは彼女に飽き、彼女を無視している。キリスト教の信仰を学んだが、完全に改宗しようとまでは考えていない。
- アウルス・プラウティゥス(歴史上の人物)嘗てブリタニア 遠征を指揮し尊敬を集めるローマの将軍。アウルスはポンポニアとリギアがキリスト教を信仰していることに全く気づいていない(あるいは気にかけていない)。
- ポンポニア・グラエキナ(歴史上の人物)キリスト教改宗者。ポンポニアとアウルスはリギアの養父母であるが、法律上は正式に彼女を養子とすることができない。これは法的にリギアがローマ(つまりは皇帝)の人質であるためである。老夫婦はリギアの養育、保護にあたっている。
- ウルスス(創作された人物)リギアの護衛。彼女の部族の男で、彼女の母に仕え、リギアに献身する。キリスト教改宗者で、彼は自分の強大な膂力を押さえつけ、信仰に従うために苦悶している。よく言うところの「高貴なる蛮人」然とした人物像として描かれる。
- 聖ペトロ (歴史上の人物)年老いた伝道師でありローマそのものを改宗させる使命を帯びている。ネロの絶大な権勢に感嘆する(作中ではペトロがネロを「獣」と名づける)。
- タルソのパウロ (歴史上の人物)マルクスを改宗させることに個人的に興味を抱いている。
- クリスプス(創作された人物)熱心なキリスト教徒
[編集 ] 歴史上の事件
シェンキェヴィチはいくつかの歴史上の事件を引用して彼の小説の中でまとめている。それらの幾つかは正確さの点で疑問の残るものもある。
- 実際には、57年、ポンポニアは「外国の迷信」を行なった科で告発された。これは彼女のキリスト教への改宗を指すとされる。彼女は古代ローマの慣習に従い家庭内の法廷で、彼の夫アウルスによって裁かれ(家父長権 の項目を見よ)、結果として放免されることになる。しかしローマにある聖カリストゥスの墓碑銘はグラエキナの家族がキリスト教徒であったことを示唆している。
- ネロ の唯一人の子ども、クラウディア・アウグスタは、64年に死んでいる。
- 64年のローマの大火 は、作中ではネロの命令によって起きている。しかし、これについての確実な証拠はなく、この時代のローマでは火事はごく日常のことであったことを考えあわせるべきである。