エーイチとアッキョと過ごした夜には、派手な事件もあれば、
なんてことない小さな出来事が、妙に心に残ることもある。
この日の「サプライズ」は、まさにその後者。
大したことじゃないのに、なぜか忘れられない夜の話だ。
エーイチと、市川にある H.Sアートっていうジャズのライブハウスに行った。
ライブが始まるまでだいぶ時間があったから、店の中はガラガラ。
ステージの真ん前でもどこでも座れたんだけど、
俺たちはなぜかステージから一番遠い隅っこの席に座った。
この店が初めてだからって遠慮するようなタマじゃないんだけど、
隅っこの方が落ち着くんだよね。
するとマスターが注文取りに来るんだけど、
「なんだこいつら」って感じがありあり。
まあ、普通の客とはちょっと違う怪しい風体の俺たちだから当然だ。
エーイチはワンショットなんてセコい注文はしない主義。
「IWハーパーをボトルで」
と言った瞬間、マスターの態度が急変。
ニコニコしながら、
「お客さんたち、うち初めてだよね? ジャズ好きなの? ライブよく行くの?」
なんて調子よく話しかけてくる。
すると俺たちも調子に乗って、適当なことを言うわけよ。
「僕はですね、ジャズが大好きなんですよ」
「ライブは大好きですね」
「お気に入りの人のライブなら日本全国どこでも行きますよ」
「先週は名古屋まで冨田さんのライブ観に行ったんですよ」
そしたらマスター、さらに調子に乗っちゃって、
ウイスキー作ってくれたり、ライブスケジュールや名刺まで出してきて、
「ほら、うちもいいのやってるでしょ。ちょこちょこ来てくださいよ」
「いい席空いてるから用意しますよ。さあさあ、どうぞ移動しちゃってよ」
なんて、いきなりVIP扱い。
ほんとにお調子者だわい。
画像はイメージです
ライブも半ばのころ、アッキョが到着。
また例のごとく遠慮なしに生ビールを3杯ぐいっと飲んだところで、
俺に耳打ちしてきた。
「つまらねーから出ようぜ。話あるからさ」
俺も飽きてきたところだったけど、
アッキョの誘いにはトラウマがあるんだよな……
とは思いつつ、まあいいやと店を出た。
ライブに夢中でゴキゲンなエーイチは放置。
アーケード街の真ん中あたりにある、
婆さんが一人で切り盛りしてる焼き鳥屋に入った。
酎ハイを頼むと、手際よくすぐに出してくれて、
「ごめんね、今日はもう大したもんないから、ちょっと待っててね」
と、注文も聞かずに去っていく。
まあ腹減ってるわけじゃないから気にせず酎ハイを飲んでると、
「こんなもんしかないけど、これ食べといて」
と、頼んでもいない焼き鳥を持ってくる。
「おいアッキョ、もしかしてここの常連か?」
「いや、初めてだけど」
いやいや参ったね。
この婆さんもずいぶん調子いい。
一見の俺たちに常連客と同じ扱いだ。
おいおい、と思ったけど──
これがまた旨かった。
気に入ったよ。
ガラケーに残っていた当日の画像
それでさ、驚いたのはこの後だ。
お会計が4500円くらいだったんだけど、
お会計が高いってわけじゃなくてさ、
おーーー
サプライズ!!
なんとアッキョが金払ってくれた。
25年の付き合いで初めての出来事だった。
ところでアッキョの「話があるからさ」ってのは何だったんだろう。
謎。

